【62】レベル5
『ふぅ……び、ビビらせやがって……!』
刺胞が無くなって槍を上手く握れなくなった。それから10分くらい。
俺は進化したのにまさかの弱体化かと、焦りながら試行錯誤を繰り返していた。
そしてこの問題の解決策は、比較的すぐに思い浮かんだ。
パワーだ。力こそパワー! 筋肉こそが全てを解決すると、とある社長も言っていたではないか。
俺は彼の言葉に従って、槍を握る触手のパワーを強化してみた。
『魔闘術』などの身体能力を強化するスキルで思いっきり触手を巻きつければ、どうにか槍がすっぽ抜けるということは無くなった。
しかし、これでは余計なMPを消費することになるし、槍の柄を握ることに全力を傾けていると、肝心の槍を振るう動作に支障が出た。
これでは意味がない。
やはり筋肉で全てを解決するというのは、無理があったのか……。
そこで今度は、別の方法でアプローチすることを思いついたのである。すなわち、「刺胞がなくなったのなら、刺胞みたいなのを作れば良いじゃない」ということである。
そういえば俺、『擬態』を使えば刺胞を一時的に無くすこともできたんだし、その逆もできるはずである。
そんなわけで、槍を保持する触手と柄の接触面に、『擬態』を用いて刺胞を再現してみた。正確には刺胞から飛び出す極小の針で、注入するための毒を生成することはできなかった。しかし、針の方は小さな器官だからか、さしてMPを消費することもなく、簡単に再現することができた。
この状態で槍を振ってみれば、以前のような粘着力が復活していたのである。
まあ、ちょっとだけMPを消費してしまうのは避けられないのだが、これは仕方ないと諦めよう。
んで。
見事問題も解決したところで――、
『レベルが上がったスキルについては、だいたい予想がつくから後回しにするとして……まずは新スキルと新称号について確認してみるか』
フロスト・シームーンに進化したことにより手に入れた複数のスキルと、サハギンどもとの戦いで手に入った称号について、俺は『鑑定』してみる。
それがこれだ。
『凍撃』――MPを消費して全ての攻撃に氷雪属性を乗せることができる。なお、この効果は氷雪魔法「氷雪付与」にも加算される。攻撃に乗る氷雪属性の強さはスキルレベルと消費するMP量に依存する。
『氷精』――発動中、常に一定量のMPを消費することで氷精化し、氷雪属性を強化することができる。氷雪属性の強化の度合いはスキルレベルに依存する。
『氷雪吸収』――氷雪属性を吸収し、HPを回復することができる。
『一騎当千』――一定時間内に累計1000体以上の敵性存在を倒した者に贈られる称号。多数を相手に戦闘する際、【身体強度】【精神強度】の値が微上昇する。
何という氷雪特化のスキルなんだ。
っていうか、やっぱり『魔力操作』系のスキル以外にも、魔法を強化するようなスキルってあったのね。専務が巨大サハギンもどきをぶっ殺した時の一撃から、そういうスキルの存在は予想してたから、驚きは少ないけど。
まあ、もしかしたら専務の【精神強度】がめちゃくちゃ高いというのが理由かもしれないから、専務のハチャメチャな魔法の強さが俺の想像した理由であるという証拠はないんだが。
で、各スキルの詳細は説明文の通りなんだけど、それぞれ補足していくと……、
『凍撃』は『毒撃』の氷雪属性版みたいな感じだな。MPを消費して攻撃した相手を凍らせることができる。
『氷精』は氷雪属性を強化できるらしい。試すまでどれくらい強化できるのか分からないが……氷精化って何? 精霊か妖精さんにでも成れるのだろうか?
『氷雪吸収』は、今回手に入れた新スキルの中でも、地味に一番期待しているスキルだ。これって自分に氷雪魔法をぶつけたら、HPを回復できるってことでしょ?
どうもこの世界、回復魔法を使える存在というのは稀少らしいのだ。なので、回復魔法以外に自己回復できる手段があるというのは嬉しい。
そして『一騎当千』の称号だけど、これは多数を相手にする時、自分が強化される効果があるようだ。「多数」と言っているからには、たぶん相手が2体以上なら効果を発揮してくれると思いたい。まさか1000体いないと効果出ません、とかないよね?
それに強化の値は「微上昇」とあるから、そこまで劇的な強化ではなさそうだ。しかし、もしも2体以上で効果が出るなら、あって嬉しい称号ではあるな、うん。
『スキルの検証はここではできないから、後にするしかないか』
あと、変化している部分と言ったら、魔法系スキルのレベルが上がって、新しい魔法を使えるようになったことだろう。
まずは『氷雪魔法』なんだが、こいつは1レベルから使える魔法を改めて確認してみるか。フロスト・シームーンになって、お世話になることが増えそうだしな。
1レベル――「氷結」
2レベル――「冷却」
3レベル――「氷雪付与」
4レベル――「氷雪耐性付与」
5レベル――「造形」
「氷結」と「冷却」については、以前説明した通り。「氷雪付与」は武器や防具などに氷雪属性を付与し、攻撃した相手、または攻撃された相手に氷雪属性のダメージを与える魔法だな。こいつの効果は「凍撃」と重複するらしい。
「氷雪耐性付与」については、氷雪属性に対する耐性を一時的に付与する魔法。俺自身に関しては『氷雪吸収』があるから完全に要らない子だが、他者にかけることができれば意味はあるか。
そういえばレウスたちを助けに転移する前、ネイアが「転移を他の人にもかけることができる」みたいなことを言っていたし、その方法があるんだろう、たぶん。
で、最後は「造形」だが、これは氷の形を自由に造形できるって魔法らしい。つまり水属性で言う「形体付与」と似た魔法だな。
これは室内でも試せるので試してみたのだが、「造形」で形を作るのには「形体付与」ほどMPを消費しないで済むようだった。
この違いの理由は、液体と固体の違いか? 液体を同じ形に留めておく方が、何かエネルギーが多く使われそうだし。それが理由で魔法の名前も違うのだろうか。
まあ、『氷雪魔法』に関しては、色々検証と実験と、スキルのレベル上げを頑張るしかないだろうな。今のままだと近接攻撃に氷雪属性を乗せるくらいのことしかできん。せめて『水魔法』の「射出」的な魔法を覚えるまでは。
――さて。
お次はいよいよ、『空間魔法』さんの新しい魔法だ。
常日頃からお世話になりっぱなしの『空間魔法』さん。もう彼がいない生活など考えられない。それほどの超有能な御方が、スキルレベル5になって新たな力に覚醒した。
それがこれだ。
5レベル――「亜空間生成」
で。ででで。で、でたぁあああああ~ッ!!
あ、アイテムボックスキタコレッ!!
これ絶対そうでしょ!? アイテムボックス的魔法でしょコレ!?
これがあれば倒した魔物の死骸とかもとりあえずストックして食料保存できるし、アイテムボックスを活用して大量の荷物を運んで勝利が約束された交易や行商ができるし、腐っちゃう物とかも腐らず保存できちゃうんでしょ!? 知ってる!
さすが『空間魔法』さん! さす空! 抱いてッ!
…………はぁはぁ。
『よ、よし! さっそく使ってみるぞ!』
一頻り興奮したところで、俺はさっそく「亜空間生成」を使ってみることにした。
躊躇う理由など何もなく、新魔法を発動させる。
『亜空間生成ッ!!』




