032 どうかしているっぽいな
「──!!」
「分かったか、クソ女」
こくこくと頷く。お利口さんで良いことだ。
「さて、柴田は目ェ覚ましたかな」
「無理よ。柴田くんの手錠には、〝パルス〟がつけられてる。解錠するには、鍵が必要だわ」
「パルス、ってなんだ?」
「能力者の集中力を乱し、能力を使えなくする機械よ。それに、結構高性能なヤツをつけられてるみたいだし、私たちが触れたら手が焦げるわよ」
「ヤベェ代物だな」
「じゃあ、イリーナがなんとかする」
会話に参入してきたイリーナは、なんの迷いもなく柴田のパルス付き手錠を無理やり破壊した。
「は?」
イリーナは18歳とは思えないほど、身体も腕も細い。それなのに、なぜ錠を解除できたのか。
「イリーナ、なんで錠をぶっ壊せたんだ?」
「シックス・センスの応用。身体そのものをシックス・センスに委ねて、身体能力をゴリラみたいに強化した」
「ああ、なるほど……」
「……、なぜ納得するのかしら?」
「おれも、さっき同じような術を使ったからな」
一瞬だが、イリーナの目が赤く染まっていた。それはつまり、先ほど暴走状態に陥った氷狩と同じだ。唯一違うのは、イリーナは暴走しなかったことである。
そんな中、
柴田が目を覚ました。
「……あ? なんでこんなところにいるんだ?」
「逃げ切れたんだよ、相棒。今のところは」
「なるほど」
柴田が意識を戻すやいなや、神谷が目の色を変えた。
「ねえ、柴田くん。私のこと、覚えてる?」
「小中学校で同じ学校だったことくらいは。それがどうした?」
「いや、ライフやってるのかなって。あとフォトジェニックも」
「交換したくはないなぁ」
「……、どうせ血みどろの半グレですよ」
神谷がすね始めた。まあすぐに元の彼女に戻るだろうし、心配はしていない。
それに加え、ひとりでSMグッズを身体中につけ始めている佐田しかり、やはりこの世界の連中、いや、女どもはどうかしているらしい。
「で、これからどうするよ。氷狩」柴田は手をブラブラ振り、「マッド・ドッグの幹部の拉致には成功したみたいだけど、それは同時にヤツらからの報復が始まるってわけだ。マッド・ドッグの飼い犬、おれの〝元〟姉が属す関東七王会がおれらをふ頭に沈めちまうぞ」
「ああ、そこですねてる〝鉄の女〟が良い案を出してくれた」
「どういう案?」
「海外のマフィアとお友だちになるのさ」
「そりゃあ、やばいな」
「そりゃそうだ。だけど、それ以外に方法も思い浮かばない」
そのとき、
神谷のスマホが鳴った。
「どうせ私はモテないわよ……。未だに処女だもの。21歳にもなって、未だに──」
「電話、鳴ってるぞ」
「あ、サラからだわ」
スピーカーフォンで、氷狩、神谷、佐田、山手、イリーナ、柴田は話を訊く。
『神谷さん。メキシコのカルテル『ノクティス』は我々の案に乗るようです』
それは果たして吉報か、それとも絶望への入口か。




