契約終了
警視庁広域捜査課
一般的に警察は縄張り制で
エリア事に担当地域を
決めて犯罪に当たっている。
だが犯罪者が
Aのエリアだけじゃなく
BのエリアやCのエリアに
出没していた場合
エリア制度が邪魔になって
犯人を逃してしまう可能性がある。
そこでエリアを
取っ払って捜査が出来る
組織を作ったのが
広域捜査課であった。
おもに殺人事件までは
いかないが
凶悪犯罪を捜査する筈
その連中が何故ウチに?
BlackExpressがバレた?
バレる訳ない。
大丈夫だ。
『警察の方がウチに
何の用ですか?』
油で黒くなった手を
ウェスで拭きながら
バンさんは
警察に質問をする。
『すいません、ちょっと
お聞きしたい事があるんです』と
年上の先輩風の男が
バンさんの目を見ながら
説明を始めた。
『振り込め詐欺の
犯人グループが
逃走した時にバイクで
逃げました』
『そのバイクを探していて
バイクショップを
回っている次第です』と
趣旨を説明する。
ウチには関係ないな
そう判断したバンさんは
『何か特徴はありますか?』と
急に前のめりで
話を聞き出す。
『緑色のボディーカラ-で
レ-サ-タイプです』
若手の男が
バンさんに説明すると
『だったらKawasakiの
ニンジャじゃないかな?』
『ウチでは取り扱いしてないから
お客さんにも知り合いにも
いないですね』と
工具を片付けながら
警察に説明をする。
『そうですか』
『後で気が付いたら事が
ありましたら連絡を下さい』
そう言って年上の刑事は
バンさんに名刺を渡して
店を出て行った。
2人の刑事が去った後
バンさんは店で考え込む。
対象がライムグリーンの
バイクだと分かっていて
HONDAの販売店である
ウチに聞きに来るか?
バンさんは
渋い顔をして考え込んでいた。
その時バンさんの携帯が鳴る。
相手はレナのマネージャ-の
東さんである。
『バン、お前に頼んでいる
トランスポータ-の契約だけど』
『一カ月の契約だったけど
後、半年ほど延長をして
貰いたいんだよ』
明るい声でバンさんに
そう伝えているが
『契約延長なら
ライト共、相談しないと
ダメだから』
『その話は保留に
しといてくれ』と
即答を避ける。
プラス志向の東さんは
重く考えずに
『じゃあ、宜しく頼むよ』と言って
電話を切った。
長期契約は収入は安定するが
毎回同じルートを走るので
何回も目撃されて
身バレに繋がる可能性が大である。
だから大幅に譲歩して
一カ月の長期契約を受けた。
それが半年の延長では
リスクが高い
そう考えたバンさんは
BlackExpressの
仕事を終えて
バイクショップダイナに
戻って来た光に
全てを話した。
『警察が来たのは
偶然じゃないかな?』
『最近は白バイに
追いかけられた事はないから』
『交通機動隊も
関係ないでしょ?』と
光は気にする必要はないと
主張している。
『せめて、あと2週間
レナちゃんの送迎は
光のCBRで走った方が
良いと思うんだ』
そう言ったバンさんの
発言に
『それこそ、そっちの方が
俺がライトだって
レナにバレちまうよ』と
光が猛抗議するが
バンさんは
『レナちゃんには
光の身元をバラして
協力して貰った方が
動き易いだろう?』と
反論してきた。
それを聞いた光は
頭を抱えている。
そこから光は
毎日、テレビ局に向かう途中で
レナの恋愛相談を聞いている事
その密かに憧れている相手が
光自身だと聞いてしまっている事を
バンさんに説明した。
『レナの気持ちを黙って聞いていて
今更、ライトは俺でした』
『そんな事は絶対に言えないよ』と
光が説明しているが
バンさんは固まったまま
動かない。
『バンさん?』
心配した光がバンさんに
話し掛けると
『お前、ふざけるなよ』と
光に食ってかかる。
『俺のレナちゃんを
取りやがって』と
怒っているのだ。
『ちょっと待って
落ち着いて話を聞いて』
そう言って
学校での出来事や
レナとの会話の詳細を
バンさんに説明をするが
『それって結局
レナちゃんはお前の事を
好きって事じゃないか?』と
バンさんは興奮したままだ。
『じゃあバンさんは
レナと付き合いたいの?』と
光が聞くと
『当たり前だろ?』
『結婚したいと思っているよ』と
真顔で結婚宣言まで
飛び出してきている。
レナは17才でバンさんは34才
半分の年は犯罪だろ?
オジサンとレナが言っていた事は
気の毒だから
黙っていこう。
『なら光はレナちゃんと
俺の恋路を邪魔しないって事で
良いんだな?』
そうバンさんが聞いて来たので
面倒臭くなっていた光は
『それで大丈夫です』と
言って、その場を納めた。
とりあえず明日以降も
今日までと同じ
送迎スタイルで対応する事を
確認した2人である。
だが翌日
光が学校に行っている間に
バイクショップダイナに
背広を着た会社員の男性が
バンさんを訪ねて来た。
30分ほど店内で
バンさんと喋った男性は
やがて店を後にする。
するとバンさんは
携帯を取り出し電話を
かけ始めた。
『おう東、昨日連絡を貰った
半年の延長の話だけど
悪いけど他を当たってくれ』
『ウチはBlackExpressを
廃業する事にしたから
続けられなくなった』
そう淡々と
伝えたのであった。