035 レーザビームっぽいな
カタギであるふたりを厄介事に巻き込みたくない。大事なのは、戦争に勝つことよりもその後なのだから。
「よし、最終確認するぞ。おれと柴田、イリーナの3人で海藤組を襲う。他のヤツらはここで隠れてろ。良いな?」
*
サラも生き残りに必死だ。港に広がる防犯カメラをハッキングし、海藤組の連中の位置知らせてくれた。もしも氷狩たちが負ければ、サラもただでは済まない。
「武器は……道具と手りゅう弾が3つ。柴田は?」
「投げ物なら、10個持ってる」
「準備万端だな。イリーナは持ってないだろ?」
「うん。でも、絶対大丈夫」
港までタクシーで向かい、たどり着いたところで、3人は再確認し合う。
柴田が素朴な疑問をぶつけてくる。「というか、なんで港に武器隠せるんだ?」
「港湾の連中と海藤組が癒着してるからな。揉め事を暴力で解決する代わりに、戦争級の武器を隠させてるのさ」
「まあ、港湾関係なんて昔からヤクザとつながってるか」
「特に、この街じゃあな」
氷狩はサラの出してきた指示に従い、3人を分散させることにした。
「柴田、オマエはサイコキネシスでコンテナの上に乗れ。あの一番高い場所だ。イリーナは、おれからすこし離れたところにいろ。2回も意思の送受信した所為で、頭が割れそうなくらい痛い。だから、ふたりとも援護要員をしてくれ」
「ああ」
「うん」
柴田は糸のような物体で、コンテナの天井に向かっていった。氷狩はハンドガンの安全装置を切り、いよいよ海藤美菜と対峙する。
「なあ、イリーナ」
「なに?」
「シックス・センスに身体を委ねられる時間は、どれくらい?」
「さあ。イリーナの場合は3分くらいかな」
「長くもって3分か……。シビアだな」
「というか、海藤美奈の能力は割れているの?」
「ああ。サラいわく、アイツはビームを生み出すらしい」
「ビーム」
「レーザビームといったところだな。シックス・センスがなければ、近づくこともできない。あの女が四方八方にレーザを撃てば、おれたちは一瞬で丸焦げだ」
「それを剥がして、撃つってこと?」
「いや、まだ隠し玉がある気がしてならねェ。能力と、もうひとつなにかが」
柴田雫と交戦したとき、あれだけの速度で詰め寄った佐田の攻撃をくらっても、彼女はピクリともしなかった。まるで鋼鉄やダイヤモンドみたいに、身体を硬化させる術式を持っているのかもしれない。
「それって、〝闘志〟じゃない?」
「闘志?」
「そう。イリーナも詳しくは知らないけど、この世界での能力の基礎になった力。人間は目隠しされた状態で、水をポタポタ垂らされるだけでも死に至るっていうでしょ。脳が出血多量だと勘違いして。なら、相手を本気で殺してやろうと思えば、身体を鉄みたいにすることだってできるはず」
「殺意そのものってわけだ」
「そういうこと」イリーナは無表情を崩さず、「殺意が高ければ高いほど〝闘志〟の力は強まっていく。だから、殺してやろうと思わせる前に蹴りをつけたほうが良いと思う」




