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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

Q.熱血少年は、美少女ヒロインを夢見るのか? A.そんなことよりゲームしたい

作者: 黒犬狼藉

 ゲームが、したい。


 狂おしいほどに、ゲームがしたい。


 家に帰って、ゲームがしたい。


 そんな風に思い、頬杖を付く。

 真夏の補習授業、うっかり欠点を取ったばかりに開かれたソレ。

 俺は、その窓際の席で先生の話を聞き流す。


 奇妙な世界になったものだ、この日本という国も。

 一学生に過ぎないながら、様々な世界情勢はこの耳に入る。

 子供の妄想、そう思われても仕方ない話だが。

 しかし、この世界は奇妙なものへと変動していっているのは違いないだろう。


「赤桐くん、窓の外に興味深いものでもありましたかァ〜〜〜?」

「ヤベッ!!」


 20代後半30代前半に見える学校教師、国語科の先生の嫌味が飛んできた。

 非常に不味い、このタイミングで機嫌を損ねると学期成績はおろか学年成績も。

 クッ、おとなしく授業を聞くべきか。


「ヤベ、ってなんですか? ヤベって!!」

「まぁまぁ、葦名屋先生もそんなに興奮せずに……」

「そういう訳には行きませんよ!! 陽毬さんほど彼の成績は優秀でないし、それ以上に皆勤で欠点なんですよ!?」

「へいへい、すいませんね」


 一応、悪びれるが俺にも俺の言い分がある。

 そもそも、今回のテストが難しすぎた。

 テスト範囲はまさかの30ページ、ソレに加えテスト点の40点近くが漢字の書き取り。

 真面目に勉強しなかった俺に、その内容はあまりにも無理難題すぎた。

 なので、悪くない。

 文句を言うなら、過去の俺に言ってくれ。


「全く、その調子じゃぁ二学期初めにある『魔導生命機器(マジカルデバイス)』との対話も許可できませんよ? 私だって貴方を補修したくてやってるわけではないことをわかってください」

「わかってるから授業を受けているんじゃないっすか……」

「真面目に受けろ、って言ってるんです」

「まぁまぁ、先生もそうヒートアップせずに……」


 いつもの教室ならば更年期か、などのヤジを飛ばすバカもいるが生憎と今この教室にいるのは長期間体調を崩し学校にこれていなかったクラス1のマドンナである陽毬さんと、クラス1の馬鹿である俺だけだ。

 この状況を幸運と思える性欲に支配された頭の持ち主どもは、今ごろエアコンの効いた部屋でスマブラをしていることだろう。

 もしくは、部活の練習。

 野球部の仲田は、外でバットを振っている様子が見える。

 あ、今こっちを見た。

 歯を輝かせている、クソが。


「家に帰りたい、はぁ」

「ほ、ほら。真面目に授業受けなきゃ……、蒼代くん」

「へいへい、わかりましたよー」


 あ、そうだ。

 俺の自己紹介を忘れていた、別に興味がないかもしれないが。

 俺の名前は、赤積蒼代。

 異世界だとか、なんだとか。

 そんな騒々しい世界の中で、そんなことより成績が危うい男子学生の名前だ。


$$ $$


 時間はすっかり夕暮れ、学校が終わってコンビニで少年雑誌を読み耽っていたのが災いした。

 そろそろ帰らなければ、夕食が食べられない。

 カバンを半分だけ背負い、慌てて自転車を漕ぐ。

 自ずと足に力が入り、空腹で腹がなり始めた。

 急がなければ、その思いを馳せて力を込める。


 そんな時だった、その音が聞こえたのは。


 悲鳴、だが機械の合成音のような音。

 生命体が発するとは思えない声、だが明確に耳に届く。

 加虐、それは明白だろう。

 虐待、もしくは虐め。

 悪意を持って、その行動をしていると言うのは考えずともわかる話だ。

 だからこそ、俺は足を止める。


 キキー、ッ!!


