気になる人
レナの送迎も3日目
彼女も光に警戒心を
なくしてきたようで
テレビ局へ向かう
バイクの後部席から
色々と世間話をしてきた。
昨日の出演では
2回ほど喋った事や
司会者のお笑いタレントは
テレビではニコニコしているが
裏では、すごく態度が悪いとか
出演したタレントしか
知らないような話を披露してくる。
その話を聞いた光は
学校でも
こんな感じで喋れば
クラスで孤立する事も
ないだろうに、と
考えていた。
そこで
『今の話って、教室でしたら
ウケました?』と
光が彼女に聞くと
『誰にも喋っていません』と
予想通りの答えが返ってくる。
『何で、おしえて
あげないんですか?』と尋ねると
『だって、学校の人達って
うわべだけの関係じゃ
ないですか?』と
氷姫の一面を
見せてきたのであった。
うわべだけ、って
言い方が他にあるだろ?
そんな言い方だから
人が寄り付かないんだよ
せっかく可愛いのに
勿体ない
そう思った光が
『逆にクラスメ-トから
テレビを見たよ、って
言われてないんですか?』と
話を振ると
『誰も関東テレビの夕方の
バラエティなんか
見ないですよ』と
自虐的に言った後に
『本当に誰も
見ていないのかな?』と
寂しそうに呟いた。
素直じゃないな
本当は見て欲しいんだろ?
そう考えた光は
レナをテレビ局まで送った後
次の現場に向かう前に
実家に電話をして
テレビ番組の録画を
妹に頼んでいた。
BlackExpressの
仕事が終わって
光が家に着いたのは
22時過ぎ
遅い夕食を食べながら
頼んでおいた関東テレビの
夕方からの生放送バラエティを
見ていると
すぐにレナが映る。
彼女は20人ほどいる
レギュラー枠の
アイドル予備軍の1人で
キャピキャピ騒いで
番組を盛り上げる
応援メンバーのような
扱いだった。
テレビ出演するタレントにも
色々な種類がいる。
大手プロダクションに
所属しており
事務所とテレビ局の間に
太いパイプが出来ており
番組内では
お姫様のように
扱われるタレントと
マネージャ-が
番組スタッフに
頼み込んで
バンジーや汚れ役でも
何でも良いから
出演させてくれ、と
頼んで
何とか出演させて貰う
その他大勢要員
レナは間違いなく
後者であった。
それほど芸能界に
詳しくはない
光でも、そこは
見ていて分かった。
テレビを見た翌日
学校では、
いつものように
レナの机の周りには
人がいない。
朝から
隣の席の光は
気にして見ていたが
男子生徒は、おろか
女子生徒も近寄らない。
昼休み、レナは
教室の外に出て行った。
誰とも喋らず
午前中が終わったが
そんな孤独でいる
学校が楽しいのか?
テレビ出演する為に
学校を早退する事を
頑なに固辞した話を聞いている。
その日、学校が終わり
既に日課になっている
公園まで歩いて来たレナは
『今日も、お願いします』と
バンさんと光に礼をして
お辞儀をした。
彼女がタンデムに乗り
テレビ局に向かって
5分ほど経った頃に
『今日の学校は
楽しかったですか?』と
光が聞くと
『はい、楽しかったです』と
彼女は明るい声で答えてきた。
え?
一日中、誰とも
喋っていないだろう?
事実を知っていた光は
意外だったが
一つ思い当たる事がある。
昼休みに教室から出て行った
あの時に、何処かに行き
誰かに会っていた?
そう思って
『学校での楽しい出来事って
何ですか?』と
光が質問したが
レナは答えてこない。
『レナさん?』
心配になった光が
後ろを気にしながら
話し掛けると
『はい、聞こえています』
ドギマギしながら
答えてきた。
何が楽しい?って聞くのは
やっぱり聞いちゃダメだったか?
そう思い始めた光だが
予想に反してレナが
『学校に気になる人が
いるんです』と
恥ずかしそうに
答えてきたのであった。
『気になる人?』
『彼氏ですか?』
ビックリした光が
レナに聞き返すと
『全然、そんなのじゃ
ありません』
『ただ見ているだけで
満足なんです』と
説明をしてきた。
昼休みに3年の校舎に行って
憧れの先輩を見ていたんだな。
光は、そう予想をして
『その人はレナさんの
知り合いなんですか?』と
聞くと
『知り合いって言えるのかな?』
『向こうは、私の事を全然
覚えていないみたいなんです』と
元気なく答えた。
『レナさんみたいな美人を
忘れる奴はいないでしょ?』と
光が言うが
『私なんて、全然可愛いく
ありません』
『最近テレビに出てみて
私なんか出ちゃダメじゃないか?』
『ここ何日かは
特に思っています』と
全否定している。
光のイメージとは違う
レナが弱い部分を見せていた。
私は美人だから許される。
だから常に強気でいる。
勝手に、そう思っていたが
本当の彼女は
好きな人を遠くから
眺める事しか出来ない
か弱い女の子であった。
『レナさんがテレビに
出ている事を
その人は知っているんですか?』
光が、そんな質問をすると
『知らないと思います』
『と言うか、学校の誰も
知らないんじゃないかな?』と
自信なさげに言ってくる。
それを聞いた光は
『レナさん的にはテレビ出演は
内緒にしておきたい事なの?』
『それとも、皆んなに
知って欲しい事なの?』と
質問をしてみると
『自分から見て、見てとは
言えないですけど』
『どうせだったら
見てくれたら嬉しいかな?って
感じです』と
微妙な乙女心を
吐露している。
そんな話をしている内に
テレビ局に着き
レナを下ろした光は
ある事を考えていた。
次の日、学校に着いた光は
『テレビ見た?』と
友人に会う度に聞いていた。
『2年1組の大悟レナが
テレビに出ているらしいよ』
光の話は友人の古橋が
スピ-カ-となり
午後には学校の半分の
人間が知る事態となっていた。
それに伴って休み時間に
なる度に増えている
ギャラリーの数は
レナを見たさに集まった
野次馬の集団である。
『かお、ちっちゃい』や
『めっちゃカワイイ』と言った
声が彼女の耳にも入ってくると
顔を真っ赤にして照れている。
そこにクラスの女子3人が
レナの机に近づいて来た。
『大悟さん、ちょっとイイ?』
『この雑誌のモデルも
大悟さんなの?』と
スマホを見せながら
彼女に聞いている。
そこには彼女がモデルとして
女性ファッション誌に載った
写真が写っており
それを確認したレナは
『そうだよ』と
照れながら答えた。
『大悟さん、いつから
モデルをやっているの?』と
別の女子も話し掛けて来て
いつのまにかレナの
机の周りには
クラスの女子の輪が
出来ている。
以前は、そんな女子を
避けていたレナだったが
今日は照れながら
クラスメ-トの
質問に答えている。
この日をキッカケに
レナはクラスの女子と
LINEを交換して
1人で休み時間に
いる事はなくなったのであった。