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銃とクジラと女子高生

作者: 昼月キオリ


宮野「それ以上近寄るな!来たらこの女の命はないぞ!」

警察「落ち着きない!分かった、分かったから要件を聞こう」

宮野「一億と船を一隻用意しろ、食糧や水も、今すぐだ!!」


バスの中。

私は今、バスジャック犯に銃を突き付けられている。

 

皐月(さつき)。高校一年。


今目の前にいるのは紛れもなく殺人犯だ。

金を盗む為に二人殺している。

年齢は30代後半。見た目はやつれていて髪はボサボサ、くたびれたTシャツとジーンズは汚れていて汗の匂いがする。


しばらくして宮野と警察に呼ばれたその男は金と船と食糧を渡された。

男が私を警察に引き渡そうと私の背中をトンっと押した。

背後から数名の警察が銃で男を狙っている。

"このままではこの人が撃たれてしまう"

直感的にそう思った私は男が背を向け、船に乗り込む瞬間走った。


数分後。

宮野「お前、何でわざと人質になって捕まるようなまねをしたんだ?」

皐月「だってあなたが撃たれてしまうと思ったから」

宮野「はぁ?お前自分の立場分かってんのか?

俺なんか撃たれたって問題ねーだろうよ、

だいたいお前、最初の時も自ら人質になりに来たよな?」

皐月「何の話」

宮野「しらばっくれるな、最初一つ後ろの席に座っていたのにわざと近付いてきただろうが、

何でそんなことした?」

皐月「一人ぼっちで寂しそうだったから」

宮野「は?・・・」

 

"何言ってるんだこの女・・・正気か?"


宮野「お前、分かってんのか?俺は殺人犯だぞ、

しかも男だ、そんな奴に捕まったらどんな目に合うかくらい分かってんだろ」

皐月「うん、だから好きにしたらいいよ」

宮野「バカじゃねーか?自分が傷付いたら悲しむ奴がいるとは思わないのか?」

皐月「いないよ、私が傷付いても悲しむ人なんて」

宮野「お前親は?」

皐月は制服の袖を捲り、腕を見せた。

片腕だけで何箇所もアザがあり、さすがの宮野も血の気が引いた。

宮野「おい、何だそりゃ・・・家庭内暴力か?」

こくんと皐月は頷く。

皐月「親もクラスの人も私が嫌い、だから殴るし罵倒する、私には居場所がない」

宮野「そうか、そりゃ悲惨だな」

宮野は半ば棒読みで言う。

皐月「だからあなたの好きにしたらいい、セックスも必要なら付き合うし」

宮野「はー・・・俺はお前みたいなションベン臭いガキはごめんだ」

皐月「ふーん」


船に乗って三日後の朝。

二人は海でクジラに出会った。

「ピュウピュウ」

まだ子どものようで体が小さい。船に近寄ってきた為、

宮野が銃で撃とうとする。

皐月「だめ!撃たないで!」

クジラの前に皐月が立つ。

男は一瞬皐月を睨んだ後、銃を下ろした。

宮野「はー・・・分かった」


それから一週間が経った頃。

「ピュウピュウ!」

一緒に過ごしているうちに次第にクジラが懐いてしまったらしい。船の周りをすいすいと泳いでいる。


皐月がクジラとお喋りしていることには気にも止めず

宮野は遠くの海を見つめながらぼんやりと考えていた。


"俺はこんなとこで何やってんだろうな

金盗んで人殺して女子高生誘拐して、終いにゃクジラにエサやって・・・はは、笑えてくる"

 

宮野が突然自首をすると言い出したのは船に乗ってからニ週間後のことだった。

食糧は一か月分積んであったがそれよりも先に宮野は自首を決意したのだ。

宮野は殺人と誘拐の罪ですぐさま刑務所へ入れられた。

 

