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青い空
僕の胸にまたあの歌詞が湧くように蘇えってくる。
ー彼女は自分の痛みを癒すために吹いているのではない。
ー恋人の魂が鎮まることを願ってこの唄を吹いているのだ。
彼の思いを代わって歌うように吹くメロディーは、何度か途中で途切れた。
何度途切れても最後まで吹き続ける彼女のメロディーを体に沁み込ませながら僕はそう気づいた。
滲んだ景色の向こうから『ふるさと』を吹く、もう一つのメロディーが聞こえた。
帰りのバスを待つ間、後輩たちと語らいながら、僕は青木君の顔を思い出そうとした。
しかし、やはりもう彼の顔ははっきりとは思い出せなかった。
霧の向こうに薄くその影だけが、浮かんだと思うと追いかけようとする僕から逃げるように何処かへ行ってしまった。
バスに乗ろうと、ステップに脚を踏み出す前に、ふと空を仰ぐ。
眩しい新緑の木々上に、雲一つない淡い光を放つ五月の空があった。
だれかに呼ばれた気がして、空に向けていた視線を後ろに向けた。
僕の背中を、若い風が撫でていった。
完