 真夏の夕暮れ、目線を向けるは路地裏へ。

 息を吐きつつ、思考が沈静化し目が冴える。

 だが、感情は荒れ狂った。

 虐めは許せるものではない、絶対に。

 俺の目の前でそんなことをする奴は、必ず制裁を加えてやる。

 感情は行動より早く、行動は意思すら超越する。

 自転車を止めた俺は、カバンを適当にカゴに入れ。

 路地裏の中へと、足を向けた。


「いや、嫌だ!! なんでボクを迫害する!! ボクだって、キミと同じ存在じゃないか!!」

「ええ、()()()()排除するのです。貴方のような、不完全な魔導生命機器(マジカルデバイス)を生かせるはずがないじゃないですか?」


 声、ソレは明白。

 鼓動、俺は怒りを抑えない。

 悲鳴、再度攻撃は加えられたようだ。

 激怒、俺はより拳を握る。


 熱されたアスファルトを蹴り付け、一気にその女に迫る。

 そこに転げている、鈍色の機械生命体。

 つまりは『魔導生命機器(マジカルデバイス)』は抵抗できず、殺されようとしているらしい。

 敵うのか? そんな問いかけは、とうの昔に忘れ去っていた。

 体重全てをかけたタックル、顔を仮面で覆い正体を隠匿する彼女へと俺は突っ込んだ。


「ガッハッッッツツツ!!? 貴方は誰で……、何で手を出した!? 赤積蒼代(あかせきそうだい)!!!!」

「虐められてる奴を見て、守るのは悪いことかよ!!」


 俺の叫び、拳は少女の顔面を捉える。

 だが、捉えたと感じた瞬間にその拳は空を切った。


「何故、何故なのです!? 何故、貴方はそんなゴミを守るんですか!?」

「ゴミはお前だろ? あんまり呆れさせんなよ、クソボケが。」


 次は蹴り、体の軸を捻り放つケンカ殺法秘奥の技。

 クラスの善良ヤンキーこと、樹咲から教えてもらった技だ。

 くらえば必殺、10カウントも数えさせずに倒すという意志を込めた一撃。

 だが、今度もソレは空を切る。


 なるほど、違法に魔術を使用したか。

 『自立自動戦闘(オートバトライズ)』か? 魔術を使われるのなら俺の勝ち目は薄いだろう。

 だが、理性が動きを止めると思っているのか?


 彼女が魔術を使用していることを看破した、その冷静さを持っていると彼女が察知した瞬間に左腕で全力ストレートを叩き込む。

 もちろん無駄、喰らう訳ない。

 新たな世界、第二次の直後に異世界と融合した結果この世界には魔法という未知でありながら便利なものがありふれだした。

 そして、人類の脅威も存在している。

 モンスター、そう言われる類の生命体が普遍的に発生し出したのだ。

 そんな化け物どもと戦うために、異世界の技術を利用し作成されたアイテム。

 通称、『魔導生命機器(マジカルデバイス)』。

 ソレは、人が未知の化け物と戦うために作成された武器であり。

 ソレは、人が未知の化け物を改造し利用したアイテムだ。


「わかっているのでしょ!? 貴方じゃ私に勝てないと!!」

「知るか!! 殴れない程度で、何で諦めなくちゃならねぇ!!」


 ああ、そんな目で見てくるな。

 大人しく殴られろ、そんな憐憫と慈愛の目で俺を見るんじゃねぇ。

 加害者、人間のゴミが。

 お前は俺に殴られるべき、存在なんだよ!!


 拳、意思が乗る。

 意思、俺の憤怒がそこにあった。

 憤怒、生物に許された感情という特権。

 感情、ソレは時に理屈を超える。


「ハァァァアアアア!!!」


 フェイントもクソもない、ケンカ殺法。

 もちろん、普通に考えれば魔術という壁を突破できるはずがない。

 だが、可能性はゼロじゃなかった。

 胡散臭い確率論を乗り越え、俺の拳は確かに加害者に届いたのだ。


「……、キミなら……」

「何が、俺ならだよ? 虐められてるヤツ、名前は?」

「キミなら、ボクと契約で切るかもしれない!!」

「はぁ?」


 訳のわからない言葉に、俺は首を傾げる。

 何言ってんだ、まずは名前を名乗れ。

 だからこそ、その言葉を飾らずまっすぐに言おうとした時。

 俺は、いじめっ子に背を向けたことを後悔した。


「『戦術起動(スターター・オン)』『我が比翼は喇叭を吹く(タイプ・エンジェル)』、契約? 契約契約契約契約ぅ? させません、させません、させません刺せませんさせませんさせさせさせさせsssssssssええええeeee!!!!!!!!!!!」


 背後から、胸の周辺を貫かれた感覚がある。

 肋骨など、飴細工のように破壊された。

 さっきまでは、喧嘩の範疇だったはずだ。

 では何故、俺は()()()()()()()()


 後悔は、遅い。

 虐めを行っている奴が、まさか()()()()()()()()()なんて思いもしなかった。

 胸から垂れる血液、意思が喪失しそうになる。

 許可外での魔術の発動はまだわかる、有ってもおかしく無い。

 だが、『戦術起動核』の展開は。

 ソレは、ソレの許可外での発動は犯罪であり。

 それ以上に、人類を守護する『救済機関』に所属する人間の特権のはずだ!!

 何故、こんな片田舎で!!

 何故、こんな路地裏で!!

 何故、俺の()()()()()()()()()()が使えている!?


 意識は朦朧と、耳はついに音を拾わなくなった。

 だが、疑問は残る。

 この疑問が残り続ける限り、俺は死ねない。

 死んではいけない、その決意がある。

 

 体から剣が消えた、どこかへ『瞬間移動(テレポート)』したのだろうか?

 いや、そんな疑問はいい。

 今は、この血液を止めなけ……。


「ねぇねぇ、ボクと契約してくれない?」


 声が…………、聞こえ…………。


 意識が朦朧とし、俺は目を開けることしかできない。

 地面にぶつかる衝撃は、俺の体からさらに血液を噴出させる。


 死にたく…………、無い…………


「ボクと契約すれば、キミの命は助かるよ?」


 助か…………、本当………


 本当………、に……、たすか………


 もう考える余裕はない、助かりたいのならば手を取る他にない。

 ソレ以外の手段を、俺は持ち合わせていない。


 なら……、迷う…………、無い…………


「契約…………、する…………」

「うん、キミがバカで助かったかも?」


 ……………………


 もう、俺の耳は。

 俺の耳は、音を拾わない。

 そして、俺の脳は。

 もうすでに、思考力を失っていた。

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