【59】事情説明と副作用
どうやらイケメンの話によると、俺が気絶した時にちょうど、援軍を率いたネイアたちが到着したらしい。
それにより、俺が倒し損ねた100体近くのサハギンは残らず討伐され、イケメンたちも何とか被害を出すことなく生き残ることができたようだ。
んで。
戦いが終わって、ネイアはすぐに俺を治療しようとしてくれたみたい。
どうも俺ってばかなりの満身創痍だったらしく、触手は何本も千切れて無くなってるわ、傘の部分は深い亀裂が入ったり抉られたりしてるわ、意識もないわで、そのまま死んでしまうんじゃないかとネイアやイケメンたちが思ったほどだとか。
戦いのせいでアドレナリンでもドバドバ出ていたのだろうか。俺にはそこまで酷い怪我を負っているという自覚はなかったんだが。そもそも痛覚もないしね。
ひょっとすると、初めて黒サハギンと戦った時以来のピンチだったのかもしれない。
それでネイアがすぐに回復魔法をその場でかけてくれたんだが、なぜかほとんど怪我が治らなかったという。
その場での完治は不可能ということで、延命のために回復魔法を何度もかけられつつ、俺は急いで海底神殿に運び込まれた。
わざわざ神殿へ運び込まれた理由なのだが、今も俺の近くに鎮座している海霊石を使用するためだ。
ネイアが話を補足してくれたところによると、海霊石はアトランティスを覆う結界の要というだけじゃなく、他にもすごい力を秘めているのだとか。
何でもこの巨岩は非常に神聖な岩らしく、水魔法、氷雪魔法、聖魔法、神聖魔法の効果を増幅してくれる他、周囲から常に自然魔力を吸収する性質を持ち、ほぼ無限とも思えるほど無尽蔵に魔力を蓄えることができるとか。それでいて海霊石から魔力を引き出して使うこともできるらしい。
つまり、ネイアは海霊石の魔法増強効果と、海霊石に蓄えられた魔力を利用して、独力では使えないほど強力な回復魔法をかけてくれたのだ。
その回復魔法のおかげで、今の俺には外見上、怪我らしい怪我は存在しなくなっている。
だが、これでも全快したとは言いがたい。
というのも、俺のステータスを見てもらえれば分かると思う。
【HP】50/986
【MP】78/2032
海霊石を利用したスーパーな回復魔法をかけられたにも拘わらず、俺のHPはなぜか50までしか回復していない。最大量の違いか、MPはそれよりも少しだけ回復しているのだが、ネイアたちに俺がどのくらいの時間、気を失っていたのかを聞いて、これも結構まずい状態だということに気がついた。
俺が目覚めるまで、思ったより時間は経っていなかった。だいたい一時間半くらいだという。
つまり、時間経過はざっくり90分としよう。
すると、本来の俺なら1分で5MP以上は回復するはずだから、現在のMPは450くらいないとおかしい。
この理由は分かっている。
間違いなく『限界突破』のせいだ。女神様が説明してくれた話では、こいつを発動した後は回復が遅くなると言われていた。
その時は【HP】と【MP】の自然回復が遅くなるくらいだと思っていたし、実際、その通りではあるのだが……ネイアの回復魔法が最初、あまり効いていなかったことを考えると、怪我の類いも回復が遅くなる……というか、怪我が治りにくくなる副作用もあるのかもしれない。
だとしたら、思った以上に危険なスキルだ。
今回はたまたま助かったが、一歩間違えれば死んでいてもおかしくなかったようだ。
――あ、あ、あぶねぇ~……ッ!!
女神様もそこら辺、ちゃんと説明しておいてほしかったんですけど!
こんなデンジャラスなスキルだなんて聞いてねぇ!
いや、向こうは説明したつもりかもしれないけどさ!
俺は今更ながらに自分が危ない橋を渡っていたことを実感して、冷や汗……は出ないけど、めっちゃヒヤヒヤした。
で、だいたいの説明が終わったわけだけど。
『使徒様、今回は……いえ、今回も我々を救っていただき、感謝の念に堪えません。まことに、ありがとうございました!』
『『『ありがとうございました!』』』
『お、おう』
イケメンと兵士たちが胸に手を当て膝を折り、一斉に深く頭を下げた。
元日本人としては、ちょっと仰々しい感謝のされ方に、どう受け止めればいいやら戸惑ってしまう。
『ふ、ふんっ! つ、次はないかもしれないんだからねッ! 気をつけなさいよね!』
なぜかツンデレっぽいセリフが出てしまった。
イケメンたちはこれに苦笑いを浮かべることもなく、神妙な顔で深々と頷く。
いや、そう真面目に返されると、余計に恥ずかしいんだけど……。
ここは話を逸らそう。
『そ、そういえば、イケメンってちょっとネイアと似てるな』
最初に会った時、誰かに似ていると思ったが、近くのネイアを見ていて気づいた。白金色の髪に翡翠色の瞳と、その色合いだけじゃなく、顔立ちまでもちょっと似ているのだ。
『使徒様、イケメン? ……というのが私のことでしたら、それも当然かと』
イケメン……そういえば、名前もまだ知らねぇや。
っていうか、当然とは?
