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【41】クラゲ、使徒になる


 俺は女神様に、使徒になることを告げた。


『やれ……余計な時間を食ってしまったのう』


 なのに、なぜか女神様はため息を吐いて頭を振る。


 その表情は、どこかお疲れのようにも見えた。


『では、ちゃっちゃっと使徒にしてしまうかの』


 そういって左手のひらを、こちらへ向けるように腕を伸ばす。


 どうやら俺を使徒にするらしいが……え? そんな感じ?


(女神様、もっとこう……儀式的なやつとかは行わないんですか?)


『別に、使徒にするだけなら加護を与えるだけじゃからの。一瞬で終わるぞえ?』


 そうなんだ……。


 天から荘厳な光が降ってくるとか、どこからともなく声が聞こえてくるとか、神殿で儀式を受けるとか……そういうのはないらしい。


 何だか夢を壊された気分だぜ。


『では、ゆくぞ。体を楽にして加護を受け入れるのじゃ』


(了解です)


 若干、気を削がれた感じで脱力しつつ、俺は女神様の言葉に従った。


 そして――――、



(…………ぁ、ぁああづッ!?!? え!? 熱い!? あッッッッづッッ!???)



 女神様の手から、何か光が飛んできて俺の中に入る――とか、そういう漫画的ゲーム的エフェクトは一切なかった。


 ただ、傘の上部がなぜか温かくなってきたと思ったら、徐々に感じる熱が強くなっていき、遂には耐えがたいほどの熱感となって俺を襲ったのだ。


 いやこの体、熱とか感じないはずなんですけどどうなってんですかッ!?


(うがぁあああああッ!? いたいいたいいたい~ッッ!!)


 熱さと痛みと混乱の中、触手はバタバタと動き、傘は痙攣したようにビクビクと激しく動いた。


 幸いなのは、この痛みが長くは続かなかったことだ。熱を感じ始めて10秒くらいで、耐えがたい熱感は急速に薄れていった。だが、今もなんか痛い気がする。ジンジンしているような気がする。俺の頭(傘)どうなってんの!? 禿げてない!? 大丈夫かな!?


 俺は触手でつるつるな傘を撫でながら、ぷんぷんと女神様に文句を言った。


(いきなり酷いっすよ女神様! こんな痛いなら最初に言っておいてほしかったんですけどッ!?)


『大袈裟じゃのう。ちょっと熱いくらいじゃろうが』


 いや全然ちょっとじゃないからね!? 尋常じゃない痛さだったからね!? まるで熱した鉄でも当てられてるのかと思ったよッ!?


『まあ、これで加護は無事付与されておるはずじゃ。クラゲよ、自分の体とステータスを確認してみぃ』


(うぅ……)


 女神様は加護をくれただけなのだ。謝罪を要求するのも違うだろう。言いたいことは色々あったが、全て呑み込んで言われた通りに確認してみる。


 まずは自分の体。「空間識別」で熱感を覚えた傘の部分を確認してみると――、


(お、おお~……何か、格好いいタトゥーみたいなのがある)


 そこには傘の表面に刻まれた、トライバルタトゥーのような白い紋様があった。


 何をモチーフにしたのかはさっぱり分からないが、どことなく荒々しく神秘的な印象を受ける。白いタトゥーが刻まれた俺の姿は、もはや普通のクラゲと一線を画する外見となっていた。


 格好いいんじゃない? 俺ってば結構イケてるんじゃない?


『その紋様は加護を持つ者の証、聖痕じゃ。加護を与えた神によって形は異なる』


(なるほどー)


 女神様の説明に頷きつつ、今度はステータスを開いて確認してみた。


 種族、レベル、HPなどのパラメータには一切変化はない。変化があったのは【加護】の欄。そして幾つかスキルが増えていることだ。


 まずは加護。



『海神の加護』――海神ポセイドンより与えられる加護。水属性、氷雪属性を最上等級で付与され、『水魔法』『氷雪魔法』を得る。他、『神託』『限界突破』『神降ろし』のスキルを与えられる。



 水魔法と氷雪魔法はすでに覚えているんだけど、この場合どうなるんだろう? 属性を最上等級で付与されるってどういうこと?


