魔法学校編 -3
グラートは、まるで赫閃が揺らめく星の欠片のような、その不格好な飛行魔法を呆然とした面持ちをしながら、目で追いかける。
勢いだけの制御不能の飛行…。やはり、あいつは面白い。だが、何をする気だ?
ヴァイスは拳を握りしめ、振りかぶる。
「炎魔法、フレイム·ブロウ」
拳から燃え上がる炎は蛇が巻き付くように渦巻く。緋色の蛍火のような、その小さな炎の拳は、空を喰らう怪物のような淡碧の氷塊に衝突し、白霧が噴き舞う。
気づけば、ヴァイスは空を見上げて倒れていた。炎魔力防御が解け、冷気が肌に触れる。荒く吸い込む空気が喉を突き刺し、白い息が視界を曇らせる。耳に残るのは、凍った水たまりを踏みつけたようなバリバリという音と自分の荒々しく掠れた叫び声だけだった。
はっとしたように、腕の痛みに耐えながら起き上がろうとするヴァイスを見て、グラートはため息をつきながら近づいて来る。
「もう十分だろう。今のお前に足りないのは強さではない。自分を許す弱さだ」
春暁に照らされ溶けゆく雪のように、ヴァイスは全身の力が抜け、両手を広げて仰向けになる。
俺は…負けたんだ。
湖畔を撫でる朔風のように、グラートはヴァイスのそばを静かに通り過ぎ、立ち止まる。そして、背中越しに視線を向ける。
「遠久の彼方でも、俺はそこにいる」
その声は、ヴァイスの赤みを帯びた冷たい耳に吹き込む。そして、グラートは空へと吹き舞う旋風に乗って、あっという間に消え去った。
そうだ、まだ終わってない。行かなきゃ。
拳を握りしめながら、ヴァイスは立ち上がる。フードを深く被り、マフラーを口まで覆うように引き上げ、歩き出す。