【46】クラゲ一騎当千!
俺は海底神殿前の戦場へ転移した。
魚人の兵士たちとサハギンどもが争う最前線地帯。その更に上の辺りに。
いや、戦場の真っ只中に転移した途端、両方から攻撃喰らうなんて御免だからね。少し上の辺りに転移することで、それなりの安全は確保される。
ともかく、転移した俺はさっそくとばかりに攻撃に移ることにした。
(まずは……いっちょ派手にやってやりますか!)
双方混戦となっている最前線地帯より更に前方、サハギンどもの軍勢の真ん中辺りに魔法を放つならば、魚人たちへの被弾を恐れる必要はない。
そんなわけで、俺は開幕に相応しいド派手な大魔法をサハギンどもにくれてやることにした。
まずは「形体付与」に「硬化」で薄くて鋭い刃を数十本作り出す。それで準備は完了。薄い刃だし水中抵抗は少ないはずだから、あえて「水中抵抗軽減」は掛けない。水流の影響も必要だからね。後は魔力と属性とスキルの力任せだ。
(大量の敵を倒すなら、たぶんこれの方が効率良いよな)
そんな想いから開発しました、新魔法アクア・トルネード!
(サハギンさんたち、ごきげんよう! 死ねッ!)
「操水の理」によって強化された「水流操作」によって、サハギン軍の中間あたりで竜巻のような激しい水流の渦を作り出す!
その渦に引き寄せられ、巻き込まれたサハギンたちは、渦内部で乱舞し高速移動する数十の刃に切り刻まれ、たちまちミキサーに掛けられた魚肉のようになるのだ!
発動した巨大なアクア・トルネードが100体以上のサハギンどもを呑み込み、瞬く間に無色透明から鮮血に染まった赤い渦へと変化していく!
ここでMPを全部使いきるつもりは毛頭ないが、それでも500MP程度を消費して被害を拡大することにする。
「最上等級」の水属性を得たおかげか、素晴らしい効率で「水流操作」することができた。以前までとは明らかに力強さが段違いだぜ!
結局、一度のアクア・トルネードで300体近くのサハギンを巻き込み、鮮血混じりの擂り身へと変えることができた。
しかし、そのせいで密集していたサハギンたちが散開してしまったので、残りのMP全部でアクア・トルネードを繰り返しても、奴らを倒しきることはできないだろうな。
仕方ないので、静まり返ったというよりは混乱と恐怖が蔓延した戦場へと、ふよふよ降りていく。
サハギンどもは警戒したように俺から距離をとる。一方で、
「――――ッ!?」
「――――ッ!!」
「~~~~ッ!?」
魚人の皆さんもクラゲ界の最カワアイドル、アクアちゃんを指差しながら何事かを口走っている。かなり俺のことを警戒している様子なので、後ろから攻撃されたりしないか、ちょっと心配だ。
さっきのアクア・トルネードを使ったのが俺だって分かってないのかも?
いや、分かった上で警戒してるのか?
ここは女神様からいただいた『念話』を使って、彼らの警戒心を解くのが良いだろうか。
俺がそう考えた時、平の兵士ではなく、何だか騎士っぽい軽鎧を装備した女性の魚人を従えて、兵士たちに指揮を飛ばしていた白金色の髪をした美少女が前に出てきた。
「――――! ――――!!」
彼女は周囲で警戒する兵士たちへ、何事かを語りかける。
するとその直後、兵士たちの俺に対する警戒が明らかに緩んだ。
もしかしたら、「あの可愛らしいクラゲちゃんは敵ではありません!」とか言ってくれたのかもしれない。
そうと信じて、俺はお姫様っぽい巨乳美少女ちゃんの後に続く。
すなわち、『念話』で皆に語りかけ、俺は敵ではないとアピールするのだ!
