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【73】脱獄、そして死闘


 女神様と繋がっていた『神託』が切れた後、俺はすぐに亜空間から槍を取り出した。


 槍を装備するということはつまり、それを使うということ。


 当然だが、牢獄の中にいてはサハギンども相手に槍を当てることはできない。


『脱獄、かぁ……』


 これで俺の冤罪が、また一つ信憑性を深めてしまうのだろうか?


 いやでも、皆を助けるためだし、ネイアたちも庇ってくれるはずだ。きっと大丈夫だと信じよう!


 それにそもそも、邪神の眷属を含むサハギン軍団は、遠隔魔法オンリーという舐めプでどうにかできるような相手じゃない。本気を出して戦うしかないんだ。


 俺は覚悟を決めて、アトランティス外縁より数キロの地点に転移した。


『…………ふぅ、帰りたい……』


 転移した俺の前方に、半ば以上黒く染まった2000のサハギンたちと、それすら上回る威圧感を放つ、巨大なイヴィル・ファミリアがいる。


 どう考えてみても、勝てるとは思えない。


 戦闘開始前からすでに帰りたい気持ちでいっぱいだが、なけなしの勇気を振り絞ってその場に留まる。


『足止めだ……勝つ必要はないんだ……足止めするだけだ……よしっ!』


 気合いを入れ、スキルを発動した。


『――限界突破ぁああああッ!!』


 瞬間、俺のパラメータが強化される。



【身体強度】50(+1)(+51)

【精神強度】1876(+18)(+1894)



『お、これは……!』


 ステータスを見ると、妙な上がり方をしていた。


 少し考えて、心当たりに思い至る。


 たぶん、『一騎当千』の効果が発動しているんだ。強化としては微々たるものだが、少しでも強化されるならそれに越したことはない。


『まずは……数を減らすッ!!』


 使うのは水魔法。


 複数に対する攻撃力という点では、氷雪魔法よりも水魔法の方が現状では上だ。ここが海という環境もあるし、使い慣れているしな。


 そんなわけで、俺は一気にMP1000を込めて、特大の魔法をサハギンの大群の真ん中に展開してやった。


『サハギンさんたちごきげんよう! 死ねぇえええええッ!!』


 水魔法――アクア・トルネード


 逆巻く水流の竜巻は、もはや自然災害のような規模となる。


 轟々と渦巻く巨大な竜巻に次々とサハギンたちが呑み込まれ、竜巻内部で待ち構える無数の水刃たちが絶え間なく切り刻んでいく。


 無色透明だった竜巻は瞬時に鮮血に染まり、禍々しい威容を周囲に見せつける。


『限界突破』した上で大量のMPを消費した、渾身の一撃。巨大竜巻は2000を超えるサハギンたちの優に半数以上を呑み込んでいた。そしてさらに、時を追うごとに被害は拡大し続けている。慌てて逃げようとするサハギンたちが、逃げきれずに竜巻に引き摺り込まれては命を散らしていく。


 これは一撃で結構な数を減らせるんじゃないか?


 予想以上の戦果を期待した時だった。


 ――黒い何かが巨大竜巻を通りすぎる。


 直後、魔法は中断され、竜巻が消失し、内部に取り込まれていたサハギンたちが解放された。確実に1000体以上は葬れると思われたアクア・トルネードは、しかし、途中で中断されたために、その半分にも満たない数を倒しただけで消えてしまった。



『――――は?』



 何が起こったのかは「見て」いた。


 何ということもない。ただ、サハギンの軍勢の後ろから、イヴィル・ファミリアが蛸のような触手の1本を、太く長く変化させ、横薙ぎに振るっただけのこと。


 だが、ただそれだけで俺の渾身の魔法は掻き消されたのだ。


『無理ゲー……すぎる……!!』


 竜巻から解放されたサハギンたちがてんでバラバラに散らばり、俺を迂回するように動き始める。どうやら俺を無視してアトランティスを攻めるつもりらしい。


 できるだけサハギンどもの数を減らすべく、追撃するべきだろうか?


『いや……アイツらはレウスたちに任せるしかねぇ』


 俺に有象無象を追撃する余裕はなかった。


 イヴィル・ファミリアだけは真っ直ぐにこちらへ向かってきている。その視線が俺を注視しているのが本能で解る。ぞわぞわするような悪寒みたいな感覚が消えない。


 サハギンどもはレウスたちが何とかしてくれると信じるしかなかった。


『――――む!?』


 イヴィル・ファミリアが触手の1本に力を込めるように、たわめるのを見た。その先端はこちらを向いている。


 俺と奴との間合いは触手の長さよりも遥かに遠い。しかし、奴が触手の長さを変えることができるのは、すでに知っていた。


『転移ッ!!』


 ――した瞬間、一瞬前まで俺がいた空間を太い触手が貫いていた。


 まともに認識することもできないくらいの、ふざけた速さだ。だが、転移があれば何とか回避はできる。


 そして――、


『おらぁああああああッ!!』


 ファミリアの背後に転移した俺は、すかさず魔法を放った。


 氷雪魔法。


 範囲攻撃なら水魔法に軍配が上がるが、単体攻撃ならスキルレベル7でも氷雪魔法の方が遥かに上だ。


『氷精』を発動し、「氷結」と「造形」で巨大な槍を形作り、「硬化」で固めて「水中抵抗軽減」を付与し、「射出」で撃ち出す。それに「氷結付与」と「凍撃」で乗せられるだけの氷雪属性を乗せた。


 消費MPは驚異の800MP超え。


 マンハント・シャークを一瞬で凍らせたアイス・バレットを遥かに上回る、今の俺が繰り出せる、正真正銘最強の単体攻撃だ。


 ――極大アイス・ランス。


 氷の槍はサハギンの姿をしたファミリアの上半身、その背中へと外れることなく突き立った。


 矛先は完全に埋没し、長い柄の部分の半ばまで埋まる。そして槍が突き立った場所を中心として、ファミリアの漆黒の体表を氷が覆っていく。


 氷はファミリアを浸蝕していき、時を遅くしたように動きを緩慢なものへと変えていく。


 そして――――程なく、ファミリアの上半身が氷によって覆い尽くされた。


『…………』


 そこに駄目押しの魔法を放つ。


 MP200を消費した、アクア・キャノン。


 海水の砲弾は巨大なファミリアの背中を穿ち、その衝撃によって、氷像と化した上半身を粉々に砕いた。


 巨大な氷塊が、小さな破片が、海中へ散乱していく。


 ファミリアは完全に上半身を失った。


 普通なら死ぬ。普通じゃなくても大抵死ぬ。


 だが――、


 うぞり、と。


 ファミリアの下半身の断面が蠢いた。


 うぞうぞと波打ったかと思うと、ボコボコと沸騰するように泡立つ。それは見る間に体積を増していき、ほんの数十秒で傷一つない上半身を再生した。


 ファミリアがこちらを振り向き、巨大で無機質な眼球をこちらに向ける。


 まったく元通りというわけではない。その体積は明らかに縮んでいた。今の体長は30メートルといったところだろうか? 縮んだのは数メートル。


『……ふむ』


 どうやら俺でも、極大アイス・ランスを撃ち込みまくれば、こいつを倒すのは可能かもしれない。


 だが、それまでにいったい何回アイス・ランスを撃ち込めば良いんだ?


 すでにMPは300以下なんだが。




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