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【54】色々聞いてみる


 こちらに笑顔で手を振る魚人たちの姿に照れながら、俺たちはアトランティスの散策を続ける。


『それではアクア様、次は王宮へ行ってみませんか?』


『王宮? えーと、俺ってば陸に上がることができないんだけど、王宮に行けるのか?』


 ネイアの提案に疑問を呈す。


 何となく王宮っていうのは島の内陸部にあるもんだと思ってたんだが……ネイアの説明によると、違うらしい。


『はい、王宮には海から水路が繋がっていますので、泳いで行くことができますわ。ただ、地上にあるのは変わりませんから、自由に見て回る、というわけにはいかないのですが』


『へぇ、そうなのか。ってことは、王宮は海沿いにあるんだな』


『そうですね。王宮というか、アトランティスでは居住区画の多くが海沿いに位置しておりますわ。陸に上がっている者たちも定期的に海に入らなければいけませんので、あまり内陸に街を作ってしまうと不便なのです』


 ――ということらしい。


 アトランティスは形態としては都市国家とはいえ、島の外周にぐるりと海中にも都市圏を持つため、その面積は広大になる。そのため、俺はまだ陸上に「座標」を設置できていなかったから、島の上がどうなっているかは知らなかったのだ。


 何せ女神様からの指令もあり、サハギン駆除を優先しないといけなかったからな。


『つまり、人が住んでる部分はドーナツ状になってるわけね』


『どーなつ、ですか……?』


『あ、いや、何でもない。えっと、じゃあさ、島の内陸はどうなってるんだ?』


 俺が稀人だということは、まだネイアたちには明かしていないので、話を逸らす。


 俺としては別に教えても問題ないと思うんだけど、実は女神様から口止めされているのよね。何でも『稀人は今の世ではかなり珍しい。混乱を避けるためにも口外しないようにせよ』とのことだ。


『内陸部は開拓されて畑になっているところもありますが、多くは山岳地帯になっておりますので、管理はしておりますが森が広がっているだけですわ』


『へぇ、そうなんだ。ちなみに管理って何をしてるんだ?』


 海の民が山や森の管理とは、予想外だぜ。


『植林と間伐です。内陸部の森では船の建材となる樹木を育てているのですわ』


『ああ、なるほどね』


 考えてみれば大きな帆船を造船するには、大量の木材が必要になる。俺は素人だから詳しいわけではないが、建材にする木材は、普通に考えてそこら辺の木を使えば良い、というわけにはいかないはずだ。船に向いた種類があるはずだし、大きさや木の成長の仕方による違いでも、使える物と使えない物に分けられるはずである。


 幹も枝も曲がりまくっている木だと、使いにくいだろうしね。


 たぶん他国から買うこともできなくはないと思うんだが、それよりは自分たちで用意できた方が良いのは明白だ。だから建材となる樹木を育てているんだろう。


『そういえば、気になってることがあるんだけどさ』


 船の話になったので、以前疑問に思ったことを聞いてみることにした。


『はい、何でしょう?』


『アトランティスの港に停泊してる船からは感じないんだけどさ、ちょっと前に海ですれ違った船から凄い魔力を感じたんだよね。あれって何か分かる?』


『ああ、それは船に積んでいる魔道具の魔力だと思いますわ。停泊中は魔道具を停止しているのですが、外洋航海中には常に幾つかの魔道具を起動させているので、アクア様はその魔力を感じられたのだと思います』


 悩む様子もなく説明してくれるネイア。


 というか、やっぱりあれは魔道具の魔力だったのか。俺の予想は当たってたな。天才か?


『どんな魔道具を積んでるんだ?』


『そうですね……絶対に必要になるのが忌避結界の魔道具です。それから船に依りますが、水流結界の魔道具に、水流推進の魔道具、風力推進の魔道具、でしょうか』


 何かいっぱい積んでたんだね。


 俺はそれぞれの魔道具の役割について聞いてみる。いや、名前から何となく想像はつくんだけどさ。


 ネイアによると、忌避結界の魔道具は魔物が嫌う波長の魔力を周囲に放出することで、外洋を航行していても魔物に襲われないようにするための魔道具だとか。


 これはアトランティスに展開している結界と同質のもので、違いは結界の大きさだけらしい。船一つを覆うくらいの結界なら、魔道具も量産可能だという。まあ、量産と言っても百個や千個ということではなく、作れても一年で30個ほどが限界らしいが。


 次に水流結界の魔道具だが、これは水魔法の「水流操作」を付与した魔道具で、忌避結界を越えて襲いかかって来た魔物が現れた時に使うらしい。水流をぶつけて魔物を弾き飛ばす効果があるが、魔物を撃退するほどの攻撃性能はない。


