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魔法学校編 -1

  散りたどふ 紅秋桜(べにあきざくら) (たわむ)れゆ

         往古爽籟(おうこそうらい) 白き月影



 肌が凍るように冷たい風が頬に触れる。広大な雪原に一人、ヴァイスは雪を踏みしめる音を響かせながら歩く。彼はフードを深く被り、マフラーを口まで(おお)うように引き上げている。

 そして、白い息を吐きながら、遠くの空を見つめる。その瞳の奥には、幼き日の母の純粋な笑顔が(おぼろ)げに浮かび、消えていく。


 炎魔力防御(フレイム・ソリッド)


 魔力が熱を帯び、心臓に灯された炎が鼓動とともに血管を巡るように、全身を温める。周囲に降り積もる雪は(またた)く間に溶け出し、(しら)む蒸気となって舞い上がる。

 ヴァイスはホッと白い息を吐きながらフードを脱ぎ、マフラーを首元まで下ろす。

 辺りは相変わらず真っ白の雪景色が続き、蛇の尾のように雪解けの足跡だけが伸びていく。

 そのとき、ヴァイスの瞳に映る、遠く揺らめく地平線に白い竜がうねるように地吹雪が舞っていた。大地を揺るがす轟音が空気を震わし、風のうめきが足下から伝わってくる。


 誰かが戦っている…。そう、ここは戦場だ。魔法学校の入学を賭けた宝の奪い合いが、もう始まっている。


 ヴァイスは深呼吸をし、汗ばむ拳をぎゅっと握りしめる。


「行くか」


 魂を呼び起こすような心臓の高鳴りに背中を押され、一歩を踏み出す。



 (まゆ)のように満ちた雪霧(せきむ)の中には銀蝶(ぎんちょう)が羽ばたき、渦巻いていた。足元の白雪には羽を散らした朱色の蝶が混じる。


「炎魔法、フレイム·インフレーション」


 淡雪(あわゆき)絹糸(きぬいと)(ほど)け、視界を覆い尽くしていた銀粒(ぎんりゅう)優雅(ゆうが)な雫となって、空に舞っていく。

 そのとき、開けた上空から迫る人の気配が、ヴァイスの背中を凍りつかせる。まるで、猛獣が牙を見せつけ、よだれを垂らしながら獲物を(にら)みつけるような鋭い視線だった。


「俺が持つ宝の芳香(ほうこう)(まど)わされ、迷い込んだ盗賊よ、身の程を知るがいい。だが、少しは楽しめそうだな。俺の名はノルク・グラート。お前の名を聞いておこう」


 グラートは地に降り立ち、ゆっくりと歩き迫る。その足音一つ一つが、水に浸かっているような重々しさと息苦しさを伝え、ヴァイスは息を呑む。


「クリム·ヴァイス」


 ヴァイスの瞳の刹那(せつな)、グラートが吐く細氷(さいひょう)の息吹と共に、白銀(はくぎん)の大地はグレイシャーブルーに染まる。


「一級氷魔法、アイステルス·ケラス」


 グラートが氷の大地に手のひらを添えると、溢れる冷気が一気に鋭く(とが)った氷塊を形成し、ヴァイスの眼を穿(うが)つ勢いで大地から突き立つ。背を()り、紙一重で後ろに避けた(つか)の間、ヴァイスはその氷の造形に魅了されたかのように、唖然(あぜん)としていた。そのとき、荒涼(こうりょう)とした草原の影に潜む虎のように、もう一つの尖氷(せんひょう)が視野の外から現れ、吹き飛ばされた。


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