025 意趣返しっぽいな
結局、アウトローという生き物は小勢なのだ。一般市民や警察が本気になれば、一瞬で淘汰される定めにある。それに、対立組織も星の数ほどに存在する。だからこそ、数少ない味方は大切にしなくてはならない。
そんなこと、神谷だって嫌というほど分かっている。分かっていなければ、今まで生き残ることもできなかったのだから。
「というわけで、行ってくるぞ。後は頼んだ」
*
鈴木氷狩は、その高級マンションにたどり着く前に、ある男へ電話をかけようとした。
が、道中に彼はいた。準備万端といわんばかりに、彼は手りゅう弾をチラリと見せてくる。
「イリーナのために喧嘩するんだろ?」
「良く分かったな」
「ガキの頃からの付き合いだ。その喧嘩、付き合ってやるよ」
「ああ、ありがとう」
柴田は黒いシャツの裏から、グレネードを3つ渡してきた。
「随分小さいな」
「マッド・ドッグがつくった代物だよ。性能は並みの手りゅう弾にも負けちゃいないぞ」
「まあ良いや。喧嘩に道具はいくつあっても足りねェからな」
パーカーのポケットにしまい、氷狩は柴田公正へ最終確認をする。
「これから、マッド・ドッグの幹部がいるマンションを襲う。寒気がするくれェ、警備が整ってる場所だ。警備員はおれだけでもなんとかできるが、問題はカメラだな」
「そこで、おれの出番ってわけだ。サイコキネシスでカメラをぶっ壊す」
「なあ、柴田」
「なんだ?」
「オマエ、マッド・ドッグに恨みでもあるのか?」
「おれの意思を読めるんだろ。それで確認してみろよ」
「ああ……」
柴田の意思を受信してみる。
そこは、姉への恨みとマッド・ドッグに対する殺意で満ち溢れていた。姉がヤクザになる前、柴田公正という男はマッド・ドッグに売られた。男にカネを貢ぐため、弟を非人道的な組織へ売り払ったのだ。
マッド・ドッグに属していた柴田公正は、非凡な才能を開花させた。だが、そこには数え切れないほどの悲劇があった。
きのうまで話していた友だちが、次の日には脳髄だけに。
柴田よりも実力のある能力者からの暴行。性的にも、柴田は虐待され続けた。
強制され、初恋の相手を射殺した。殺さなければ、殺される。それだけが、マッド・ドッグのルールであった。
「吐き気がするぜ」
「……、人間は自分のことが一番かわいい。だからこれは、オマエに対する協力でもあるが……おれからの意趣返しでもある」
氷狩の隠れ家とそのマンションはさほど離れていない。ふたりはマンションの前に立つ。
「なあ、柴田。これからおれが受信してる意思を〝送受信〟に切り替える。脳内でパニック起こさないように」
「ああ。言われてなんとかなることでもねェけどな」
数時間前、イリーナがやったことを模倣すれば良い。頭が疲れそうだし、実際疲弊するのだろうが、もう四の五の言うターンではない。
「さあ……、行くぞッ!!」
複数の意思を捉え、それらを無差別につなげていく。ヒトの意思がインターネットのごとく、つながった。
その頃には、マンションからヒトの意思がほとんど消えた。




