040 相性が良いっぽいな
「七王会の連中はマジだな。だけど、たった6000万円だけしか値札がつかないのは不満だぜ」
「そういう問題じゃないでしょうに」
「というか、なんでオマエのほうが高いんだ? 喧嘩したのはおれなのに」
「私が命じたとでも思い込んでるでしょ。ああ、厄介だわ」
とぼける氷狩だが、同時に危機が迫ってきていることを肌身に感じた。10000人からなる関東七王会が、総額1億4000万円のために動かないはずがないからだ。
「これからどうするよ」
「夕実がパスポートを用意したわ。台湾にでもガラを隠しましょう」
「そりゃあ、どれくらい続く?」
「5~6年でしょうね」
「長げェな」
「貴方、ヤクザの親分殺ったのよ? 短すぎるくらいでしょうに」
「つか、あっちの言語なんて分かんねェよ。どうやって生計を立てる? いっそのこと、ヤクザになったほうが良いんじゃねェの?」
「今どき、ヤクザになんてなったら良い笑いものよ。暴排条例で組の名前も名乗れない。携帯も持てなきゃ、口座すら作れないんだから」
とても困った。今、氷狩たちができることは限られている。
ひとつ、海外に身柄を移す。
ふたつ、七王会の傘下に下る。
みっつ、このまま日本に残って、日本最大の極道と闘う。
どれを選んでも、将来の破局は避けられない。半端な不良が本物の悪者に逆らうと、こうなるのだ。
遠くを見据えながら、氷狩が言う。「なあ、神谷」
「なにかしら?」
「結局のところ、ヤクザはメンツの生き物だろ。今回、おれたちに懸賞金を懸けたのも、イリーナのいた〝マッド・ドッグ〟へメンツが立たないから。そもそも、海藤美奈をやられたことへのカエシってわけでもない」
「それはその通りだけれど……、マッド・ドッグを叩くのは現実的とは言えないわ」
「本当にそう思うか?」氷狩はジッと彼女の目を見て、「七王会だって乗り気じゃないんだよ。番犬である以上出張らないとならねェけど、ジジイ……いや、この世界じゃババアだらけか? ともかく、共同謀議で長い懲役に耐えたくはないだろうよ」
神谷海凪は、氷狩の言葉の真意を理解した。「つまり、あの拉致したマッド・ドッグの幹部と賞金取り消しでイーブンにするってことかしら?」
「そういうこと」
半グレやヤクザがいくら死のうが、マッド・ドッグの連中の心は傷まない。だが、自分たちの安全保障に関わってくるとなれば別だ。
「あっちのお留守番には、山手しかいないのか?」
「ええ。サラはどこかに隠れてるしね。でも、ヤサは変えたわ。この短期間じゃ、七王会もマッド・ドッグも追いきれていないはず」
「なら安心だ。サラを仲介に、連中との交渉を始めよう」
「そうね」
すっかり蚊帳の外に置かれた佐田希依は、
「時々、海凪ちゃんを刺したくなるくらい、あのふたり相性良いんだよね……」
と、冗談とも思えないことを柴田とイリーナに口走るのだった。
第二章、おしまいです。感想。レビューくれ
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