『ぷるぷる! 俺、悪いクラゲじゃないよ!!』
念話をオープンチャットで展開、可愛らしい声を周辺一帯へ届ける。
あ、ちなみに念話は個人を指定して声を届ける方法と、自分の周囲一帯へ思念を拡散するオープンチャット方式の二つが使えるみたい。
複数人と会話したい時は、オープンチャット方式で全員に声を届けることができるのだ。
「「「…………」」」
瞬間、恐ろしいほどの沈黙が舞い降りた。
しまった。考えてみれば俺はまだ生後二月の幼女クラゲなのだった。ここは「あたちアクア! よろちくね!」とでも言った方が警戒心を解くことができたのではあるまいか?
俺が選択を誤ったかと後悔し始めた時――、
『しゃ、喋っ……!?』『あのクラゲが!?』『まさか!』『本当に!?』『敵なのか?』『悪いクラゲってどういう意味だ!?』『嘘だろ!?』『さっきの魔法は――』『あの紋章』『姫様の言った通り』
次々と、大勢の魚人たちの思念が一気に押し寄せてきた!
同時に、というかほとんどは肉声を発しているみたいだが、念話で不特定多数と繋がってしまった俺には、彼らの思念が言葉となって聞こえてくるのだ。
はっきり言って、かなり煩い。誰が何を言っているのかさっぱりだぜ!
俺は驚愕するような混乱するような思念の嵐を、鎮めるように声を返す。
『――待て待て! 混乱するのは分かるが、今はサハギンどもを倒すのが先だ! そうだろ!?』
「「「…………」」」
ピタリと思念の嵐が止む。ついでに声も止む。
魚人たちは互いの顔を、そこに答えを探すようにして窺い出し――すぐに多くの視線が一点へ集まった。
すなわち、お姫様(仮)へと。
彼女は全ての視線を受け止めて重々しく頷くと、
「――――!」
何事かを言った。
「「「――――ッ!!」」」
直後、爆発するように魚人たちが叫び声をあげ、それぞれの武器を掲げた。
そうしてこちらを警戒していたサハギンたちへ、再び突っ込んでいく。
どうやら俺が敵ではないと分かってくれたらしい。そして戦闘は再開される。
ふむ……ファーストコンタクトは上手くいった感じかな?
そのことに安堵しつつ、俺も魚人兵士たちに負けじとサハギンどもへ触手を伸ばして攻撃していく。
ここからはアクア・バレットを交えつつ、いつものように触手と槍を駆使した接近戦になる。
相手の方が圧倒的に数が多く、確かに危険ではあるが……先端を膨らませて鞭状にした触手をサハギンに叩きつけてみて、俺はその手応えに確信を持った。
『触手術』に『鞭術』、それに「水中抵抗軽減」を掛けているとはいえ、『魔闘術』無しでの攻撃が平サハギンを倒しはしないまでも、頭部を打って一撃で昏倒せしめたのである。
考えてみれば、最後にサハギンどもと接近戦を演じたのはサハギンフィーバーの前のこと。だいぶレベルが上がった今の俺は、弱点であった【身体強度】も「38」まで成長している。【精神強度】に比べて微々たる成長と言えども、それは決して無意味ではなかったらしい。
槍での攻撃に関しては『魔装術』こそ発動しているが、こちらも『魔闘術』無しでも黒サハギンを両断できるくらいの威力があった。槍を操る触手の力そのものが強くなっているからだろう。
これならば、だいぶMPを節約して戦えるはずだ。
――あれ? ぶっちゃけ、結構余裕があるぞ?
そんなわけで俺はサハギンの軍勢の中へと単騎で突っ込んでいき、容赦なく暴れまわる!
槍を振るいサハギンどもを両断し、触手鞭で牽制しつつ戦況をコントロール。あるいは触手で捕らえたサハギンをサハギン・バリアーとして大いに活用する。敵が俺に集まり過ぎて対応できなくなれば、アクア・バレットを乱射して数を減らし、あるいは転移にて一時的に退避する。そうしてまた別の場所から襲いかかるのだ!
そんな俺の戦いぶりは、まさに一騎当千!
俺、TUEEEッ!!




