046 アウトローには後も先もないようだ
(……感知できなかったか)
冷静に物事を捉える。氷狩の背後には、おそらく彼へ私怨を持つ者が拳銃でも突きつけている。この業界にいれば、いくらでもあり得る話だ。もっとも、パラレルワールドに入り込む前はハンドガンなんてそうそう簡単に手に入る代物でもなかったし、シックス・センスという異能力もなかったが。
「目的は?」
あっけらかんとした、言ってしまえば関心のないような声色で、氷狩は敵性に訊く。
「貴方の首獲って、マッド・ドッグに帰ること」
「なるほど、マッド・ドッグか。こりゃあ、敵作りすぎたな」
こうなると、氷狩にできることは限られてくる。どこかにスナイパーでもいれば話は別だが、いかんせん意思の改ざんというオオゴトをこなすには、それなりの時間が必要だ。
(……いや、待てよ。シックス・センスでテレパスの真似事ができるんじゃないか?)
なにせ、意思を送信やら受信できる能力。であれば、テレパシストみたいな能力を使えるかもしれない。
時間は有限。なら、さっさと試すほかない。他の方法も捨てきれない以上は。
『山手、ピンチが来た。窓から見りゃ分かるだろうけど、大ピンチだ。なんとかしてくれないか?』
そう念じてみる。
当然、確証なんてものはない。そもそも山手に届くかなんて、さっぱり未知の世界だ。
さて、意識をこちらに戻そう。
「そこのコンビニの裏行って。ここだと、いつ狙撃されるか分からないから」
「ああ、案外ビビリなんだな」
「ビビらず死んで、それになんの意味があるの?」
「そりゃあ、正論だ。舌を巻いちまうよ」
「分かったら、動いて。私にはもう後がない」
「なら、ひとつ教えておこうか」
『了解。〝オート・エイム〟で狙撃するよ』
「オマエが誰だか知らんが、まさかアウトローに先があると思ってるのか?」
パコン、という小気味良い音とともに、彼女の頭蓋骨は粉々になった。背中の拳銃もなくなったわけだ。
氷狩は何事もなかったかのように、
「この世界の銃刀法はどうなってるんだ?」
ひとまず、あたりに監視カメラがないことを視認し、氷狩は立ち去るのだった。
*
「ッたく、元マッド・ドッグの女か」
氷狩はコンビニで買ってきたタバコのカートンを開け、山手夕実の部屋で紫煙にまみれる。
「で、証拠は残るのか。山手」
「残んないよ。この銃弾、マッド・ドッグ製だもん。警察もブルって動けないんじゃない?」
「警察が芋引くレベルの権力か」
「そりゃ、国家権力通り越してアメリカやロシアとかと取引してるレベルだし。武器や兵器の数も自衛隊より多いんじゃね?」
「恐ろしい時代だよ」
タバコを捨て、氷狩はソファーにもたれる。
イリーナはさも当然のように眠っていた。放っておくと何十時間眠るのか興味が湧くほどだ。
「けどまあ、当面の敵は海藤組の残党どもだ。そこから思いがけない収益が出るかもしれないし」
「おお、乗り気だね」
「しゃーないだろ。半グレなんて、そんなモンだ」




