033 緊張感がないっぽいな
氷狩たちは作戦会議に入り込んでいた。
「〝ノクティス〟っていうマフィアは、どれくらいで兵隊送り込んでくるんだ?」
『最短一週間程度かかるかと』
「まあ、北アメリカ大陸から日本に来るにはそれくらいかかるか。で、アイツらはどれほどの戦闘員を派遣してくる?」
『せいぜい200人から300人くらいでしょうね。時間経過で更に送ってくる可能性はありますが、言い換えると──』
「その一週間は孤立無援ってわけだ。おれ、神谷、佐田、山手にオマエ、それと……柴田とイリーナも巻き込んじまったわけだし」
『すでに、七王会の構成員は貴方たちを見つけるために動いてるとも』
「ヤクザの情報網はマジだからな」
いや、正確に言えば、氷狩とサラが話し込んでいた。神谷はなぜか落ち込んでいるし、佐田はさらってきた幹部をいじめている。
「どうせモテないわよ……。半グレなんてなるんじゃなかったわ」
「おらァ!! 私の氷狩くんを痛めつけた罰だ! 乳首切り取ってやるよ!!」
急遽呼ばれた山手はイリーナとおしゃべりしているし、柴田はそもそも裏社会の人間ではない。しかも、どこか緊張感がない。
「夕実ちゃん? それとも夕実くん?」
「どっちでも良いよ。うちは性別を超越してるからね」
「意味分かんない」
「つか、猫に餌あげなきゃならねェんだけど」
そうなると、氷狩が話をまとめなければならない。なぜ、コイツらは緊張感というものがないのか甚だ不思議である。
「はあ」
『溜め息ついてても、問題は解決しませんよ?』
「知ってるよ。けど、溜め息くらいつかせてくれ」
『あ』
「どうした?」
『神奈川を取り仕切る暴力団、海藤組が、今しがた武器庫に向かっています』
「どうせ道具だけじゃないんだろ?」
『ええ。ロケット・ランチャーから手りゅう弾、ドローンまで持ち出してるようです』
「軍隊かよ。クソ、居場所を特定されたら──」
そのとき、
氷狩たちが身を潜めるガラス張りのラブホテルの窓から、銃弾が飛んでくる……という未来を検知した。
「おい! 伏せろ!!」
氷狩は怒鳴るように大声を張り上げ、全員をその場に伏せさせる。
乾いた破裂音が何十回と響き、やがて鳴り止んだ。
それを確認し、氷狩は神谷を睨む。
「オマエ、撃たれることくれェ想定しておけよ!! ラブホなんて普通、窓なんてねェだろうが!!」
「近くの隠れ家がここしかなかったのよ……。でも、どうやってここを割り出したのかしら」
「相手は10000人だぞ? ヒト使えば、おれたちの居場所なんて一瞬で割り出せる。しかも、マッド・ドッグだって協力してるだろうし」
「困ったわね。サラいわく、〝ノクティス〟が兵隊を派遣してくるまで一週間でしょう? いっそのこと、台湾にでも逃げる? それとも──」
「それとも?」
「海藤組の組長を消すか逮捕させるのも、ある意味現実的な案かもしれないわよ」
「あァ?」
先ほどまで、ブツブツ独り言並べていたのが嘘のように、ハキハキした口調で、
「海藤組は、組長〝海藤美菜〟のワンマンチームって言われてるのよ。暴排条例でまともに喧嘩もできない上に、最近できたばかりの海藤組が七王会っていう大組織の直参になれてるのも、あの女の力あってこそ。だったら、それを潰せば良い」




