022 少年漫画の技っぽいな
柴田は〝親友〟として、素直な心配を見せた。
*
「イリーナって、何歳?」
「ヒトに年齢尋ねるなら、まず自分から言いなよ」
「ああ、おれは21歳」
「なら答える。18歳」
「その見た目で?」
「この見た目で」
イリーナはあっさりした態度だった。けれども、氷狩が訝るのも無理はない。
身長は150センチに届くかどうか。美人だが童顔。胸も平坦。正直、13歳から15歳と言われたら訝ることもなかった。
「じゃあさ、なんでイリーナは能力を持ってンの?」
「良く分かんない。研究所? みたいな場所で目を覚ましたからかな」
「研究所?」
「なんか、この世界に来てから2日で拉致された。とても希少な天然能力者だって」
「そりゃあ、大変だったな」
「疲れているの?」
「イリーナよりは疲れてないさ。多分な」
氷狩の態度もまた、イリーナへ引っ張られるかのように平淡なものに変わっていた。
そんな中、
氷狩とイリーナは、あからさまに道を封鎖している不良集団に睨みつけられる。そのほとんど、というか全員が女なので、無視して横を通ろうとするが、
「無視はいじめの始まりだぞ?」
肩を掴まれてしまった。氷狩は溜め息をつき、
「勘弁してもらえないですかね? こっちは疲れてるんだ」
「疲れてるか疲れてないかは、こっちが決めるんだよ」
「つまり、なにをすりゃ良いンすか?」
「そこのガキをあたしらへ引き渡せ。そうすりゃ、アンタは家路につける」
「だとさ、イリーナ」
「ゴメンだね」
「分かった」
瞬間、氷狩は肩を掴んできた女の腹部に肘打ちをくらわせた。
「ぐッ!?」
倒れ込みそうになる彼女のベルトの間から拳銃を抜き取り、無理やり立ち上がらせた。首を左腕で締め付け、その女の眉間に銃口を向ける。
「ステゴロで、女が鍛えてる男に勝てるわけねェだろ。能力者なら分かるけど」
途端に引き抜かれるハンドガン。だが、氷狩は眉ひとつ動かさず、
「やめておけ。オマエらみてェなチンピラ崩れが、まともな〝道具〟持ってるわけがない。銃弾は真っ直ぐ飛ぶか? 暴発は起こさないか? そもそも、おれの頭にしっかり当てられるか?」
たじろぐ女たち。このまま銃を降ろせば、氷狩も黙って帰る。無用な殺生はしたくない。ただでさえでも、仕事でその手は薄汚れているのだから。
そんな膠着状態が続くとき、
イリーナがなぜか歩き出した。これでは撃たれてしまう。いったい、なんの目的で?
「クソッ、あのガキを撃て──!!?」
そう拘束された女が叫んだ瞬間、
バタバタ、とヒトが倒れ始めた。膝をつき、白目を剥きながら。
そして、氷狩がアームロックしていた女が意識を失った頃、イリーナは抑揚のない言い草で、
「行こうよ。当分起き上がれないだろうし」
スタスタと道を歩き始めた。
「少年マンガの技かよ」
ただ、氷狩も尋常でないほど疲れている。なので、淡々とした態度でイリーナとともに家路へつく。
「さっきのヤツ、なに?」
「シックス・センスの応用。相手の意思を受信するのがシックス・センスの肝だけど、それを〝送受信〟に切り替えただけ」
「なるほど。脳内に他人の意思が入り込んで、オーバーヒートするのか」




