最終決戦編 -2
それから、およそ二年が過ぎた七歳の誕生日、ラズリはカーテンを閉め切った暗い部屋の片隅で蹲っていた。そして、母親が皿を扉沿いに置き、立ち去っていく音をじっと聞いていたラズリは、扉を少し開けて覗いた先の、鼻奥を透き通る甘い匂いに目を奪われていた。
「お母さん…私のために…。」
それは、母親が王都で買ってきたショートケーキだった。誰もが当たり前に持つものを持たない怖さに意気消沈と部屋に引きこもっていたラズリは、当たり前の祝福を感じた瞬間、温かな鼓動が目を潤ませる。
気づけば、扉を勢いよく開け、ショートケーキが乗った皿を両手で持って立ち上がっていた。そして、大きく息を吸い、ゆっくりと踏み出した。
ラズリは笑みを浮かべながら、恐る恐る足を踏み進め、母親の前に姿を現す。
「今まで…ごめんね。これ、一緒に食べよ?」
──魔法が使えないことは無力の理由にはならない。だって、私が欲しかった当たり前は、ここにあるから。
その日、ラズリは強くなることを心に誓った。
しかし、強さを証明するための魔王討伐が不可能となった現在、彼女は波音を掻き消すように立てていた空虚な足音を止める。
「弱者救済は贖罪にはならない。そして、私が願う平和な世界に勇者はいらない。」
そのとき、五月雨が明けた朝凪の海に、黒い光沢を魅せる姫鵜が舞い降りると、白い紫丁香花が”僥倖への反逆”に彩る陽光を浴びる。
天使の加護、”不屈”。──無力を乗り越えた者に与えられる聖なる力。
避難民の血によって薄まることなく受け継がれ、千と一年の時を経て覚醒した悪魔因子は、ラズリに無属性という呪いをかけた。しかし、それは期せずして彼女を天使と巡り合わせたのだった。
「行かなきゃ…。」
ラズリは強張りの抜けた無表情のまま、濤声に背を向けて歩き出す。




