陽暈の盾編 -4
ヴァイスが瞼を一つ瞬かせた瞳には、逃げるように滑り去る影の余韻を残し、赤く染まる彼岸花の花束を支え持つように、ソナを抱きかかえる老翁の姿が映る。
「ソナ…。どうして君は…私の顔を見た途端、安心したように眠るんだ?無知なる愛を遠ざけ、幸せを端から願うことしかできなかった、この私を…。そんな顔をされたら私は…私を責められないじゃないか。本当は…君の幸せの中に居たかった。でも、君の旅立ちを見守ることが父親としての役目だと、格好つけていたんだ」
ソナを抱えながら、崩れ落ちるように膝をつき、泣きじゃくる老人の声が、ヴァイスのギュッと押し殺された鼓動を走らせ、枯らした喉に呻き声を突き刺す。
「嫌だ…死んじゃ嫌だよ。お母さん、居なくならないで…」
赤く染まったミモレフレアを握りしめながら、ソナの顔を見つめるヴァイスの手足は激しく震え、溢れ止まない涙を忘れた掠れ声を浅く吐き続ける。鮮明だったはずの脳裏に過る母の笑顔は、まるで紫炎に焼き尽くされ灰塵と化したように、閑やかに眠る表情だけを炙り残して消えていく。その灰を見失わないように、ヴァイスは必死に手を伸ばし、掴み取ろうとする。それは徐々に、目を逸らした現実から遠ざからせ、やがて意識を失い、地に倒れ伏せた。
目を覚ますと、白塗りの天井が映っていた。手に温もりを感じたヴァイスが起き上がると、傍には老人が座り、ヴァイスの手を握っていた。
「ヴァイス君。君が無事で良かった。私の名はクリム・シュヴァール。君の母、ソナの義理の父だ。彼女とは血の繋がりはないが、それでも大切な家族…。今は何も考えなくていい。ただ、私を君の傍に居させてくれ」
お母さんはどこ?──あれから十三年…。あのとき、俺の瞳に映っていたのは、空白となった日常。そこに入り混じる絶望と憎悪。その現実をすぐに受け入れることは出来なかった。でも、目が覚めた時からずっと、シュヴァールさんが傍に居てくれたから、一人じゃないって思えたし、希望を信じられるようになったんだ。




