036 宣戦布告っぽいな
「そうだな。全くもって、そのとおりだ」
相手は腕節のみで成り上がった、極悪ヤクザ。ならば、イリーナの言う〝闘志〟も計り知れない。撲殺される前に決着をつける必要があるだろう。
「この距離じゃ届かねェな」
氷狩とイリーナは海藤組の連中を眼中に捉えた。ひとりを除き、全員女だ。ここが男女比率1:10の世界である以上、当然といえば当然だ。
そして9ミリパラベラム弾では、数十メートル離れている彼女たちを狙撃できない。ある程度近づく必要がある。
そこで柴田の出番だ。氷狩はインカムを使い、
「ターゲット発見。見えるか?」
『ああ。豆粒みたいだけどな。おれの能力で無理やりそっちへ近づけることもできるぞ』
「なら、そうしてくれ」
『ああ』
短い会話で、柴田は自身の能力を使い彼女たちを空へ浮かせる。
「さて、イリーナ。ガンダだ」
それにあわせ、氷狩とイリーナは海藤組の幹部と親分との間合いを走って狭める。
声が聴こえてくる頃、氷狩は拳銃を取り出して、空に浮かんでいる連中を撃ち落とそうとする。
だが、照準が合わない。ふわふわ浮いている連中にまともに弾を当てるのは、自衛隊の最精鋭でも難しい。であれば、半グレの氷狩には不可能だ。
『あと数秒も保たねェ。どうする、氷狩』
「なんとかしてみせる。最悪、オマエも地上へ降りて援護してくれ」
『了解』
案の定、連中は地面に叩きつけられた。残った弾数は5発。敵は5人。もう、ピストルは役に立たない。
そんな中、地面に叩きつけられ、本来なら死んでいるであろう連中は、不敵に笑った。
「おうおう! 痛てえじゃねえか!!」
やはり〝闘志〟を身体にまとわせているようだ。身体が鋼鉄で構成されているのなら、納得が行く。
そして、それはつまり、彼女たちの殺意が高ぶっているというわけだ。
「痛いだけで済むなら、まだ良かったじゃないか」
「そういう問題じゃねえんだよな」
黒いロングヘアの女。サラの情報が正しければ、彼女が海藤美奈だ。
「……、イリーナ、下がってろ。カタギのオマエを巻き込むわけにはいかねェ」
氷狩と海藤美奈の激突が始まる。幹部たちは余裕そうな表情で、腕を組みながら虐殺の目撃者になる構えだ。
そんなとき、
イリーナの目が赤く光った。
「ぐっ!?」
海藤美奈を除く幹部たちは、その場にへたり込んだ。おそらく、シックス・センスの送受信を行ったのだろう。露払いには十二分だ。
「おお、シックス・センスか」
それでも、海藤美奈は不敵な笑みを見せるだけだった。
「でも残念。〝威圧感〟の前じゃ、小手先の能力は無意味なんだよ」
(威圧感? 良く分からんが、そうポンポン繰り出せる技でもないだろうな。それができるなら、コイツは今頃世界征服を完遂させてるはずだ)
氷狩は、やはり冷静だった。落ち着き払い、相手の弱点を探す。
そのとき、
明らかに人間の脊髄反射ではかわせないレーザビームが飛んできた。ロックンロールのような音とともに。しかも、そのビームは数十発。港のコンテナや器具をすべて破壊しつくす勢いだ。
しかし、それらは当たらなかった。まるで宣戦布告のように。
ならば、
「……おもしれえ。身体のすべてをシックス・センスに委ねたか」
氷狩の目が、赤色に染まった。




