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【43】皆のアイドル、クラゲ子ちゃん!


 転生六十四日目。


 やっほー! 皆こんにちわー!


 皆のアイドル、クラゲ子ちゃんだよー!!


 いやー、思わぬところで自分がメスであるという驚愕の事実が判明した俺です。だからと言って何が変わるというわけでもないが、気分的には衝撃の事実だよ。


 まーちゃん曰く、クラゲの繁殖方法には有性生殖と無性生殖があるわけだが、俺がメスってことは有性生殖することがあるかもしれないわけじゃん? つまり何処かのオスクラゲと交尾する可能性があるかもしれないわけじゃん?


 いやいや、俺としては人間だった頃でさえ子供はいなかっていうのに、人間ですらないクラゲとそういう関係になるのは御免蒙りたいわけで、自分からするつもりは一切ないんだが。


 まさか、俺がメスだったとはね……。


 あ、ちなみに。


 女神様から加護を貰った後、前世の名前を思い出せないのでクラゲとしての名前をいただきました。その後でステータスを確認してみたら、【名前】の欄もしっかり変化していたよ。


 それがこれ。


【名前】アクア


 そうです。


 俺、アクアちゃんです。皆、アクアちゃんって呼んでね。


 何か可愛くもあり、それでいて中性的と言えなくもないような気がする。一瞬、女神様が俺のために真面目に考えてくれたのかと思ったが、そういえば俺の種族名ってアクア・シームーン……。


 女神様?


 いやいやそんなまさかだよ。女神様は俺のために一生懸命名前を考えてくれたんだ。だから俺は、これからクラゲ界の最カワアイドル・クラゲ子ちゃんとして精一杯生きていくよ!


 ――とまあ、そんなわけで。


 名前を貰った俺だけど、同時に使徒としての使命という名の仕事も貰いました。


 女神様曰く。


『サハギンどもがアトランティスを襲撃しておるのじゃが、アトランティスの民たちだけでは、まだ全てを討伐できてはおるまい。サハギンごときに滅ぼされるほど弱くはないが、相当数のイヴィル・スレイブも混ざっておる。誰かの手助けが必要じゃ。しかし、先に言ったように妾の眷属はどいつも巨大で、人の子が住む都市に近づけるわけにもいかん。サハギンを倒そうとして、うっかり都市も滅ぼしましたでは笑えんからのう……』


(それは……笑えないですね)


 いやマジで。


 リヴァイアサンの戦闘を目撃した俺としては、まったく冗談とは思えないわけで。


『そこでじゃ、アクアよ。お主、アトランティスに行ってサハギンどもを倒してくりゃれ。できれば一匹残らず、虱潰しに駆逐してくれると嬉しいのう』


 アトランティスに行ってサハギンたちを倒す。


 それが俺に与えられた仕事だった。


 だが、一つ問題がある。


(それはもちろん構いませんが、俺、アトランティスの場所を知りませんよ? それとも、女神様が送ってくださるので?)


 アトランティスって何処にあんのよってことだ。


『妾がお主を送るのは無理じゃの。とはいえまあ、案ずるな。アトランティスはここから近い場所にあるゆえ、お主が自分で移動できるじゃろ。転移も使えるのじゃし』


(あ、すぐ近くなんですね)


 まさかこの近くに人間さんたちの国があったとは。


 もっと早く周辺探索に乗り出していれば、もしかしたら見つけられていたかもしれないな。


『うむ。ここから南西に向かっていけば、すぐじゃ』


 ここから南西、と。


 どっちが南西なのか分からなかったが、幸いにも女神様が扇で進むべき方向を指し示してくれた。とりあえずその方向に「座標」を幾つか設置してマークしておく。後は「空間識別」をいつものように伸ばしていけば、アトランティスを見つけることができるだろう。


(了解しました女神様! 必ずやサハギンどもを駆逐してみせます!)


