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【76】やったか……?


 展開した「空間識別」の「視界」の中で、繭のように丸まったイヴィル・ファミリアが急速に凍りついていく。


 氷はすぐにファミリアの巨体を覆い尽くし、それだけに留まらず、周囲の海水すら巻き込んで凍らせていった。


 程なく、一個の巨大な氷山が形成される。ファミリアは氷山の中に埋もれて、眠ったように微動だにしない。


『やったか……?』


 あえてフラグを立ててみる。


 実のところ、これでファミリアが殺せたとは考えていない。


 何しろ奴は邪神の眷属だ。邪神がどのくらい強いのかは知らないが、女神様の眷属たるリヴァイアサン専務があれだけ強いのだ。第二楽園島で専務から一方的に葬られていたとはいえ、専務と同じ「神の眷属」というカテゴリに属する存在が、いくら海霊石の力を借りたとはいえ俺ごときに倒せるのかという疑問があった。


 だからすでに、追撃の用意はしていた。


 奴が動き出した瞬間、さらに極大アイス・ランスを叩き込んでやるつもりだった。


 だが……、


『…………』


 幾ら待ってもファミリアが動き出す気配はない。


『限界突破』の持続時間もある。痺れを切らした俺は、こちらから仕掛けることにした。


 海霊石の膨大な魔力を使用して、ファミリア入りの氷山を砕ける威力のアクア・キャノンを放つ。


 海水の砲弾は勢い良く氷山を穿ち、氷の山を内部のファミリアごと、粉々に打ち砕いた。


 直後――、


『こ、れは……!?』


 戦場から神殿。この距離でも経験値は流れ込んで来るらしい。


 未だかつて感じたことがないほどの、急激な力の上昇。レベルアップ特有の感覚を何十倍にも高めたようなそれは……、


『レベル、上がってやがる……』


 ステータスを確認してみた。


 戦闘開始前には8でしかなかったレベルが、一気に上昇していた。



【レベル】36



 間違いなくレベルが上がっている。


 レベルが上がるのは、敵を倒したからだ。そしてこれだけレベルが上がるのは、強い敵を倒したからだ。


 それはすなわち、イヴィル・ファミリアが死んだことを意味していた。



 ●◯●



『はぁあああああ~』


 全身から力が抜ける。


 俺は発動していた『限界突破』も『氷精』も解除して、海霊石の上にべちょんと落下した。


 まさか本当に倒せるとは思っていなかったが、何とか倒せた。むしろ女神様の言う時間稼ぎだったら海霊石を使っても無理だっただろうな。


 ともかく、『限界突破』の副作用で体が異様にダルい。【HP】は二桁、【MP】はギリギリ三桁といった有り様で、そこから回復する様子がない。


『氷精』を使っていたはずだからHPは常に回復していたはずだし、MPも海霊石から引き出して回復していたはずなのに、『限界突破』を切った途端このざまだ。


 しかし何にせよ安心したぜ。今回ばかりは無理だと思っていたからな。


『アクア様?』


『あ、ごめん、ネイア』


 ネイアに名前を呼ばれて、俺はハッと我に返った。


『イヴィル・ファミリアは倒したぜ』


 そしてファミリアを倒したことを告げる。


『まあっ!? 本当ですか!?』


『うん、本当』


 さすがのネイアもファミリアを倒せるとは思っていなかったのか、しばらくの間、信じられないというように驚いていた。


 しかし、俺がこうして脱力している様子や、嘘を言ったところで意味がないと思い至ったのか、ファミリアに勝利したという事実にネイアの顔が明るくなる。緊張していたように力の入っていた両肩から、力が抜けていくのが見ていて分かった。


『良かった……ありがとうございます、アクア様』


『まあね。どういたしまして……って、あッ!?』


『アクア様?』


 そこで思い出す。


 まだ全部は終わっていなかったことに。


 俺を無視してアトランティスへ向かったサハギンの大群が、まだ残っているのだ。しかも、今の俺は『限界突破』の副作用で戦うことができない。完全にレウスたちやアトランティスの兵士たちに任せるしかない状態だ。


 果たして彼らだけであの数のサハギンどもを倒せるのか。


 倒せなかったらどうしよう。


 慌てて千里眼もどきでサハギンたちを探し出し、その様子を確認してみると……、


『お、おお……! 良かった。こっちは、何とかなりそうだな』


 そこには数百人の兵士たちによって、次々と掃討されていくサハギンどもの姿があった。


 先頭近くで兵を率いているのは、どうやらレウスではなくアリオンみたいだな。


 んで、アリオンが率いている兵士たちと言うのが、普段目にしている一般兵士ではないっぽい。明らかに質の良さそうな軽鎧を身に纏い、武器を含めて統一された装備をしている。


 そんな兵士たちが杖みたいな武器に魔力を通して魔法を放っているのだが、その魔法の使い方が面白いんだ。


 おそらく、杖には属性や威力を補助する効果があるのだろう。だがそれだけではなく、何人かで一組を作り、複数人で一つの魔法を練り上げ、発動している。その結果、かなりの威力を持った攻撃魔法がサハギンたちに向かって放たれていた。


 名付けるならば合体魔法……いや、集団魔法って感じかな?


 大抵は大きな水の刃を作り、それを「射出」しているみたいだ。


 その威力は俺から見ても中々のもので、一回の魔法で10体近くのサハギンを次々と葬っていく。


 数では圧倒的にアリオンたちが不利のはずだが、戦いはほぼ一方的なようにも見えた。アリオンたちの思わぬ強さに、不思議とサハギンどもは右往左往しているようにも見える。


『アクア様、どうされたのですか?』


 何かあったのかと心配そうに問うネイアに、俺は『ごめんごめん』と再び謝りつつ、アリオンたちの戦況を語って聞かせた。


『この調子なら問題なく終わりそうだな』


『良かったですわ……』


 ネイアも再び安堵した様子だ。


 俺もドッと気が抜けた思いだが、まだ確認しなければならないことがある。それは、俺が海霊石を使うのを最後まで躊躇っていた理由だ。


『ネイア、ちょっと確認してもらいたいんだが』


『はい、何でしょうか?』


『アトランティスの結界って、今、どうなってる?』


 海霊石は結界の要であり、結界を維持するための動力源でもある。その動力たる魔力を、俺は遠慮なく使ってしまった。いや、魔力を惜しんで勝てる相手じゃなかったからな。


 だが、その結果、結界がどうなったのかは確認しておかなければなるまい。


『今、確認してみますわ』


 ネイアは真剣な表情になると、海霊石に手を翳して目を閉じた。


 それから数秒、再び目を開けると少しばかり弱ったような顔で、


『やはり、結界は消失しているようです。復旧には、早くとも数日は掛かると思います』


『あ~、やっぱりそうか。なんか、ごめん……』


 予想はしていたけど、案の定だったな。


『いえ、謝らないでください、アクア様』


『うん……。でも、結界がなくなってアトランティスは大丈夫かな?』


『数日程度ならば、大きな問題は起こらないと思いますわ』


 ネイアによると、サハギン以外の魔物が襲って来るかもしれないが、数日程度であれば兵士たちで十分に対処できるだろう――という話だった。


『そっか。それなら良いんだけど』


 兵士たちの疲労が再び天元突破しそうな気配。


 仕方なかったとはいえ、その原因を作ってしまった俺は、心の中でデスマーチに駆り出されるだろう兵士たちに謝っておいた。




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