 んで、この水流結界と似たような魔道具が、水流推進の魔道具。「水流操作」を付与された魔道具であるのは同じだが、こちらは船の推進力として使用する。ただし大量の魔力を使用してしまうので、緊急時以外に使用されることはないらしい。


 そして最後が風力推進の魔道具。これは風魔法の「気体操作」の魔法を付与された魔道具で、風を起こして帆に当て、推進力とするらしい。ただしこちらも大量の魔力を使用するので、普段は使われることはない。


 忌避結界の魔道具も膨大な魔力を消費するらしいが、魔道具を起動していない帆船からは、それほどの魔力は感じられないのが不思議だ。海で魔力を感知した時は明らかに「ヤベー化け物がいる」的な恐怖すら感じたのだが。


 この疑問に、ネイアは推測を交えて答えてくれた。


『港に停まっている船は、魔道具に蓄えられた魔力を航海中に消費してしまっていますので、あまり魔力が残っていないのですわ。それから忌避結界の効果は、魔物に対して忌避感を抱かせるものですので、実際以上に魔力を大きく感じてしまっても不思議はありませんが……』


 ここでネイアは不思議そうに首を傾げて言う。


『アクア様は使徒でいらっしゃるので、忌避結界の効果は及ばないはずなのですが……』


 使徒である俺が船の結界に影響を受けるはずがない、ということらしい。


 だが、俺が外洋で船とすれ違ったのは、俺が使徒になる前のことだ。なのでネイアの推測は俺にとって納得のいくものだった。


『ああ、それは、俺が使徒になる前の話だからな。普通の魔物(?)だったから結界の影響受けたのかも』


『まあ! そうなのですか!?』


 いや待てよ? あの時は魔物ですらないただのクラゲだったんだっけ? 魔物という表記が『鑑定』さんの説明に出たのは今の種族に進化してからだったからな。


 しかし、結界の効果があったと言われればあったような気もする。


 魔物じゃなくても、幾らかの影響があるのかもしれないな。


 そんなふうに考え込んでいた俺だが、ネイアには別の部分で驚きがあったらしい。


『アクア様にも普通の魔物だった時があるのですね……』


『うん、そりゃあるけど』


 むしろちょっと前まで普通の魔物……いや、普通とは言いがたいが分類上ただの魔物だったけど。


『わたくし、アクア様は最初から使徒としてお生まれになったのかと思っていましたわ』


 そんなふうに思われていたのか。サーチャも同意見みたいで、目を丸くして驚いているな。


 まあ、クラゲがスカウトされたとか普通は思わないのかもね。


『俺はちょっと珍しい魔法が使えるから、それで女神様にスカウトされたんだよ』


『伝説の空間魔法ですわね。わたくし、空間魔法を使える方とお会いしたのはアクア様が初めてですわ』


 どうも『空間魔法』は伝説と言われているくらい、珍しい魔法らしい。


 俺は【称号】から手に入れたんだけど、普通はどうやったら使えるようになるんだろうな?


 まあ、そんなこんなで色々と話をしつつも移動して、俺たちは王宮へ続くという巨大な水路の前までやって来た。


 大型帆船でも通れそうなくらい幅の広い水路で、見ていると魚人たちが時折行ったり来たりしている。普通の人たちも移動しているんだが、隊を組んだ兵士たちの一団が移動している姿が多いだろうか。


『アクア様、ここを進むと王宮まで行くことができますわ。一般にも開放されている区画がありますから、そちらなら水路も通っていますので御案内することができます』


『おお、そうなんだ。じゃあ、お言葉に甘えて案内してもらお――』


 と、そこで俺は動きを止めた。


『…………』


 背後を振り向き、意識を研ぎ澄ませる。


 アトランティスの外側からこちらへ近づいてくる無数の魔力を、俺の『魔力超感知』が捉えたのだ。


 間違いない。もはやお馴染みとさえ言える、軍勢の魔力だ。


 すぐに設置してある「座標」から「空間識別」を展開すると、千里眼もどきで魔力の正体を見ることができた。


『アクア様?』


『悪い、ネイア。案内は一旦中止してくれ』


 不思議そうにするネイアに、俺はそう告げる。


『それは構いませんが、いったいどうされたのですか?』


『サハギンが来た』


 簡潔に答えを返す。


 俺の「視界」の中には、広範囲の「空間識別」を埋め尽くすようなサハギンの軍勢が映し出されていた。その数は海底神殿を襲っていた軍勢の2倍くらいはある。つまり、2000体近くのサハギンということ。


 おいおい、ホントどういうことだ?


 まだこんなに残ってやがったのか?




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