037 まだ意思は死んでいないっぽいな
(制限時間は3分もねェ。だから殺せ。目の前にいる、このクソアマをぶち殺せ!!)
氷狩の殺意が高ぶっていく。柴田やイリーナのようなカタギを巻き込みたくないのなら、3分以内に勝敗をつけるしかない。
「へえ……」
海藤美奈も身構える。身構え、手のひらを氷狩のほうへ向ける。ビビビ、とCDを読み取るときのような音が響いた頃、氷狩は擬似的な未来を察知した。
刹那、
氷狩の立っていた場所が、凄まじい勢いでえぐれた。エネルギーが集合し、その碧い閃光は広範囲に広がる。一本道の道中にあったコンテナが消滅した。
「氷狩!!」
柴田が慌てるものの、彼が駆けつけようとするのをイリーナが静止する。
「大丈夫。やられていない。意思は死んでいない」
その証拠に、氷狩は天空高く跳ね上がっていた。ジェットパックがあるかのように。
「逃げ惑ってたら、あたしを倒せねえぞぉ!!」
「こっちには時間制限があるンだよ。悪りィけど、時短させてもらうぞ」
今度は戦闘機のような速度で、到底人間には耐えられない速さで、氷狩は海藤美奈との間合いを狭める。単純な蹴り技で、彼女の腹部を貫こうという考えだ。
だが、
そのとき、
四方八方からレーザビームが飛んできた。右から左、上から下まで。これでは回避しきれない。
「時短、だぁ? あたしを誰だと思ってやがる! あたしぁ、海藤美奈だぞ!!」
邪気あふれる笑みを浮かべ、触れただけで骨のかけらも残らない攻撃が、ついに氷狩に直撃した……はずだった。
しかし、ありとあらゆる能力にはコードみたいなものがある。佐田希依が嫌がらせ? してきたとき、氷狩はコードを改ざんして、それを無効化した。
そして、こんな大技を繰り出すのにかかるコードは計り知れない。いくら相手が手慣れとはいえ、手を動かしたり歩いたりするときより、断然集中力を使っているのだ。
であれば、話は簡単だ。
氷狩は、すべてのレーザビームを避けた。いや、すべての攻撃をくらわないように仕向けた。
「意思の改ざんだね」
「改ざん?」
「人間は、脳内で無自覚のうちに意思を用いて行動している。今こうして会話しているのも、意思があってこそ。当然、能力も。でも、シックス・センスはその意思を改ざんできる」
「指一本動かすにも、意思は必要だしな」
「そういうこと。ましてや、能力は後天的につけられたもの。だから、指一本動かすことよりも圧倒的に意思を使う」
氷狩は直感で感じ取る。
シックス・センスに身を委ねられる時間は、あと1分もないことを。
「交わしたか。さすが、シックス・センス。だったらよぉ……」
それに加え、意思の改ざんを行った所為で集中力が途切れた氷狩は、地上へ一旦降りてしまった。
そこに、海藤美奈による迫撃が始まる。
「不良の先輩として、その細せえ身体に気合入れてやるよ!!」
ふわぁ、と氷狩の脳内が揺れる。その刹那には、顔面に思い切り肘打ちされた激痛が響いた。




