011 仲間は大切にしなくてはならないらしい
裏社会に近い身分として、仲間は大切にしなければならない。氷狩はそう信じていた。
「……だったら」
「だったら?」
「合コン開きましょうよ。貴方、男友だちいないの?」
「煽ってるのか?」
「え、いや、そんなつもりは──」
「煽っていなけりゃ嫌味だろ。おれに友だちはいねェ」
自分で言っていて悲しくならないのか、氷狩。
「あ、いや。ひとりいたわ。ただまあ、アイツの性格もこの世界じゃ変わってるだろうな」
「誰なの?」
「柴田公正。小学校のときクラスいっしょだっただろ?」
悲しい男である鈴木氷狩にも、友だちくらいはいる。柴田は優しい男前で、顔立ちも良いのに、前いた世界でも女絡みの浮ついた話を聞いたことがなかった。となれば、色々逆転しているこの世界なら、ひょっとしたら女好きになっているかもしれない。
「覚えてないわ」
「薄情なヤツだな。まあ良いや。もう深夜だし、連絡だけはしておくよ。てか、オマエもう帰れ」
時刻は深夜の1時。そろそろ神谷にも帰ってほしい時間帯だ。そして、色々おかしな世界に迷い込んだといえども、昼間から深夜までヒトの家にいられて、氷狩も少し苛立っていた。
もともとひとりでいる時間を大切にしたい人間、というか引きこもり一歩手前なダメ人間が、ここまでヒト、しかも女と関わった時点で、疲れも溜まっている。
「え、ええ。柴田くんによろしく伝えておいて」
「ああ」
残念そうに神谷は出ていった。場には、氷狩のみが残される。
紛失したスマートフォンが届いていた。再設定を済ませ、シャワーを浴びるだけの体力もないので、歯磨きだけ済ませて、氷狩はさっさと布団とタオルケットの間にある夢の世界へ入り込むのだった。
*
『合コンってなんだよ?』
朝の9時に目を覚まし、そんなメッセージを目にする。そういえば、きのう柴田へ合コンの誘いをしていたな、と氷狩は、
『オマエ、浮ついた話聞かねえから心配なんだよ』
と返信し、シャワールームへ向かっていく。隅々まで身体を清めると、またもやメッセージが入っていた。
『オマエに心配されるほど落ちぶれちゃいないよ』
そんな返事が返ってきた。
「……、そういえば、平行世界に迷い込んだってことは、この世界にいたおれは消滅しちまったのか?」
あるいは、男女比率5:5の世界に迷い込んでいるか。まあ、どうだって良いことだが。
『ちょっと通話して良いか?』
『なんだよ。良いけど』
『ありがとな』
通話画面を開き、氷狩は柴田へ単刀直入に訊いてみることにした。
「よう、柴田。信じるか信じねェかはオマエの勝手だけど、おれァこの世界というパラレルワールドに入り込んだみてェだ」
『ガチか?』
「ガチだ」
『そりゃご愁傷さまだな。で? なにを聞きたいんだ?』
「おれって、この世界じゃどんなキャラだった?」
『そうだな。神谷、だっけ。アイツを毛嫌いしてた。発情期の犬みたいだって。それと、神谷の仲間も嫌ってた記憶がある。でも、カネがねェからあんなのとつるむしかないって』




