【45】フッ、俺がお助けしよう!
サハギンどもと戦っている魚人兵士の皆さんを恐慌状態に陥らせつつも、俺は遠隔アクア・バレットで容赦なくサハギンどもを虐殺していく。
しかし、あちらこちらを把握するために無数の「座標」を設置したため、途中で俺のMPが底をついてしまった。
(まあ、だけど大丈夫だろ。確認した限りではほとんどのサハギンの群を駆除したしな)
第二楽園島の安全な海域でMPの回復を待っている間、けれど、俺は焦ることもなくそう考えていた。
つい先程までアトランティスを襲撃していたサハギンどもは幾つかの群を合わせて数百体にも上る。しかし、俺のアクア・バレットだけでも7割くらい減らせていたので、俺がMPの回復を待つ間に被害を受けることはないはずだ。
むしろ、その頃には戦いは終わっているだろう。
そう確信して、のんびりと海の中を揺蕩いながらMPの回復に専念する。
あ、そういえばこのMPの回復速度について、少しばかり説明をしておくべきだろうか。
俺も最初の頃と比べてだいぶMPが多くなっている。その結果判明したことなのだが、どうもこの世界でのMP回復の仕方は、総量からの一定割合での回復ではないみたいだ。
というのも、時間経過で1パーセントとか1割とか回復するんじゃなく、たとえば1分で1MPを回復する、みたいな感じだ。
前者ならばどれだけMPが多くなろうが一定時間で全回復する仕様だが、この世界の場合は後者なので、基本的にMPの総量が上昇すれば、全回復に掛かる時間も延びてしまう。
今の俺のMPは1800を少し超えている。
さっきの戦いでレベルが一つ上がったからだ。
この数値は最初の頃と比べると数倍ではきかない程である。なので本来なら回復には長い時間が掛かるはずだが、俺には『MP回復速度上昇』に『自然魔力吸収』のスキルがある。
MP量が上昇するのと同時に、MP回復系のスキルも成長していた。その結果なのだろう。MPの全回復に掛かる時間は、ほぼ同じくらいで推移している。『MP回復速度上昇』があるのに割合としての回復速度が同じってことは、割合回復ではないってことだ。
んで、今だと6時間くらいでMPが全回復する。
MP量も回復時間も正確な数値ではないが、細かい数値は計算が面倒になるので省いて、回復速度を計算してみると……、
1800÷360=5
つまり、1分で5MP程度を回復することができるのだよ!!
実は「空間識別」1個の維持に掛かるMP量も、『魔力精密操作』のスキルを得たおかげで減少している。現在では2分で1MPくらいの消費だ。
つまり、今の俺は自分のまわりに「空間識別」を展開しておく程度のことなら、魔力切れを心配せずに一日24時間可能というわけなのだ!
いやー、これでMPが切れて寝ている間に襲撃されても、敵の正体すら分からず殺られるってことはなくなった。
前まではMPがない状態とか寝ているときに襲われたらどうしようもなかったけど、今なら「空間識別」の展開でMPが切れる心配をする必要はないのだ。むしろ「空間識別」を展開しながら寝ていてもMPが回復するほどである。
これは凄いことだよ諸君!
まあ、本当になぜかは分からないんだけど、幸いにも、今まで寝ている時に襲撃されたことはないんだけどね。
たぶん、小さいクラゲならともかく、俺くらいの大きさになると、わざわざクラゲを食べようって奇特な奴はいないから、なのかもしれない。海亀とか除いてね。
――とはいえ。
俺は寝ている時に「空間識別」は展開しない。
だってそんなの、目を開けながら寝るようなもんだろ。それが出来る人がいないと断言はできないけど、少なくとも俺には無理だ。
なので、俺は適当に小魚などを捕食してからMPが回復するまで、お昼寝することにしたんだけど、その間、「空間識別」は切っておいた。
で、6時間くらいが経過した。
それでMPが回復したのでアトランティスの方に「空間識別」を展開して状況を確認したんだけど――、
(なんっでやねんッ!?)
そこには思わずツッコミを入れたくなるような光景が広がっていたのだ。
アトランティス外縁部の各地を襲撃するサハギンたちの群がいた。たぶん総数は数百体くらい。つまり、俺がアクア・バレットで駆除し始める前と同じくらいだ。
おいおいおいおいおいッ!!
お前ら何で増えてんだよッ!? 俺がMP回復に専念する前に、残り数十体くらいまで減らしたよねッ!?
おそらく、新たな群が襲来してきたってこと何だろうが……。それにしたって、まだこんなにいたのかよ!
