026 露払いっぽいな
「ああ、クソッ。頭がジンジンするぜ」
隣にいた柴田は、頭を抑えながらもなんとか無事のようだった。つまり、効かない相手もいるというわけだ。決して無敵の能力ではない。
「ただ、これで露払いはできたな。よし、おれの番だ」
柴田は手を広げる。指から糸のような物体が現れ、それらは恐ろしい勢いでマンションへと向かっていく。次々と、白い糸が意思を持っているかのように、まず入口のカメラを締め壊す。
そして、
柴田は、それらを展開したまま、
「行こう。時間は有限だろ?」
「ああ」
ダンジョンに挑む冒険者のように、ふたりは真正面からマンションへ入っていく。
そんなふたりを、別のマンションの屋上から見つめる女子たちがいた。
氷狩と柴田の活躍を称えるかのように、茶髪のショートヘアの女は、口笛を吹き、
「ただまあ、そう簡単に突破されるわけにもいかないのさ。ねえ、公正」
彼女は氷狩と柴田公正の挑むマンションの最上階へ、雲でも掴んだように飛んでいく。
「相変わらず、柴田がお好きなんだから。まあ、初恋の相手を殺させた張本人だもんね」
それと同時に、隣へいた長い黒髪の女は、姿を消した。
*
「なあ」
「ああ、簡単すぎる。なにかの罠みてェに」
ここまで、氷狩も柴田も能力の行使どころか、銃すら抜いていない。ほとんどが気絶しているからだ。
しかし、それ自体が懸念につながる。余計に神経を使い、疲弊感が溜まっていく。
それでも、階段を登り続けるしかない。エレベーターなんて電子操作でいつでも止められてしまう以上、疑念を覚えながらでも、神経をすり減らしながらでも、行くしかないのだ。
そんな中、3階に差し掛かったとき、
ガコンッ!! という轟音。耳がパンクしそうなほどの爆音であった。くの字になって吹き飛ばされかけるが、柴田が糸で氷狩を拾う。
「ゲホッ……!!」
「やっぱり無機物には反応しないか。シックス・センス」
どこか緊張感のない声色、気の抜けた声とともに、茶髪の女が現れた。
「……何者だ?」
「言う必要、ある?」
「ねェな」
片手には爆弾の起爆装置らしきスイッチ。隙だらけだ。氷狩はシックス・センスによる擬似的な未来予知をしかけるが、
『公正。私のところへ戻ってきてくれるの!?』
『誰が……オマエに支配されるかよッ!!』
そこで見た景色は、柴田と茶髪の女の激突だった。ならば、ここはもう柴田に任せよう。
「柴田、頼んだ」
「……ああ!! 言われなくても!!」
悠然と階段を登ろうとする氷狩へ、彼女は柴田と同じく糸のような物体を繰り出した。
が、意思を改ざんしてしまえば良い。糸が逸れた。
氷狩はニヤリと笑い、
「よォ、いっしょに行くつもりはねェらしいぞ」
「チッ。ま、邪魔者がいなくなったし、公正。私といっしょに──」
「もう氷狩が代弁してくれたよ、高山美紗希」
柴田と高山美紗希の激突が始まった。




