陽暈の盾編 -3
ソナは玄関脇に立て掛けられた長竹箒を手に取り、穂先を魔人に向ける。
「聖魔力纏い」
柄を握るソナの手から、糸を絡めて縫い仕立てるように、純白に染まった魔力は箒を伝う。そして、魔人の手のひらから放たれ、勢い良く迫り来る紫炎を跳ね返すように、その箒を大きく振り上げる。すると、紫アヤメの花びらが春風に吹かれて散り落ちるように、紫炎は純白の魔力に打ち消され、自然魔力に還っていく。
それから、まるで風に吹かれた豪雨の中をレインコートを着て走り続けているかのように、ソナは何度も何度も箒を振り、紫炎を薙ぎ払った。
やがて、その雨が上がると、夕暮れが水平線の彼方に落ち、紫紺に染まる薄暮の海に映る箒星の旅路を名残り惜しむように、ソナが震えた手で握る箒から純白の魔力が消えていく。
「ヴァイス、ごめんね」
爪を突き立て、忌々しく燃え盛る紫炎を纏った魔人の腕が箒の柄を突き割り、ソナの心臓を貫いた。
「この時を待ち侘びたぞ。俺の眼には、お前の微々たる魔力量も、それが尽きる瞬間も見えていたのさ。これこそ、渇望した邪悪の愉悦だ」
立ち塞がる紫炎の向こう側に向かって「助けて」と必死に叫ぶヴァイスは、雨上がりの空の下、葉に残る雫が落ちる小さな音に耳を澄ますように、ソナの微かな声にふと振り向く。
「お…母…さん?お母さん」
垂れ流れる真っ赤な血で染まっていくミモレフレアを見つめながら、ヴァイスはソナの方に向かって走り出す。涙で息を詰まらせ、足をふらつかせながら、必死に手を伸ばす。
いかないで。──ヴァイスは何度も何度も心の中で、そう叫び続けた。
「誰か…助けて。誰でもいいから、お母さんを助けてよ」
そのとき、ヴァイスの枯らした声に共鳴するように、町を囲んだ紫炎が靡き、空気が揺れた。




