018 やることは変わらないらしい
ゴキゴキ……と、首の骨が折れていくような音が聞こえる。恐ろしい腕力だ。猛獣のごとく。
「さてと、オマエはどうするつもりだ? チンピラぁ」
(殺さねェ程度で抑えてる……。殺したら、撃たれるのを分かってるんだ。かといって、脚撃つだけのエイム力はねェぞ? さて、どうする。鈴木氷狩)
案外、氷狩は冷静だった。表情こそ焦りが隠せていないだろうが、せめて内面だけでも落ち着いていなければ、佐田も氷狩も終わりだ。
「はッ。おれらがチンピラ? いつまでヤクザ気取ってるんだ?」
「私が破門になったところで、オマエらがチンピラなのは変わらねえだろうが」
(冷静だな……。クソッ。ワンチャン、煽れば佐田を引き離すと思ったが)
「ああ、そうかよ。ところで、オマエ……弟がいるよな」
「だったらなんだ?」
「おれは他人の意思を読むことができる能力を持ってる。そして、その弟とおれは親友でさ。アイツの意思が近づいてくるのを感じた、って言ったら?」
「……!!」顔色が変わった。
「もちろん、親友は殺したくない。でも、今ソイツはエレベーターで登って来てる。おれか、それとも姉を守るのか。教えてやろうか?」
「……、どっちだ」
(今だッ!! ここ以外に隙はねェ!!)
柴田雫は、腕力が弱くなって佐田を地面へ落とした。
そのタイミングを見計らっていた氷狩は、容赦なく柴田雫の胴体に銃弾を放った。
ピチャッ!! と、柴田雫の肝臓部分に穴が空いた。
「どっちでもねェよ。柴田はここには来ない」
硝煙がほんのり漂う中、氷狩は倒れ込みゲホゲホと吐血する柴田雫を見下ろす。今にも死に絶えそうだが、目つきだけは死んでいない。それだけが恐ろしい。
「て、てめえ……!! このあたしを潰せると思ってるのかい!?」
「誰がてめェを潰すんだよ? どちらかといえば、四肢切り取られるだけだろ」
銃で撃ったら本当に死ぬ。今回の指令は生け捕りなので、氷狩は近くにあった液晶テレビを彼女の頭にぶつける。鈍い音とともに、柴田雫は白目を剥く。
「外道にも姉弟愛はありましたと。脚本家がいるのなら、三文小説も良いところだって愚痴りたくなるな」
溜め息をつき、氷狩は佐田の頬を叩く。血の流れがある。一応生きているようだ。なら、神谷に頼んで手配してもらうしかない。
「よう。柴田雫の一件だが、救急班も連れてきてくれ。ああ──」
*
氷狩は惨劇のあったビジネスホテルの喫煙所で、タバコをくわえていた。
あとは回収班がうまく佐田と柴田雫を拾うだろう。そういう些事末まで手伝う必要はない。なので、やることもない氷狩はタバコをふかしているわけだ。
なんとなく、ニュースアプリを覗いたり、野球の速報を見たり、あたかも日常生活を過ごしているかのような態度で。
「よう、神谷」
「大金星ね。氷狩」神谷海凪はジュースを渡してきた。
「あの女、どうなるんだ?」
「さあ。半グレどもが見せしめのために、ダルマにして裏社会に写真ばらまくんじゃない?」
「ああ、そうかよ」
結局、やることは変わらない。ここが男女比率世界だろうとも、あべこべ世界、異能力世界であろうとも。
だからこそ、氷狩は舌打ちするほかなかった。
第一章、おしまいです。
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