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魔法学校編 -6

 忙しない白息吹を荒く吐き連ねながら走るヴァイスは、高く見上げる程に目前の青い光をぼんやりと奥に透かした白霧を前に立ち止まる。そして、後ろを振り返り、足跡をなぞるように雪道を見る。


 積雪が浅い。そして妙に、息を潜める人の気配が漂う。

「待ち伏せか。確かに、ここは宝を持たない者にとって絶好の狩り場。」


 ヴァイスは全身を炎で包み込むと、腰を低く沈め、走る構えを取る。


「炎魔法、サーペント·スティル。」


 深呼吸の奥底で鳴る大太鼓の重低音のような鼓動を合図に、炎が激しく燃え上がっている後ろに引いた右足を蹴り出す。素早く、軽やかに走るヴァイスは、まさに滑らかにうねる蛇のように、立ち潜む人影を置き去りにしながら霧を突き抜ける。

 その先に現れた、空に浮かぶ巨大な魔鉱石から放たれる、澄み切った青い光が照り貫く大きな穴に向かって、ヴァイスは大きく一歩を踏み出し、飛び込んだ。


「あれから十年…。希望の扉は開かれた。陽翼の皇剣(ヴェリエル)の戦士に俺はなってみせる。」


 両手両足を広げ、優しく吹き上がる風に乗って、ヴァイスは緩やかに舞い降りていく。

 魔法学校入学試験会場、天空都市(ペンテウルブス)、雪原エリア地下層、試験官室。特別試験官と書かれた名札を首から吊り下げた老人は、ヴァイスが穴から降りてくる様子を窓から眺めていた。


「三人目。今日、最後の合格者か。」


 老人はフッと小さな笑みを溢す。

 入学試験から一ヶ月が経った今日、魔法学校の正門、威厳を染めた黒一色の木柱で泰然と高くそびえ立っている高麗門の前に、ヴァイスは立っていた。

 見上げる瞳が描くのはトランペットが奏でる豪華絢爛な音色に駆られ歌い踊る情熱と、青々しい海岸を写し出すシャボン玉が、桜木の香る風に乗って舞い戯れる風景。


「この小さな一歩から…始まる。」


 唇に少し力が入り、口を噤むヴァイスは、靴のつま先を見つめながら息を呑み、その一歩を踏み越える。

 それは、地を踏む足音を彩る鮮やかな風景の一瞬に、沈黙の雫をポツンと落とし、無彩色の水紋を滲み渡らせた。モノクロ写真のようなその無常な日常が、秋麗にありふれた落ち葉のように幾重にも積み重ねられ、気づけば、三年が過ぎていた。


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