039 絶縁処分っぽいな
支払った代償は多い。柴田が瀕死状態。氷狩も肩にくらったビームの痛みで、今にも意識が途切れそうだ。
だが、シックス・センスによる意思の改ざんで、右半身を吹き飛ばされた海藤美奈を見れば、勝敗は明らかだった。
「戦後処理、どうするの?」
唯一負傷していないイリーナが、氷狩に向けてそんなことを言ってきた。
「ああ。このまま山に埋めちまっても良いな。あるいは、関東七王会の本部に投げ捨てるか」
氷狩は息も絶え絶えだった。計画通りだったとはいえ、こんな負傷を負ってまともに話せているだけでも奇跡だ。
そして、
身体の半分が消し飛んだ海藤美奈が、こちらを睨んでくる。
「てめえ、ただじゃ、おかねえからな……」
「七王会がカエシに来るってか? だったら、行方不明になってもらったほうが助かるな」
海藤美奈率いる〝海藤組〟は、日本最大の暴力団〝関東七王会〟の直参だ。氷狩のような半グレに、ここまでの傷を負わされたということは、七王会の連中も血眼になって氷狩たちを潰しにかかるだろう。
そんな最中、
氷狩のスマートフォンが鳴った。電話の主はサラだ。
「よう、来た、見た、勝った、だ」
『さすがですね。カメラモードにできますか?』
「ああ」
氷狩は、無惨な姿に成り果てた海藤美奈をカメラで映す。
『七王会からしても、懲役上等で戦争ばかりする海藤組はヤクネタです。今までは実力があり、五体満足だったから見逃されていましたが……、こうなれば七王会もこの女を切り捨てるでしょうね』
「絶縁処分か」
『おそらく、そうなるでしょう』
「だったら、このまま埋めちまうのが良いな。神谷と佐田を呼んでくれ。後始末くれェ、アイツらにやらせる」
『分かりました』
電話を切り、氷狩は憐れむように海藤美奈を見る。
「おれも詳しくは知らねェけど、オマエも所詮使い走りの三下だったんだな」
「黙れ……。あたしは、七王会の最高幹部だぞ。オマエみたいな半端者に殺れるわけねえ」
「好きなだけ吠えてろよ。土に帰るその瞬間まで」
*
「氷狩くぅぅぅぅぅん!! 怪我してるでしょ!! でも、傷口は舐めれば治る! だから舐めて良い──」
「七王会に厭戦ムードは漂ってるか? 神谷」
「え、また無視された」
「そうね。極端な話、絶縁した子分のためにカエシする必要なんてないわ。そして今しがた、絶縁状が出回り始めた。これで、メキシコのカルテルと日本のヤクザが激突することもないでしょうね」
「そりゃ良かった。アイツら、軍隊並みの兵隊持ってるからな」
「ねえ、氷狩」
「なんだよ」
「この状況が、いつまでも続くとも思えないのよ」
「どういう意味だよ」
「七王会はメキシコとの対峙を避けるため、海藤美奈を絶縁した。でも同時に、こんな情報が流れてるわ」
隠れ家に戻る最中、神谷海凪はスマートフォンの画面を見せてきた。
『鈴木氷狩:懸賞金6000万円。生死問わず』
『神谷海凪:懸賞金8000万円。生死問わず』
それは間違いなく、関東七王会が仕向けたものだった。
次話で第二章おしまいです。皆様に幸あれ。
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