029 怪物っぽいな
「ッッッ!?」
柴田公正の胴体に、高山の糸が突き刺さった。
「ほらぁ……、公正は私といっしょに死ぬんだよ。そしていっしょに輪廻転生して、別の世界できっと幸せを手に入れて──」
そんなとき、
高山美紗希の頭上に、めくれたアスファルトが落下した。
意識が薄れゆく柴田は、その攻撃を繰り出した者を見る。
「ンだよォ!! しけてるなァ!? 柴田ァ!!」
目が真っ赤に染まった、鈴木氷狩がそこにいた。
「アヒャヒャヒャ!! ここからはおれの独壇場だ!! おらァ!! かかってこいよォ、茶坊主どもォ!!」
氷狩の異変に、柴田は驚愕の表情を浮かべた。親友が、まるで別人になってしまった。
「氷狩……、オマエ──」
柴田公正の意識が薄れていく。もう言葉を発するのも苦しい。
そして、
氷狩のシックス・センスで意識を失っていた警備員たちが、ライフルを担いでこちらへやってきた。
「この、イカレた殺人鬼が!!」
「あァ……?」
瞬間、氷狩はとても人間とも思えない速度で、彼らとの間合いを狭める。そのままライフルを奪い、全く容赦なく乱射していく。
「ぎゃああ!!」
「クソッ!! オマエは、何者なんだ……!?」
「さァな!! オマエらに答える義務はねェだろォよ!!」
命の灯火が乱雑に消されていく。氷狩の凄まじい速度の前に、誰も彼もかなわない。
「怪物、め……」
やがて、数十人配置されていた警備員はすべて息絶える。もはや、氷狩の暴走を誰も止められない。
「ほら、どォした? おれを止めてみろよ」
氷狩はせせら笑う。
柴田は意識を失い、高山はコンクリートに押しつぶされた。この場を手打ちにできる者は、いない。
だが、こんな暴走状態がいつまでも続くわけない。氷狩の目から、徐々に光が消えていく。
そんな中、
氷狩は、膝をついた。彼の目が赤色から元の黒色に戻り、青年は内蔵をやられたかのように、赤黒い血を垂れ流す。
「ぐほォッ!!」
氷狩は意識を失った。
*
『氷狩さんが……やられました』
いつまで経っても戻ってこない氷狩を訝った神谷海凪は、サラへ連絡していた。そして、情報屋はそんなことを言った。
「嘘でしょ……? 氷狩が敗れたってことなの?」
『ええ……。その可能性が極めて高いです。神谷さん、これからどうするつもりですか?』
「まず、氷狩の身柄確保よ。私たちの組織〝カンパニー〟総員で、氷狩を救出するわ」
『正気ですか?』
「本気よ。私たちは少数派。仲間見捨てられるほど、人手が足りているわけではない」
『承知しました。私も今からそちらへ向かいます』
「ええ。すまないわね」
『いいえ』
神谷は、ひとり頭を抱える。氷狩を見捨てるのは現実的な案ではない。もし彼が自白剤で神谷たちの犯罪を吐いたら、彼女たちは一網打尽にされてしまう。
しかし、相手はマッド・ドッグ。日本の裏そのもの。そんなのを相手に、小勢の神谷たちになにができるというのか。
「……んん」
そんなとき、もうひとりのシックス・センス、いや、シックス・センスの原石が目を覚ました。




