021 それは老人の諦観っぽいな
イリーナは飄々とした態度でそう答えた。
「シックス・センス? 要は、第六感? なんだ、それ」
そんなふたりに、柴田公正が割り込んでくる。彼は怪訝そうな顔になりながら、
「氷狩、オマエ無能力者だろ? 10代から20代の能力者なんてそうはいない。例外はおれくらいだしさ……、いや、ここが並行世界とか言ってたな、そういや。でも、誰に付与されたんだ?」
「……、神谷だよ。小学校と中学のとき、同じ学校行ってただろ?」
「ああ、アイツか。ヤクネタだな」
あっさり流すが、柴田はいくつか疑問点を見つけていたようだった。
「でも、この世界に同じ能力はねェぞ? オマエがパラレルワールドから来たのは、親友だから信じるけど、この世界の条理に従うのであれば、オマエとイリーナが同じ能力を持ってることはありえねェ。それに、イリーナも別の世界から来たんだろ? 余計に話がこじれるな」
「ああ、おれも頭がパンク寸前だ。イリーナはどう思う?」
「どうにも」淡泊な返しだ。
柴田は呆れ気味に、「マイペースなのは結構だけど、ふたりともこれからどうしたいんだ?」
「柴田、それは愚問だぞ」
「どういう意味だよ」
「おれ、思ったんだわ。オマエの性格はそんなに変わってなくて、イリーナっていう同胞らしき子もいる。確かに、きょうは神谷に不法侵入された挙げ句、コイみてェなキスされた。他にも厄介な女はいる。だけど、おれにはふたりがいるだろ?」
柴田は拍子抜けしたかのように、首をひねる。「元の世界に戻るつもりはないと?」
「喚いたり暴れたりして戻れるなら、そうするさ。けど、現状戻る方法はねェ。だったら、適応していくしかないだろ」
それは老人の諦観のようだった。鈴木氷狩という男は、不良で頭もよろしくないが、時々悟ったような態度を見せるからタチが悪い。
「ま、まあ。なるようになるさ」
氷狩は鋭い眼光で、「なるようにしかならないけどな」
そんなふたりを見かねたのか、それとも疲れているだけなのか、イリーナが口を開く。
「イリーナ、歩き疲れた。誰か休める場所おしえて」
「そんなに歩いたのか?」氷狩が尋ねる。
「うん。足が棒になりそうなくらいに」
「そうかよ。だったら、俺の家来るか?」
「そうする。外にいても疲れるだけだし」
「だとさ。柴田、オマエは?」
「神谷がいるんだろ。だったら行かないよ」
「だろうな。さて、イリーナ。行こうか」
「うん」
金髪碧眼の少女と不良風の青年は、どこか投げやりに家路へつく。
それを見ていた柴田は、ぼそっとつぶやく。
「アイツら、よっぽど疲れてるんだな。わざわざ遠回りする道通ってやがる」
あの疲弊具合を見ていれば、氷狩が奇妙な世界に迷い込んだという世迷い言にも説得力が生まれる。少なくとも氷狩にとっては見慣れた地元で、最短距離も分かっているはずなのに、ふたりはなぜか逆の道に歩いていった。
「まあ、なんとかしてやりてェけどなぁ……」