皐月は家に帰らず警察に家庭内暴力のことを話し、無事に保護された。

そして半年後、皐月は宮野に会わせて欲しいと頼み込み刑務所に向かった。

なぜ会おうとしているか聞かれ、罵倒する為と表向き取り繕った。


ガチャ。

宮野は刑務所の硬そうな床に座って俯いていた。

宮野「なんで来た」

皐月「あなたに話したいことがあって」

宮野「あのなぁ、俺はお前に銃を突き付けて誘拐した男だぞ?人だって殺してる」

皐月「そうね、あなたは今まで沢山悪いことをしてきた、でも私、クジラと過ごした日々に楽しさを確かに感じてた、

言いたかったのはそれだけ、それと私の名前、お前じゃなくて皐月」

宮野は皐月が扉を閉めて出て行くまで不意打ちを喰らったようにぽかんと口を開けていた。


6年後。

俺は刑務所を出た後、山奥で自給自足をしながらひっそりと生活をしている。

古い民家をタダで提供していた為そこに住むことにした。

かなりガタはきているが住めなくはなかった。

倒れたら、まぁそれまでだ。


ある日突然、皐月は宮野の家を訪ねた。

最初来た時、宮野は怪訝そうな顔をした。

クワで畑を掘りながら顔も見ずに言う。

宮野「何しに来た、というかなんで俺の居場所を知ってやがる?」

皐月「ネットで調べたら出てきた」

宮野「はぁ・・・で?こんな山奥まで何の用だ?」

皐月「クジラのプリン、食べてもらおうと思って」

宮野「クジラのプリン?」

皐月「私今プリン屋さんで働いてるの、それで、クジラのプリンって看板メニューがあったから持って来た」

宮野「はは、何だそりゃ、それだけの為にわざわざこんなへんぴな場所まで来たわけか

こんな真夏にご苦労なこった」

ジリジリと焼け付くような日差しと蝉の鳴き声。

ミーンミーンミーン。

皐月「とにかく、早く食べましょう、プリンが傷んじゃう」

宮野「俺はいい、お前が二つ食べればいいだろ」

皐月「でも・・・」

皐月は急に目眩を起こし、足がふらついたかと思った次の瞬間。

バタンッ!!

宮野「え、おい!?」


・・・。

宮野「熱中症だな、ったく暑いのにこんな場所来るから」

皐月は畳に寝かされていた。

皐月「プリンは?」

宮野「プリンなら冷蔵庫に入れてある」

皐月「そう、良かった」

宮野「自分がぶっ倒れてるってのにプリンの心配かよ、お前は人の心配ばっかしてないで自分の心配したらどうなんだ」

皐月「心配してくれてるの?」

宮野「何でそうなる」

皐月「なんとなく」

宮野「お前まだ実家にいるのか?」

皐月「ううん、あなたと離れた後、警察に家庭内暴力のこと話したの、それで保護してもらった」

宮野「へー、そりゃあ良かったな」

皐月「プリン・・・」

宮野「はー、分かったよ、食えばいいんだろ食えば」


宮野は冷蔵庫からプリンを二つ運んで来て傾いたローテーブルに上に乗せた。

座布団さえ敷かれていない畳に直に座る。

冷房は壊れていて扇風機だけがガタガタと音を立てて回っている。

近くに大きな木が太陽光を遮断しているからか部屋の中は扇風機だけで充分涼しかった。

箱を開けるとプリンは形を崩してはおらず奇跡的に無事だった。

下の三分の二が普通のプリン、上にラムネ味の青いゼリー、そして更にその上にクジラの形をした琥珀糖が乗っている。

目もついていてなかなか可愛いらしい見た目をしている。


宮野「へー、なかなか洒落てんな」

皐月「うん、お店ね、あの日船に乗った海岸付近にあるの」

宮野「そうかい」

  

無言でクジラプリンを食べ進める二人。

宮野「食ったら帰れ、それと二度と来るな」


部屋を出て玄関に二人立つ。

皐月「また来る」

宮野「話聞いてなかったのか?俺は来るなと言ったんだ、お前はもう俺なんかにこれ以上関わるな」

皐月は黙ったまま玄関の扉を開けた。

宮野「皐月、プリン美味かった」(ぼそ)

ミーンミーンミーン。

蝉の鳴き声が大きくなる。

宮野の声が聞こえたのかいないのか皐月は振り返ることなく歩き出した。


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