 俺は使徒としての初めての仕事、そしていよいよ人間さんたちと会話できるかもしれないという期待に胸を膨らませ、元気良く答えた。


『うむ。アクアよ、頼んだぞえ』


 と言って、女神様は姿を消し、リヴァイアサンは何処へともなく去って行ったのだ。


 それが転生六十日目のこと。


 俺はその日からすぐに、女神様に教えてもらった方角へと「空間識別」を伸ばし、座標を設置していく作業に取りかかった。スキルの鍛練やレベル上げは行わず、食事も小魚やカニエビなどを捕食して済ませた。ただただアトランティスを見つけるためだけに全力を尽くした。



 そして六十一日目、六十二日目が瞬く間に過ぎた……。



 ――って、ちょっとちょっとぉッ!?


 女神様!? 全然アトランティスが見つからないんですけどぉッ!?


 もしかして方角を間違えたのか? だとしたら、この広い大海原でアトランティスを見つけるまでにどれくらいの時間が掛かってしまうのか。


 女神様はサハギンごときに滅ぼされるほど脆弱ではないと評していたが、わざわざ俺に手助けに向かえと仕事を言い渡すほどだ。助けに行くのが遅れたら、結構な被害が出てしまうのでは?


 まさか初めての仕事を失敗してしまうのか?


 それでアトランティスに大きな被害が出たら、女神様が何て言うか。怒られるくらいならまだ良いが、一時は俺を消そうと考えていた御方だ。もしかしたら、


『無能なクラゲなど妾の使徒にはいらぬ。消えよ』


 とか言って、物理的に消されてしまう可能性すらある!


 ヤバイ! ヤバイよヤバイよ!


 命の危険にガクブルしながら、MPの許す限り探索を続ける。一瞬、「座標」を真っ直ぐに設置するのではなく、周辺も探してみるべきでは? とも考えた。だが、どこを探せば良いのか分からない俺は、とりあえず「空間識別」を南西方向に伸ばしていくことだけに注力した。


 どうやら、それが英断だったらしい。


 転生六十三日目。


 そろそろ疲労で眠くなり、MPも何度目かの限界に近づきつつあった頃、ようやく、俺はアトランティスらしき存在を「空間識別」の中に捉えた。


 急いで周辺に「座標」と「空間識別」を広げていき、そこに暮らす人々が無事であることを確認した。滅亡一歩手前という深刻な雰囲気はなく、少しだけ顔色は暗いながらも、普通に日常生活を送っているようだ。


 俺は間に合ったのか……。


 安堵し、気が緩んだ。その瞬間、俺は眠りに落ちてしまった。


 そして翌日、転生六十四日目。


 目覚めた俺は、ちょっと冷静に考えてみた。


 というか、計算してみた。


「座標」を一定方向に設置していくのは、「空間識別」の半径分しか伸ばせない。そして現在の半径は無強化状態で35メートル。


 俺が設置した「座標」の数を数えてみたら、なんとおおよそ2800個。実際にはもう少しあるが、計算が面倒なんで切り捨て。


 35メートル×2800=98000メートル。


 つまり約98キロ。実際には100キロ以上あると思う。


 ――おおおおいッ!! 女神様ッ!?


 確かにリヴァイアサンとかからすれば100キロなんてすぐだろうけど、俺からすればかなり遠いよ!?


 泳いで行くには海流に流されるからほぼ無理だし、転移がなかったら数日で辿り着くことは不可能だろう。今回だって「座標」の設置だけで28000MP以上を消費しているのだ。


 いくら俺のMPが増え、回復速度が増えたと言っても、現段階で一日に使えるMPはだいたい8000くらい。


『空間魔法』で実際には動いていないと言っても、かなり大変だったんだからね!?


 文句を言いたいが文句を言う相手がいない。仕方ないので、俺は仕事に励むしかない。


 まずはアトランティス周辺に「座標」を設置していき、サハギンを見つけ次第、遠隔アクア・バレットで駆除していこうと決めた。


 そんで、俺は順調に「空間識別」を広げていったんだけど……、


(お、おお……!! これが、アトランティス、かぁ……!!)


「空間識別」で認識したアトランティスの姿に、思わず感嘆の念が溢れ出す。


 昨日は切羽詰まっていて疑問に思わなかったというか目を向ける余裕もなかったのだが……そこには、地球では考えられないような幻想的な都市の光景が広がっていたのだ。




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