009 嘘つける知能はないらしい
だからといって、借金を踏み倒して良い理由にはならない。
「うるせェよ。さっさとカネ出せ」
氷狩は苛立ちを露わにしながら、彼女がカネを出すのを待つ。
「分かったわよ!!」
逆ギレされる者の気分にもなってほしいものだな、と思いつつ、よくよく考えてみたら、交番にカネなんてあるのか? という疑問も感じる。
そのとき、
氷狩は直感で感じ取った。彼女が振り返り、拳銃を向けてくるという未来を。
なので、氷狩は彼女に蹴りをくわえる。足を撃たれたばかりの警官の女は、その場にへたり込んだ。
「いったぁ!!」
「オマエ、ここでおれのこと殺すつもりだっただろ? 当たり前だが、500万円くれェのカネなんて交番にあるわけねェしなぁ」
ますますムカつく女だ。仕方ないので、氷狩は倒れる彼女の警察手帳と免許証を抜き取る。
「等価交換だ。返してほしけりゃ、きょう中にATM行ってカネおろしてこい」
「500万円なんて、払えるわけない……」
「安心しろ。おれァ、金貸しも知ってるからな。10日で1割だ。低金利だろ?」
足をへたり込ませ、彼女は屈服するのだった。
*
「神谷、あの馬鹿女カネ持ってなかったぞ。あの金融屋を紹介しておいた」
『分かったわ。回収、お疲れ様。報酬は手渡しね』
「ああ」
氷狩は手短に通話を済ませ、タクシーへ乗って自宅に戻る。
(馬鹿過ぎて、半グレじみた方法でしかカネを稼げない。しかも、よく分からん並行世界へ来てしまった。これからどうすりゃ良いだろうな)
悩みだらけの氷狩は、自宅につき、ドアを開ける。
そこには、顔が火照っている神谷海凪がいた。ゴミ箱が荒らされているので、おおよそなにをしたのかは分かる。
もう嫌味を言う気にもなれない。氷狩は、「用がねェなら帰れよ」とだけ伝えておく。
「ち、違うわよ? 私は決して貴方に発情してないわ──」
「ああ、そうかよ」
呆れた態度で、氷狩はティッシュのゴミを拾う。
「ねえ、氷狩……」
気まずそうな態度で、神谷が話しかけてくる。
「なンだよ」
「私のこと、嫌い?」
「前いた世界のオマエに比べりゃ、まだマシだとは思うけどな」
「それってつまり──」
「ああ、嫌いではないが好きでもない。なんだかんだ言って、オマエ美人だしな」
神谷海凪は、美形だ。髪色は茶色く、鼻筋がしっかりしていて、目も大きい。小学校の頃からの幼なじみなので、あまり顔立ちの評価は考えたこともないが、まあ美人なのだろう。
「ほ、ホント?」
「嘘つける知能はねェんで」
「だ、だったら、私たち──」
「付き合わん」一刀両断し、「それより、おれへインストールした能力の詳細をくれ。勘が鋭くなって、おめェのピンク色の脳内が視えて嫌気が差す。それに、擬似的な未来予知もできるみてェだ。いったい、どんな能力なんだよ」
神谷は露骨に悲しそうな表情になりながらも、
「ええ……その能力は、シックス・センスよ」