結構サハギンが生き残ってたのか? 俺がアトランティスを見つけるまでの間に、相当数駆除されていると思っていたんだが……もしかして、そうでもない?
これは魚人たちが意外と弱かったとみるべきか、それともサハギンどもが予想外に強かったとみるべきか……あるいは、別の要因があるのか。
まあ、何にせよ、今は謎解きをしている場合じゃない。
俺は新たに出現したサハギンたちを相手に、死んだような目をして戦っている魚人兵士の皆さんを援護するべく、遠隔アクア・バレットで虐殺を再開する。
ヒャァアアッ!! 汚物は消毒だぁあああッ!!
アクア・バレット! アクア・バレット! アクア・バレットぉおおおッ!!
魚人兵士の皆さんがまたしても術者の見当たらないアクア・バレットに驚いているが……何か、さっきよりは驚きは少ないようだ。恐慌状態には陥っていないので。
もしかして、兵士たちの間で何か情報が共有されたのかもしれない。
まあ、必要以上に驚かれないなら大変結構! これで心置きなくサハギンの虐殺に専念できるってもんだ。
そんなわけでサハギンの群一つを潰し、さぁて次の群をジェノサイドしてやるかと「空間識別」でアトランティスの様子を広く探ったところで、俺はそれを見つけた。
(――ふぁッ!?)
アトランティスに近づいてくる――というか既に至近の位置に、1000体規模のサハギンの群がいた。
そいつらは一直線にとある場所へ突撃し、そして今まさに激しい戦いを繰り広げ始めた。
場所はなぜかアトランティスの外縁付近にある、巨大で荘厳な神殿らしき建物の前。太くてデッカイ石柱が幾本も見える神殿は、地球のパルテノン神殿を彷彿とさせる。
そんな神殿の前で、大勢の魚人兵士らしき人々がサハギンの大群相手に奮戦している。
だが、あまりにも多勢に無勢だ。
サハギン側は1000体近くいるのに対して、魚人兵士たちは100人に届くかどうか。
おまけにサハギン側なんだけど、何か黒サハギンの割合がやたら多くない? 全体の半分くらいが黒サハギンなんだけど。殺る気がすごい。
(他のところは……大丈夫だよな)
他の場所を攻めているサハギンの群は、せいぜいが数十体規模。俺が助けなくとも、何とか魚人兵士たちだけでも撃退できるだろう。
しかし、神殿のところはこのままだと全滅必至だ。援護するならこちら側で決定なんだけど……。
(全部倒すにはMPが足りないよな……)
遠隔アクア・バレットでこいつらを全部倒しきるには、MPが全然足りない。まあ、全部倒しきらなくても、時間さえ稼げば他のところから援軍が来るだろうが……。
(むッ!? あの娘は!?)
どうするかと悩んでいた時、神殿前の戦いを見守っていた俺の視界に、おっぱいが――いや、とある人物の姿が飛び込んできた。
それは十代後半くらいの少女だ。緩やかにウェーブする長い白金色の髪に、翡翠色の瞳には断固として退かないという、強い意思が宿っている。しかしだからといって気の強そうな感じではなく、顔立ちは普段であれば優しそうな印象を受けるだろう。今は緊張か危機感のためにか強張っているが、すごい美少女だ。
他の魚人たちは水着のような簡素な服を着ているのに対して、こちらの少女は少し違った。水着っぽいのは水着っぽいのだが、下半身にはスカートのようなヒラヒラとした衣服を身につけている。それでいて体の前側が開いているから、まるでパン……いや、下の水着が見えている。
そしておっぱいが大きい。小さな水着から溢れんばかりだ。思わず溢れないように手で押さえてあげたくなる。おっとっとっつってな。
――ごほんっ。ともかく。
水中であれだけヒラヒラした服を身につけているというのは、通常であれば肉体労働をしない上流階級の人物と考えて良いだろう。
そんな人物が兵士たちを指揮するように、あるいは鼓舞するように、何事か声を飛ばしているのだ。それも前線というべき危険な場所で。
俺は感動した。
義を見てせざるは勇無きなり!
俺は決意した。
(万が一にもあの娘を死なせるわけにはいかないッ!!)
サハギンどもが魔法だけで倒しきれない数なら、肉弾戦も交えて数を減らしてやるだけだ。
俺は自らを危険に晒しても構わないという崇高な覚悟を持って、神殿前の戦場へと「空間転移」を発動させた。
勘違いしないでいただきたい!
決しておっぱいに釣られたわけではないのだ!