『えっと、何で?』
『はい。私とネイアは兄妹なのです』
『……なん、だってッ!?』
俺は驚愕した。
ネイアは海神の巫女だが、同時にアトランティスを治めるトリトン王家のお姫様でもある。そんなネイアの兄ということは、つまり……、
『アクア様、ご紹介しますわ。こちら、わたくしの兄のレウス・トリトン第一王子になります』
俺の予想を裏付けるように、ネイアがイケメン――レウスを紹介した。
なんてこった。やっぱり王子様だったか。
イケメンな上に王子様とか性格が歪みそうなもんだが(偏見)、レウスは性格までもイケメンだ。いやまだ、どぎつい性癖を隠しているとかの欠点がある可能性も微レ存だが、それを暴きたてても俺の妬みが晴れることはないだろう。男ならどぎつい性癖の一つや二つ、隠し持っていて当然だからだ(偏見)。
しかし、それでも思う。
イケメン、王子様、性格良しとか、この世というのはどれだけ不公平なのかと。
ああ、この世に神はいないのか!
…………いや? そういえば俺、会ったことあるわ、神様。
ごほんっ。
まあ、そんなことより、だ。
『ちょっと皆に聞いてほしいことがあるんだが』
俺はネイアたちを見回して、そう言った。
『はい、何でしょうか?』
『いや、アトランティスを襲うサハギンたちについてなんだけどさ、さすがにおかしいと思って』
『それは、どういうことでしょう?』
首を傾げるネイアたちに説明する。
冷静になったところで、改めて今回のサハギンどもの襲撃を思い返して、考えてみたんだ。
さすがにこれはちょっとおかしいだろ、と。
俺が第二楽園島にいた間、いつの間にか発生していたサハギンクイーン。サハギンの大発生は間違いなくクイーンがいたからであり、クイーンがリヴァイアサン専務に吹き飛ばされるまで、数多くのサハギンたちが第二楽園島から巣立っていった。
しかしながら、その数は、俺が関知していなかった分があるとしても、5000を超えることはないはずだ。第二楽園島で繁殖していたサハギンどもの最大数が、だいたい5000よりちょっと少ないくらいだったからな。
もしかしたら、巣立った先でさらに繁殖して増えた可能性もあるが、それにしても、である。
んで、海底神殿を襲った大群と、今回戦った大群。合わせてだいたい3000体に届くだろう。さらに俺が遠隔魔法でちまちまチマチマ倒し続けたサハギンどもを加えれば、それだけで5000体を超えているように思える。
実際には、俺が倒した以外にも、アトランティスの兵士たちが倒したサハギンがいるはずなのだ。そしてその数は、決して少なくない。合わせれば確実に5000体を大きく超えているはずだ。
どう考えても、サハギンの数が合わない。おかしい。
――ということを、俺は第二楽園島での出来事を交えながら、皆に説明した。
『確かに、おかしいですね』
『そうなると、考えられる理由は大きく二つですね』
話を聞いて、ネイアとレウスが深刻そうな顔で言う。
そう、考えられる理由は、二つ。
『一つは、巣立ちしたサハギンから新しいクイーンが発生した可能性だな』
こちらならば、正直言って大した問題ではない。新しいクイーンを見つけて討伐すれば、それで済むからだ。
以前の俺では倒すことはできなかったが、今の俺なら倒すことができると思う。というのも、使徒としての加護で強化されているからだ。アクア・キャノンを全力で何発も撃ち込めば、全身木っ端微塵にすることができるはず。そしてそこまですれば、さすがに再生できないと思うのだ。
それでも再生する兆しがあったら、氷雪魔法で凍らせて砕くことも、まあ、今なら可能だろう。
だから問題は、もう一つの可能性。
『もう一つは、倒された邪神の眷属とは別の眷属が、近くにいる可能性だな』
リヴァイアサン専務が倒した邪神の眷属とは別の眷属がいて、そいつがサハギンクイーンを生み出してしまった可能性。
こちらの場合、クイーンは倒せるが、さすがに眷属の方は倒せない。超絶強くなった使徒クラゲちゃんをしても、あんなドデカイ化け物、倒せるわけないんだよね。明らかに専務案件だろう。




