010 どうにかしてあげたいらしい
「シックス・センス? 映画とかで出てくる、あれか?」
「近いけれど、少し違うわ」
神谷は普段通り(もっとも、前いた世界に比べればだいぶ優しげだが)になり、
「簡潔に言うと、ヒトの意思を読み取れる能力。でも、それ以外の付与能力もある」
「たとえば?」
「使うのは難しいらしいけど、相手の能力のコードを〝受信〟して誤作動を起こすように〝改ざん〟した後〝送信〟することができるわ」
「あ?」
「要するに、どんな能力にもバグを起こせるってことよ」
神谷は淡々とした態度で言った。
「どんな能力にもバグを起こせる? そりゃあ、強すぎねェか?」
「ええ、だから特別に貴方へあげたのよ」
(気色悪ッ)
氷狩の知る神谷海凪は、性悪女だ。小学校のときからの付き合いだが、彼女は打算でしか動かない。しかし、相手の意思を読めてしまう能力なんて渡してしまったら、性欲爆発ガールの神谷の本質すらも知られてしまう。
となれば、あまり損得を考えず、神谷は氷狩に強力な能力を付与したわけである。
「まあ……、この世界で生き残るにァお誂え向きか。ありがとう、神谷」
「だったら、お礼してちょうだい」
「はぁ? ──いや、オマエとキスなんてまっぴらごめんだ」
「大丈夫、舌は入れないから……」
「そういう問題じゃねェ。なんか毒入れられそうで怖ェんだよ」
「……、そんなに並行世界の私って性格悪かったの?」
「悪いなんて次元じゃなかったぞ。今やってる仕事考えてみろ。ろくでもねェヤツらからの借金回収だぞ? オマエ、散々おれをこき使ってくれたし」
「そう……」
なんだか涙目になる神谷。さすがに言い過ぎたか? と氷狩は、すこし慰めようとするが、
その瞬間、
唇を奪われた。わずか2~3秒ほどだったが、神谷は酒でも飲み過ぎたかのように顔を真っ赤にさせている。
「おま、おれが潔癖症なの、知ってるよなぁ……?」
「ご、ごめんなさい」
「…………、」目を細め、「なんというか、神谷。オマエも苦労してるんだな。シックス・センスで脳内覗いたけど、ピンク色の先へは男絡みの苦労で満ちてる。顔良いから、余計に嫌な思いしてきたんだろ?」
この世界の若い男どもは、皆どうかしているようだ。神谷はこの世界での男性比率は1:10と言い、日本の若い男子に限れば100万人にも満たないとも語った。そして、少数派である男子たちは、多数派かつ能力で男を屈服させようとする女子に嫌気が差し、同性愛に走るらしい。となれば、パラレルワールドからやってきた氷狩のような、異性愛者かつ女の手垢がついていない存在は、とても珍しいに違いない。
「なんつーか……、本当に嫌な世界だな。ここ」
ほんのり泣き出しそうな神谷を見て、氷狩の心もすこし動く。いや、神谷と付き合うつもりは毛頭ないが、どうにかしてあげたいのも事実だった。
「まあ……、一朝一夕でなんとかなることでもねェしな。とりあえず、ふたつ言っておく。オマエと付き合うつもりは、少なくとも今はない。でも、なにかできそうなことがありゃ教えてくれ。幼なじみ兼仕事仲間として、見捨てやしない」




