020 もうひとりのシックス・センスっぽいな
神谷はいつまで経っても起きそうにもない。スマホをいじったり、パソコンでゲームしたり、と時間を潰している間、まるで自分の家のごとく、ぐっすり眠っていやがる。
「チッ。死ね、淫売」
自分だけの空間にヒトがいるだけで、氷狩のストレスは急上昇していく。もう散歩にでも行こう。それしか道はない。殴ったり蹴ったりして起きるような女でもない。
*
「そこの兄ちゃん、あたしと──」
「ぼく、トレーナーじゃないんで」
逆ナンパ、基、この世界においては普遍的な女から男へのナンパを3回された。嫌気が差し、氷狩はひとけの少ない場所へ向かう。
「ふぅー……」
地元なので、どこにヒトがいないかくらいは分かる。寂れた遊具がかろうじて原型を留めている公園で、氷狩はタバコをくわえていた。
「コンビニの店員、犬の散歩してるマダム、そしていかにもギャルそうな子か……」
もうなんでもありだ。氷狩は溜め息まみれなのはよくないと知りつつ、息を吐く。
(んん?)
そんな氷狩は、よく知った男を目で捉えた。傍らには白人の女の子。いかがわしいことをするようなヤツではないので、道でも訊かれたのだろう。
(まあ、もともと米軍の基地があった場所だし、家ン中じゃ英語しか話してないのかもしれん。ちょっと助け舟だしてやるか)
携帯灰皿にタバコを捨て、氷狩は少し離れた柴田公正のもとへ向かう。困り眉だった青年も、氷狩が現れた途端手を振ってきた。
「よう、相棒」
いつも通り拳を合わせ、
「その子は何者?」
と訊いてみる。
「それが、自分でも分からないって言うんだよ。日本語は流暢なんだけど」
「あァ? どういう意味だ?」
「なんでも、別の世界から迷い込んできたかもしんねェって」
「……、どういう世界だ?」
その少女は不安そうな目つきで、氷狩を見上げる。
「もっと、男のヒトがいた場所だよ。イリーナはしばらく歩いていたけど、柴田くんと貴方以外に同年代っぽい男の子がいなかった」
「だとさ」
随分日本語が上手だ。だが、問題はそこではない。氷狩は固唾をのみ、
「おれ以外に、このふざけた世界へ迷い込んだヤツがいるってことか?」
ポカンと口を開けてしまう。
「そういえば、オマエ電話で言ってたな。〝おれはパラレルワールドに来ちまったみてェ〟だって。ひょっとしたら、ふたりとも同じ世界から来たのかもな」
「そうなの? 柴田くん」
「さあ。親友の言うことだ。信じてやるのが優しさだろ」
「このヒトの名前は?」
「鈴木氷狩。氷に一狩り行こうぜ、の狩りで氷狩って名前だけど、良いヤツだよ」
「そうなんだ」
最前からフリーズする氷狩。それを察したのか、ふたりは勝手に会話を続けていた。
そんな中、
氷狩はある疑念を抱いていた。
「なあ、オマエ」
「オマエ、って言わないでよ。イリーナはイリーナって名前がある」
「なら、イリーナの能力ってもしかして──」
「言って良いのかな? でも、イリーナも同じこと思っていた。そう、シックス・センスだよ」




