030 ここが人生の分かれ道っぽいな
「なに慌てているの?」
シックス・センスそのもの、イリーナは、至って冷静な口調だった。
「貴方には関係ないわ。子ども巻き込むほど、私たちも腐っちゃいない」
「イリーナ、18歳だよ」
「え?」
「まあそんなこと、どうでも良い。あのヒトは? ああ、いや。答える必要はないよ」
イリーナは顎に手を当て、
「なるほど。マッド・ドッグの幹部を拉致しようとして、返り討ちにあったと。だったら急いだほうが良いね。イリーナの代わりとして、脳髄まで抜き取られるかもだし」
「の、脳髄……」
「大丈夫。イリーナはそんなこと許さない」
*
「大金星だ! イリーナは逃がしてしまったが、今ここにシックス・センスの代用品がいる。それに、柴田公正も、だ。これでCEOに詰められずに済むだろう!!」
マッド・ドッグ幹部の女は、拘束された鈴木氷狩と柴田にご満悦といったところだった。幹部の部屋には多数の警備員、いや、兵士が集められ、アリ一匹も通さない警備が張られている。
部下がなんとなく訊いてみる。「しかし、これからコイツらはどうなるんでしょうね?」
「脳みそをケーキみたいに分割し、能力の解析だろうな。シックス・センスに〝サイコ・エナジー〟にはそれだけの価値がある。それに、生かしておいても良いことはない。こんなところに突っ込んでくるような連中だし」
止血を施されただけの氷狩は思う。(冗談じゃねェぞ……。マッド・サイエンティストどもの餌食になるのはゴメンだ。死に様くらい、自分で選ばせろよ)
柴田はなにも言わず気絶しているが、おそらく同じことを考えているはずだ。
ならば、
イリーナが使った、そして、このマンションへ侵入する前へ氷狩も使ったあの術式を使うしかない。
頭痛がひどく、吐き気も収まらない。次、あんな負担の大きい技を使ったら死ぬかもしれない。
だが、死に様を選ぶとしたら、もうそれ以外に方法はない。
幸いなことに、能力自体は生きている。シックス・センスによる、意思の受信はできる。
問題は、如何に勘づかれずあの術式を使うかだ。
(できれば死にたくねェが……、四の五の言う暇はない。よし──!!)
氷狩は顔を上げた。兵士みたいに装備を整えている警備員も、幹部も、氷狩が顔を上げたことに気がついていない。
ここが人生の分かれ道。やらないで死ぬくらいなら、やって死のう。
氷狩は、目を見開いた。
「──ぐっ!? 意識が、クソッ!! てめえか!?」
「バーカ、油断し過ぎだ……!!」
バタバタ、とヒトが倒れていく。うめき声をあげながら。
だが、ここが氷狩の限界でもあった。シックス・センスで敵性を気絶させても、拘束具は外せない。
(……、そうだよな。これはおれがひとりで請け負った仕事だ──)
そのとき、マンションにロケット・ランチャーの弾丸みたいな、なにかが吹き飛んできた。ガラスが割れるが、氷狩へはかろうじて破片が刺さらなかった。
「……世の中、うまくできてるな」




