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【52】海中で暮らす理由


 俺は疑問に思った。


 なぜ陸の上に都市を築いた今でも、多くの魚人たちが海の中で暮らしているのかと。


 食事をするにも何をするにも、陸上の方が便利なのは間違いないはずだ。


 にも拘わらず、今もなお魚人たちが海の中にも都市圏を築いているのは、大きく二つの理由があった。


 ネイアは答える。


『わたくしたち魚人は陸の上でも活動することができますが、何日も陸の上にいると様々な弊害があるのです』


『へぇ~……具体的には、どんな問題があるんだ?』


『はい。一月も海に入らないでいると、著しく体調を崩し、そのまま亡くなってしまう者もいるのです』


『ふぁッ!?』


 意外と深刻な問題だった。


 さらに詳しくネイアに聞いてみたところ、魚人たちは海に入らない期間が長期化すると、体調以外にも様々な問題が出てくるらしい。


 中でも体調不良からの衰弱死に次いで問題視されているのが、老化のスピードが早まることだ。


 魚人たちはエルフやドワーフなどの長命種は別として、普通の人族や獣人族たちと比べると2倍近い寿命を持つらしい。しかも老化のスピードは遅く、若い期間が長いのだとか。


 しかし、定期的に海へ戻っても、陸で過ごす期間が長くなるほど、老化のスピードが早まり、寿命も短くなるらしい。


 だから他の人類種族と交流を持つようになっても、こうして海の中に住む場所を用意しているし、陸にいる者たちも交代で海の中の街で暮らす期間を設けているそうだ。


 なんだろうな。陸で暮らしていると紫外線の影響で老化が速まってしまうのだろうか? 海の中だと空気中よりは紫外線の影響は遥かに少ないし。


 そういえば前世で仕事の関係から付き合いのあった皮膚科の医者がいたんだけど、実際の年齢は還暦を迎えているのに見た目は三十代後半くらいにしか見えないおっさんがいたな。若さの秘訣が気になって聞いてみたら、徹底的に紫外線を遮断することだと教えられた。


 あのおっさん、外に出る時はUVカットのクリームを塗りたくっているそうだ。


 それほど紫外線というのは老化を促進するものらしい。


 海で生きるのがデフォルトの魚人たちともなれば、その影響は他の人族たちの比ではないのかもしれない。


 話は戻って、魚人たちが今も海で暮らす理由その2。


『あとは他国からの防衛上の理由ですわ』


『防衛?』


『はい』


 聞いてみると、海上交易で手広く儲けているアトランティスというのは、その財力に比べて国の規模や兵力はとても少なく、他の国々からしてみると、とても美味しそうな獲物に見えるらしい。


 そんなわけで無理筋な難癖を付けてでも一方的に宣戦布告し、アトランティスを占領下に置きたい国は後を絶たない。


 国家の常として、アトランティスも国防に頭を悩ませる――――ことには、幸いといえば良いのか、ならなかった。


 というのも、アトランティスは島国である。


 周りは全て海に囲まれているため、他国が攻めるには船で兵員を輸送し、島に上陸しなければならない。


 しかし、そもそも国の規模は小さいとはいえ、アトランティスの海軍戦力は他の国に劣らない。量はともかくとして、質は確実に上回っているだろう。


 それに加えて、島を囲むように海に都市圏を広げているのは、国家防衛上の利点があった。


 ネイアはおしとやかに微笑みつつ、言う。


『侵略してきた他国の船を、海の中から攻撃するのですわ』


 自分たちの家の頭上を、侵略者たちは船に乗って通りすぎようとする。


 だが当然のことながら、そんなことを黙って見逃すはずもない。


 魚人たちは時には武器で、時には魔法で侵略者たちの船の底に穴を開け、沈没させる。そして凄まじい労力を払って輸送してきた兵員が海に投げ出されれば、後はどうとでも調理できる、というわけだ。


 たとえ夜にひっそりと船で上陸しようとしても、広大な海中の都市圏をバレずに通り抜けることは不可能である。夜の海中都市は様々な照明でライトアップされているので、頭上を船が通ろうものならすぐに分かる。


 ならば船を壊されないように護れば良いのだが、それが一番難しい。


『水魔法』の達人であっても海の中で魚人たちに勝てるはずもないし、船上から海の中を攻撃する手段も乏しいのだ。


 すなわち――アトランティスは自国の防衛戦に限っては、ほぼ一方的に攻撃することが可能なのである。


 そんなわけで、どこの国もアトランティスを侵略できずにいる、というのが現状なようだ。


 俺はなるほど、と思った。


 アトランティスを侵略するには、船で攻めるしかない。しかし、海での戦いで魚人たちに勝てるはずもない。船の下から船底に穴を開けられたら、どうしようもないからな。


 たとえ船底を金属板で覆ったとしても、かなり分厚くしないと魔法で穴を開けられると思うし。いや、そもそもスキルとかある世界だ。『槍術』とか『魔闘術』で強化した一撃ならば、金属板にも穴を開けることはできるだろう。


 つまり海戦は無理ゲーということだ。


 長距離飛行できる航空戦力が登場するまでは、アトランティスは安泰なんじゃなかろうか。



 ●◯●



 ネイアが持ってきてくれた食事を終えて、MP回復のためにも雑談に興じていると、その日はいつもと違った流れになった。


『アクア様、もしよろしければ、この後アトランティスを見て回りませんか? わたくしがご案内いたします』


 ネイアからそんな提案をされたのだ。


『お、行く行く!』


 俺は一も二もなく頷いた。


 いやだってアトランティスに来てから今まで、ほぼ神殿から出ていなかったからね。毎日遠隔魔法でサハギンどもを駆逐するだけの日々だったよ。


 しかし、3日間頑張ってジェノサイドしまくった成果なのか、今日は朝から、現れるサハギンどもの数がかなり少なかったのだ。


 さすがにサハギンの群も全滅近い被害を受けているに違いない。第二楽園島にいた邪神の眷属はリヴァイアサンが文字通り木っ端微塵にしたし、大量繁殖を可能にしていたクイーンも跡形もなく吹き飛んでいるのだから、ここまで数を減らせば一件落着と言って良いのではあるまいか?


 少なくとも、サハギンたちが個体数を回復するとしても、第二楽園島でのようなふざけたペースで回復することはできないはずだ。


 なので、アトランティスを見て回るくらいの時間的余裕は十分にあるだろう。


 ネイアもサハギンの襲撃が落ち着いてきたのを知って、この提案をしてくれたはずだ。


『うふふ、それではアクア様、今すぐ参りますか?』


『そうだな。特にやっておくべきこともないし、さっそく行こう!』


 そんなわけで俺たちは神殿を出て、海中に広がるアトランティスの街を散策することになった。




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