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卯月 歌子(うづき かこ) 29歳4ヶ月

卯月 歌子…うづき かこ

あっちゃん…歌子の姉

りみちゃん…あっちゃんの親友




 それは突然だった。

蒸し暑い8月は、もとより体調を崩しやすく、昨年なんか6月ごろから貧血で苦しんだかと思えば、8月には流行りウイルスの後に胃腸炎で、元気だった日なんか月の半分足らずだった。



 ああ、いつもの波が来たのか。

そう思っていた。



ーーーーーーーー


 インフルエンザのA型に一月の間で二回なり、免疫が落ちている事から何度も色んな検査をされた。



「卯月 歌子さーん」


 病院の待合室で聞こえる看護師さんの声に目を向けると、続けて三番診察室にどうぞと言われ、気だるく重い体に鞭をうち私は診察室に入った。



「今日は誰かと来られてますか?」


「はい、母と」


 いい歳をして彼氏はおれど、籍も入れず、同棲もせず、未だに実家で母と二匹の犬と暮らしている私は、その日母と病院に来ていた。

とても一人で運転して行くには体がだるすぎて、集中出来なさそうだったからだ。


 前もって検査日は決まっていた為、母にも休みを取ってもらい、病院まで付き添ってもらっていた。



「では、お母様も呼んでいただけますか」


 私より少し上くらいの若い男性医師は、ちらちらとモニターを見ながらどこか重々しい空気でそう言った。

察しろと言う事なのだろうか。


 とうとう私も何か大きな病気にでもなったのか。

そう感じるには、私の周りの環境が十分すぎた。




 少し姉の話に飛ぶが…

 私には16歳離れた姉がいる。

姉は私が生まれる頃に全身性エリテマトーデスという難病にかかっており、私が小学生の頃には何度も入退院を繰り返していた。

 未だにどう言う病気なのか、よく理解できていないが、免疫の病気というのは大体の枠組みで理解していた。


 だからか私もそれには敏感で、微熱が続いたり、体が怠いことが多いとすぐ病院に行って血液検査までお願いしていたくらいだ。


 そして、姉のお見舞いに行くといつも色んな人がいた。

大きな国立病院だったから当たり前なのは当たり前なのだが…

未だに強烈に覚えているのは、おそらく私がまだ小学生にも満たない頃だろう。

 よく私を可愛がってくれるおじちゃんがいた。

元気なおじちゃんで、容姿はあまり幼すぎて覚えてないが、いつも車椅子だった。


 足が悪いのだろうとは幼いながらも感じていたが、ある日いつものように私達が帰るのを下まで降りて見送ってくれてた時の事。


『歌子ちゃん、おいで』


 ふとおじちゃんから呼ばれて、とことこと近くに寄ると、おじちゃんは徐ろに自身の左足を分断した。

少し年を重ねていたら分かる。義足だったのだ。

後から聞いた話、歌子ちゃんは泣くだろうかと姉たちと話していたらしい。


 今思えば、皆で相談までして、そんな幼な子にどう言う心理で途切れてる足を見せるに至ったのか疑問である。

一歩間違えばトラウマになったかもしれない。

可愛がってる女の子が自分の事を怖がってしまうかも知らないのに、これも人生経験として積ませたかったのだろうか。


 だが、私は皆の予想とはかけ離れていたようだ。

泣きも驚きもせず、手をおじちゃんの足に添えて

「足、痛い?」

と、心配していたらしい。


 流石に自分の反応までは覚えてないが、昔から肝が据わっていてあまり動じない子だった。



 そんな姉の親友は、18歳で白血病になった元気なお姉ちゃんだった。

私は二人のことが大好きで、姉の事はあっちゃん、そのお友達の事は、りみちゃんと呼んでいた。

 りみちゃんが病気だった事も、髪の毛がウィッグだった事も小学生の頃に知った。

話してくれて知ったのではなく、りみちゃんが泊まりに来てる時に、バックやランドセルをかけていた上着掛けの上の丸い部分にウィッグが掛かってて、病気だったのを知ったのだ。


 その時は起こしに行った時に、髪の毛だけ先に見つけたから流石に驚いた。





 そんな訳で、私の周りには姉や姉の周りに続き、祖母も祖父も病気の人が多く、明日は我が身の気持ちが自然と身に付いていた。


だから、この目の前の医師がとても言いづらそうにしていても、全然気にしなくていいのに、の気持ちだった。


 私の中で二つ、これかなと思う病気があった。

姉と同じか、癌か、だ。




 少しして母が診察室に入ってきた。

どこか顔色が悪い。母の方が準備が出来ていないようだ。

それもそうか、姉の時も自分が変わってやりたい、健康に産んであげられなかったと嘆いていたらしいから、まさか末子までも…と考えているのかもしれない。

 もしくは金銭面での不安か。


 そんな母を見て、私は少し申し訳ない気持ちになった。

わざわざ母を呼ぶと言う事は、きっと悪い知らせだろう。ただでさえ手がかかる子だったのに、また健康に産んであげれなかったと思わせてしまうかもしれないと思うと、ちくんと胸が痛んだ。




 母が座ったタイミングで、医師は改めてこちらを向き直し、重い口を開いた。



「歌子さんの検査結果ですが…


…癌です」












ご覧いただきありがとうございます!

のんびり投稿ですが、暖かく見守っていただけると幸いです。


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