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【67】人を見た目で判断しちゃダメだよな


 いけ好かないイケメンだと思っていたアリオンは、良い奴だった。


 俺に対して丁寧に礼を述べた後、アリオンは穏やかな雰囲気で何か困っていることや不便なことはないか、欲しい物や自分たちに求めることがあれば遠慮せず何でも言ってほしいと言ってきた。


 その雰囲気が、さすがは兄妹というべきか、何処となくネイアと似ていたのも一因だろう。俺の好感度メーターはプラスの方にどんどんと傾いていく。


 やっぱり人を見た目で判断しちゃいけないよね。


 イケメンにだって性格の良い奴はいるんだよ――と、ある意味すでに偏見に満ちた考えを抱きながら、アリオンと他愛のない話に興じる。


『ところで、アリオンたちはこんなところで何してんだ? 兵士たちも連れてるし、もしかして何かあったのか?』


『いえ、何かあったというわけではありません。ようやくサハギンの襲撃が止んだとはいえ、まだ数日ですからね。警戒を緩めないためにも、こうして兵を率いて巡回しているのです』


『王子様自らか?』


 そういえばレウスも兵を率いてアトランティスの外にいた時に、サハギンの襲撃に遭っていたが。あれも巡回……というか、サハギン討伐のために外に出ていたのだろうか?


 だとしたら、この国の王子様フットワーク軽すぎじゃない?


 そんな疑問を抱く俺に、アリオンは苦笑しつつ答える。


『王子と言えども、私は第二王子ですから。いずれは臣下となって兄上をお支えする立場ですから、今の内にこうして色々と学んでいるんですよ。それにアトランティスの民を護るのは、王族として当然の務めですから』


『ほえー』


 何こいつ、イケメンのくせにめっちゃ良い奴。


 イケメンなのに性格もイケメンなところとか、レウスとそっくりだな。


『ところで、一つ伺ってもよろしいでしょうか?』


『ん? なに?』


『使徒様はいつ頃までアトランティスに滞在なさるのでしょうか?』


『え』


 え。


 なに、その質問。


 もしかして俺が神殿の一室で実質ニート状態なのを咎める気なのだろうか? ネイアとサーチャを侍らせて「あ~ん」に興じているのを知られているのだろうか?


『申し訳ありませんが、働かない無駄飯食らいを養っておく余裕は、我がアトランティスにはないのです。即刻お帰りいただきたい』


 とか言われたら、俺のジェリーハートは一撃で粉々だぞ?


 戦々恐々とする俺の様子に、しかしアリオンは慌てた様子で言った。


『あ、いえ! 勘違いさせてしまったのなら申し訳ない! もちろん、使徒様がお望みになるならば、幾らでもいてくださって構わないのです!』


 ほっ。良かった。


『しかし、使徒様ともなれば、色々とお忙しいでしょう?』


『…………』


 忙しい?


 ……うん、まあ……忙しい、かな。


『そんなお忙しい使徒様を、いつまでも我が国に留め置くのは、心苦しいものがあります。アトランティスの民だけではなく、他の地にも使徒様の救いを必要としている人々は、きっと数多くいらっしゃるでしょうから』


『……あ、うん……まあ、まあ、ね……?』


『ですから、もしも使徒様がアトランティスを御心配下さっているゆえに去ることができないのなら、その心配は無用だということをお伝えしたいのです。幸い、使徒様の御尽力のおかげで、ここ一週間ほどはサハギンの襲来もありません。その間、兵たちも十分に休養をとることができました。もしまたサハギンの襲来があったとしても、次は私たちだけで十分に撃退することができるでしょう』


『…………』


『ですので、もし使徒様に我々がご無理を強いているのなら、どうか遠慮せず次の使命を果たしてくださいませ』


 次の、使命、か……ふっ。


 いや、そんなもんはないんですけど!


 でもなんか、そうとは言い出しづらい雰囲気なんですけど!


 ネイアも何かを憂えるような表情でこっちを見てるんですけど!


 まあ、とはいえ。とはいえ、だ。


 そもそも本当に、他にやるべき事などないのだから、これは正直に告げるしかないだろう。女神様も第二楽園島で会った時以来、何の音沙汰もないしね。


『いや、別に無理をしてるわけじゃないぞ。女神様からはサハギンを駆逐しろって言われてるし、今は本当にいなくなったのか様子を見てる段階なんだ。今は、本当にたまたまなんだけど、他に仕事はないしね、うん。本当にたまたまなんだけど』


 俺の言葉に、ネイアは何処か安堵したように微笑んだ。


『ふふっ。それでは次の使命が下されるまで、どうぞアトランティスでゆっくりしていってくださいませね、アクア様』


『う、うん。よろしくね?』


 どうやらネイアには『この無駄飯食らいがッ!』とは思われていないようで、俺もほっとしたぜ。


『……なるほど、そうでしたか』


 一方、アリオンも理解したようにアルカイックスマイルを浮かべた。


 うん、その表情だと本当はどう思っているのか分かりにくいから、一抹の不安を禁じ得ないんだけど。その生温かい笑み、もしかして俺の見栄を見抜いちゃってる感じ?


『どうやら、差し出がましいことを言ってしまったようです。使徒様、お許しください』


『いや、許すも何もないだろ。別に俺は気にしてないし』


『ありがとうございます。それでは、どうぞお好きなだけアトランティスにご滞在下さい』


『うん、ありがと』


『では、私たちはこれで。巡回の続きに戻りたいと思います』


『ああ、頑張ってな』


 というわけで、話はそこで終わることになった。


 使徒としての仕事についてとか、深く突っ込まれなくて良かったぜ。何て答えれば良いか分からないからね!


『んじゃあ、時間も時間だし、俺たちも今日は帰るか』


『そうですね。帰りましょうか』


『はい』


 アリオンたちと別れたのを区切りとして、俺たちも神殿に戻ることにする。


 俺は忘れずに現在位置へと「座標」を設置し、それからネイアたち共々、神殿へ転移した。




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