048 良く分からない現象のようだ
そう、大物は隠れている。火柱恋花は、まだ氷狩の知り得ない場所にいるのだ。
だからこそ、
サラの情報源が必要になってくる。彼女の隠れ家は抑えてあるので、あとは向かうだけである。
そんな最中、
「おっと……?」
火、が氷狩の周りに現れた。小さな火種は、やがてアスファルトの上で咲き誇るように燃え盛る。
しかし、ここでやられたらシックス・センスの名折れ。氷狩は近くにいる意思を解析し、即座に犯人を見つけ出した。
「ったく、半グレ風情が……あたしのシマで好き勝手してるんじゃねえよ!!」
日本人らしい黒髪ロングヘアをまとめていて、目は怪しく光る三白眼。めくったシャツの向こう側から見える、無数の和彫り。
「はッ。大ボス登場ってわけか。こりゃあ良い。わざわざ解析してもらう必要がなくなったよ」氷狩は炎と化した火種を意思の〝改ざん〟で消し去り、「暴排条例でなにもできねェオマエらの時代は、とうの昔に終わってるんだよ」スマホを叩きつける。
「まだ始まってすらいねえよ、あたしの時代は。極道の時代は!!」
「外道の間違いだろ」氷狩は嘲笑う。
というわけで戦闘が始まった。とはいえ、氷狩は今〝道具〟を持っていない。タクティカルペンだけで、四方八方に炎を撒き散らす災害に敵うか、という話になってしまう。
となれば、だ。
撤退か、仲間を呼び寄せて闘うか。
氷狩はふたつにひとつの選択を迫られ、
やがて、
近くでよれていた佐田希依の意思にアクセスしてみる。
が、
(……駄目だな。あのアバズレ、寝てやがる)
佐田希依からの返信はなかった。氷狩は手を広げ、
「おい、火柱恋花。海藤美奈を獲った男は、誰だと思う」
犬歯が見えるほど笑った。
あえて煽ることで、意思が揺らぐのを狙う。揺らげば、いくらでも反撃はできるし、逃げることだってできる。
「あぁ? いきなりクイズか?」
「刑務所の中でボケちまったアンタには、ピッタリだろ。ほら、頭使えよ」
「ああ……そういうことかよ」
刹那、氷狩は未来を見た。回避不能としか思えない速度で、詰め寄ってくる炎の槍が氷狩の胴体を貫くという未来である。
「悪いが、そこまで短気じゃないんでね!! だが、海藤組長の敵討ちはさせてもらうぞ!! 腐れ外道がぁ!!」
「──!!」
そのとき、
氷狩の周りに、オーロラのような現象が舞い散った。それは見た目とは裏腹に暖かく、当然美しい。
そして、
氷狩の近くにあった車が、火柱恋花にサイコキネシスのごとく直撃した。




