015 お見通しらしい
とはいえ、仕事は仕事である。氷狩は心底嫌だが、彼女とともに海藤組とやらの女幹部を倒す羽目になった。というわけで、氷狩は抱きつく佐田を引き離し、話を進める。
(……、神谷が指示し、佐田がハニートラップを仕掛け、山手がカネを貸し、サラが情報を支配する。そして、元の世界じゃ荒事は全部おれの管轄だった。おれは男だし、暴力しか能がなかったからだ。でも、この世界には異能がある。神谷は空を飛べるし、佐田は……よく分からんがなにかを使える。となれば)
頭の中を整理し、氷狩は引き離されてもめげずにハグの姿勢を取る佐田へ言う。
「佐田、オマエ喧嘩できるの?」
「できるよ~。というか、愚問じゃん? 私と氷狩くんが荒事を解決するんだからさ」
(なるほど。佐田も喧嘩の戦力に数えられると。ということは、ひょっとして、そりゃあつまり──)
「それに、氷狩くんは色仕掛け担当でもあるじゃん!」
(だろうな)
「だろォな」
思ったことがそのまま口に出た。心の底から拒絶したくなるような役割を、少なくともこの世界での氷狩は担っていたわけだ。
「え? なにが?」
「なんでもねェよ。つか、話を進めるぞ。時間は有限だ」
「なら、サラに連絡するよ! 私も細部は知らないし!」
「ああ、そうかよ」
サラ・ルビンシュタイン。国籍不明の白人だ。クラッキングと情報屋は彼女の管轄であり、良くも悪くも他人に対する対応はフラットな女。元の世界では蛇蝎のごとく嫌われていた武力担当の氷狩へも、彼女は他人行儀だったので、おそらく一番まともな反応をしてくれるはずだ。
「サラえもん~。きょうのターゲットの詳細教えて~」
『海藤組の件ですか?』
「そー」
『そこに氷狩さんはいますか?』
「いるよ~」
『なら話は早いですね』
電話越しでもどこか棒読み気味だし、変に発情する素振りも見せないので、氷狩も少し胸をなでおろす。
『海藤組の元幹部、柴田雫は今から送るホテルをヤサにしています。なんでも、半グレ相手に詐欺して、組から破門になったとか。ただ、失うものがない彼女はもう、なりふり構わず生き残りを狙うでしょう。となれば、佐田さんと氷狩さんのふたりで叩くのがちょうど良いかと』
スピーカーフォンに、氷狩が返事した。
「柴田? なあ、サラ。ソイツの弟って調べてあるか?」
『ええ。柴田公正という、名のしれた能力者です。とても希少な10代~20代男性の能力者ですが……おそらく彼がこの事件に関わることはないと考えられます』
「なんでだ?」
『柴田雫と弟は絶縁状態ですからね。そもそも、姉の窮地も知らないはずです』
「そうか」
『なので、氷狩さんも遠慮なく叩いてください。弟が絶縁した姉の窮地に駆けつけることは、いや、氷狩さんが親友と闘うことはないと思われますから』
やはりお見通しのようだった。氷狩は見られているわけでもないのに、手を広げる。




