ラスト2週間
『契約延長しない?って
どういう事ですか?』
レナはマネージャ-である
東さんに食ってかかる。
『俺に怒るなよ?』
『どうやら秘密の運送屋を
廃業するらしいんだ』
そう説明を始めたが
レナは納得していない。
『悪い冗談だよバンさん』
光は笑って、取り合わない
だがバンさんは真顔で
『今日、お客さんが来た』
『その人はウチらの事を
調べていたみたいで』
『その中で
Black Expressの存在を
知ってしまったようだ』
事態が冗談じゃないと
察した光が
『そいつに脅迫されたの?』と
怒った口調でバンさんに
確認すると
『いや、むしろ心配を
して下さっている』と
かしこまった物言いだ。
『誰よ、ソイツは?』
臨戦態勢の光がバンさんに聞くと
机の上に一枚の名刺を出した。
イルマ工業株式会社
二輪車販売促進部
部長 霧山 剛
『レ-スから撤退した
イルマ工業が
俺らに、何の用事なのさ?』
怒りの感情が前面に出ている
光が、そう聞くと
『イルマがレ-スに
復帰するそうだ』
日本のバイクメ-カ-は
かつてバイクレ-スで
世界中を席巻していた。
だが日本内での売り上げ減少
カ-ポンニュートラル
他のモ-タ-スポ-ツの
人気上昇も影響して
日本メ-カ-のチカラは
弱くなっていき
今ではイタリアメ-カ-を
筆頭に外国勢が
世界のバイクレ-ス界を
牛耳っていた。
その流れでイルマ工業は
日本、世界のレ-スから
会社として
撤退していたのである。
『国内レ-スを復帰するに
当たって』
『イルマは俺に白羽の矢を
立てた訳だ?』
そう光がバンさんに
確認すると
『少し違う』と言った後
『世界ラウンドを戦う
レ-サ-として
お前に依頼が来た』
そう告げたのであった。
『待ってよ、バンさん』
『冗談だよね?』
ライブハウスに出ている
インディ-ズバンドに
世界デビューしませんか?と
言っているような話に
光は震えている。
『ただし条件がある』
バンさんは、そう光に
話す。
『条件って何よ?』
震えた声で光が
確認すると
『来年からイルマの
マシンに乗って
日本チャンピオンに
なって貰う』
『3年連続日本チャンピオンとなった
早田光が世界デビューする』
『イルマとしては
それをマスコミに
大々的にアピールしたい』
バンさんが霧山部長に聞いた話を
そのまま伝えると
『待ってよバンさん』
『チ-ムダイナは
どうするんだよ?』
おそらくイルマ工業は
メ-カ-直属の
レ-スチ-ムの一員として
光を採用しようと
している、そう考えたのだ。
去年チャンピオンになった後から
国内メ-カ-から
ウチの専属にならないか?
そんな誘いは
何回もあったが
バンさんと二人三脚で
チ-ムダイナだと言って
光のみのスカウトを
断ってきた。
そこが気になる光は
質問をすると
『チ-ムダイナにイルマが
全面的に協力する』
『マシン、タイヤ、部品の全て
更にメカニック5人を
派遣してくれる協力体制だ』
光は衝撃を受けていた。
それはメ-カ-直属チ-ムである
ワ-クスと遜色ない扱いである。
個人参加だった光達は
今まで全て自分達で
準備をしてきた。
参戦エントリー代だって
バカにならない
『サ-キットまでの
トランスポ-タ-は?』
光が笑いながら質問すると
『当然、イルマ工業が
トラックで全て
準備をしてくれる』
『そうか』
『ワンボックスで自分達で
運ばなくて済むんだ』
光達のように個人で
参加している人達は
ワンボックスカ-に
マシンや工具を全て積んで
自分達で何百kmも離れた
サ-キットまで
徹夜で向かって
車中泊をして
レ-スに参加していた。
『更にサ-キットでの
練習走行会にも
招待してくれるそうだ』
平日のサ-キットは
イベントはなく
空いている事が多いので
お金を払えば
貸し切りで走行会を
する事が出来る。
バイクメ-カ-は
試運転や試作品のテストを兼ねて
よくサ-キットを貸切にする。
そこに招待される事なんて
全く考えていなかった。
公道しか走れないのに
勝ち続けていた光が
イルマ工業の支援を得たら
レ-スで、どれだけ活躍するか?
バンさんも楽しみであった。
『その話を持って来た
霧山部長さんに怒られたんだよ』
そう言ってバンさんは
霧山部長の話を再現する。
早田光に興味を持った
イルマ工業は
早速、彼の事を調べた。
すると現役の高校生である事も
驚いたが
放課後にバイクショップダイナに
寄っては黒づくめのツナギに
着替えて
怪し気な運送屋をしている。
もし、公道で事故にあったら
どうする?
日本の宝だぞ?
公道での事故は
良くて骨折
悪けりゃ、あの世だ
今すぐに、止めさせろ!
危険だと思われがちな
バイクレ-スだが
レ-スの最中に事故を
起こした場合は
すぐに医師が駆けつけ
サ-キットに常備されている
救急車で病院に直行出来る。
だが公道で事故を
起こした場合
誰かが通報してくれるまで
現場に放置となり
遠くの消防署から
救急車が到着するまでに
時間がかかってしまう。
非合法なバイク便で
毎日、公道を走るのは
それだけリスクが増える。
事故に会わなくても
警察に逮捕されて
ライセンスを剥奪されたら
どうする?
来月からイルマ工業が
残りの年内レ-ス参戦も
サポートするから
危険なバイク便を
止めろ、と
霧山部長は
言ってきたのであった。
『先方の話に納得した俺は
光に悪いが
お前に相談する前に
この話を受諾した』
『やはりBlack Expressには
リスクが伴う』
『レ-スをする資金が
乏しいから
危ない橋を渡っていたが』
『資金に目処がつけば
もう必要はないだろ?』
そう言われた光も
納得をしている。
だが、ふと気付いた。
『レナの送迎は?』
彼女をテレビ局まで
送る仕事は残っていた。
『実は東から連絡があって』
『更に半年、送迎を
延長してくれ?と
依頼があったが』
『廃業する事を伝えて
延長を断った』
『当初の契約は破棄出来ないから
あと2週間でレナさんの送迎も
終了する』
『明日からはレナさんの
送迎だけだ』
そう聞いた光は
少し寂しさを感じている。
イルマ工業による支援で
レ-スに専念出来る。
だが、レナとの
2人きりのタンデムが
あと2週間で終わる事は
残念であったのだ。
レナは、Black Expressの
廃業の事を聞いたのか?
それを光は心配している。
だが、夢であった
世界戦への参戦が見えた話の
高揚感が高まり
そちらへの関心の方が
大きくなっていた。
実は霧山部長はバンさんに
もう一つ重要な話を
していたのだが
その事実を光は、
知らされていなかったのである。




