031 日本最大の地下組織と対峙するっぽいな
そうつぶやいた頃には、ロケット・ランチャーを担いだ佐田希依が現れた。
「氷狩くぅぅぅぅぅん!! 怪我してない!?」
「お陰様でな」
「良かった! さっさと逃げるよ!」
「ああ。でも、柴田もいっしょに連れて行ってくれ」
「柴田って、このヒト?」
「そうだ。おれの親友なんだよ」
「分かった! でも、対能力者用の手錠はめられてるから、このまま運ぶね!」
「ああ、ありがとう」
「氷狩くんに感謝される日が来るなんて……。ああ、生きてて良かった」
「気色悪いのは変わらんな」
放蕩した顔つきの佐田。されども、助けに来てくれたのは変わらない。
そんな最中、
マンションの最上階に、もうひとりヒトが現れた。茶髪のショートヘア、美人で幼なじみの神谷海凪だ。
「よう」
「無事だったのね。良かったわ」
「果たして無事といえるのか」
「……、ええ。これで私たちは、正式にマッド・ドッグへ宣戦布告したことになるわね」神谷は一呼吸起き、「マッド・ドッグは裏社会とのつながりも深い。〝関東七王会〟を知ってるかしら?」
「知ってるよ。日本最大のヤクザどもだろ」
「このまま幹部を拉致するのは簡単だけども、そうすれば私たちは10000人からなる七王会と対峙する羽目になるわ」
「そりゃあ、面倒だな」
「でも、私へも作戦がある。とりあえず、隠れ家代わりのホテルを抑えておいたから、そっちへ向かうわよ」
「ああ」
*
ラブホテル、だった。キングベッドにSMグッズ。大きな照明に、派手なソファー。
「さあ、氷狩くん。私といっしょにSMプレイを──」
「神谷、作戦ってなんだ?」
「え、私無視されてる?」
「ええ。相手は日本最大の地下組織。なら、こっちは海外の裏組織を使うだけよ」
「そんなコネ、あるのか?」
「今、サラが交渉してるわ」
「なにを条件に?」
「七王会が持つ権益を全部渡す代わりに、私たちへ兵器や兵隊を用意させる」
「勝算は那由多の彼方だな」
「そうね。けれど、そうでもしないと私たちはあしたにでも海の底だわ」
「言えてるな。ところで、イリーナは?」
元をたどれば、イリーナを守るために挑んだ戦争だ。であれば、彼女の顔くらい拝みたい。
そして、
遅れて山手夕実とイリーナが現れた。
「夕実って、男なの?」
「うん。女装子だよ」
「それって意味あるの?」
「女装は男にしかできないから、もっとも男らしい趣味だよ」
「良く分かんない」
そんな会話とともに、赤いボブヘア、身長160センチ程度の山手夕実とイリーナはソファーにもたれた。
「よう、山手」
「久しぶりだね、ひかるん」
「ああ。相変わらず、女装してるのか」
「いっしょにしてみる? ひかるん」
「しねェよ」苦笑いを浮かべる。
なお、拉致してきた幹部の口には〝猿ぐつわ〟がされている。SMグッズではない。本物の、猿ぐつわだ。
「──!! んー!!?」
「うるせェなぁ。脚でも撃って気絶させるか?」
「そうしようかしら」
神谷はナイフを取り出し、彼女の脚にそれを刺した。声にもならない声をあげていれば、コイツらは本当に自分を殺すかもしれない、と思わせるのが目的だ。