 そんなことを考えていたら、念話で俺の思念が伝わっていたのか、女神様が答えてくれた。


『安心せい。最初から魔法を覚えていても、きちんと意味はある。そもそもじゃな、魔法を覚えるにはそれぞれの属性を持っていなければ覚えることはできんのじゃ。そして属性というのは才能や資質とでも言えば良いのかのう。その属性にも段階があって――』


(ふむふむ)


 女神様が言うことには。


 それぞれの属性には低い順から「下等級」「中等級」「上等級」「最上等級」の区分があり、等級が上の属性であれば、対応する魔法の威力が上がり、消費MPを少なくすることができるようだ。ゆえに同じスキルレベルでも、「下等級」と「最上等級」の魔法では天と地ほども魔法の威力が違うのだとか。


 そして通常、神々やその眷属以外の者たち――人間や魔物などが持つ属性は「上等級」が最高であり、「最上等級」を持つ者はいないらしい。


 女神様の話では、俺の元々の水属性や氷雪属性は「中等級」であったが、加護によって一気に「最上等級」になったので、魔法の威力が大きく変わっているはずだという。


(それは……しゅごい)


 俺は素直に感心した。「最上等級」の属性が貰えることだけでも、加護ってのは結構凄そうだ、と。


『ふふん! ようやく加護のありがたさを理解したかえ?』


 得意気に胸を張って女神様が言う。


 いやホント、バカに……は、していないけど、すみませんでした。


 さて。


 加護についてはこれで良いとして、次は増えたスキルだな。


 加護によって新たに増えたスキルは三つだが、それ以外にも増えているスキルが一つある。合計四つで、どれもスキルレベルの表記はない。



『念話』――他者と思念を繋げ、会話することができる。使用言語の異なる相手とも会話することができるが、言語を習得していない相手とは会話することはできない。


『神託』――信仰している、または加護を与えられた神から神託を授けられることがある。


『限界突破』――自身の限界を超えた力、能力を発揮することができる。【肉体強度】【精神強度】によって発揮できる力、能力の高さは異なる。


『神降ろし』――信仰している、または加護を与えられた神の同意を受けて、神の力の一部を身体に降ろすことができる。発動可能時間は【HP】と【肉体強度】に依存する。



『ふむ、ついでじゃ。新しいスキルについても、妾が説明してやろう』


 これらのスキルについても、女神様が簡単に説明してくれた。


 まず念話だが、これはまあ、ほとんど説明は不要だろう。俺が女神様と会話できている理由も、女神様が『念話』のスキルを使っているから、らしい。


 使徒として動くのに『念話』はあった方が便利だろうということで、まだ働いてないけど加護と一緒にくれたみたい。さすが女神様は太っ腹だぜ。何をするかはまだ聞いてないけど、頑張って働きます!


 んで、次に『神託』について。


 このスキルを持つ者が何処にいても女神様からの言葉が届くらしい。『神託』が繋がっている間は会話も可能なようだが、たとえば俺が『神託』を発動しても女神様には繋がらない。完全に女神様からの一方通行で、受動的なスキルなのである。


 だが、ちょっと疑問もある。こんなスキルなんてなくとも、今、俺の前に姿を現しているようにして、会話することができるんじゃないか、と思ったのだ。


 それに対する女神様の答えは、否定だった。


『妾がこうして姿を現し、お主と会話できているのは、眷属たるリヴァイアサンで力を中継しているからじゃ。眷属が近くにおらなければ、『神託』や『交信』といった特殊スキルを持つ者以外に、声を届けることはできん。まあ、妾が神域から出るか、お主が神域に来るかすれば、もちろん別じゃがな』


 ――とのこと。


 どうやら今の女神様はリヴァイアサン越しに魔法を使って姿を現し、『念話』スキルを使っている、ということらしい。リヴァイアサンがいない場合、他に特殊なスキルを持っていることが条件なようだ。


 次は『限界突破』について。


 これはステータスのパラメータ以上の力を、一時的に発揮することができる能力らしい。もう少し噛み砕いて言えば、一時的に腕力を高めたり、魔法の威力を高めたりできるってことだな。そして発揮できる力の上限は、腕力などの肉体的力なら【肉体強度】の数値に、魔法などの精神的な力なら【精神強度】の数値に影響されるのだとか。


 ただし、発動している間、【HP】か【MP】が程度によって減少し続ける上に、『限界突破』を発動した後は回復が著しく遅くなるらしいので、ここぞという時に使うべきだろう。


 さて、最後に『神降ろし』だが。


 これは凄まじいスキルだった。


 簡単に言えば、これを使うことで俺でも一時的にリヴァイアサンに匹敵するほどの力を発揮できるらしい。あの邪神の眷属とかいう巨大サハギンの化け物を一瞬で滅ぼした、リヴァイアサンに匹敵する力をだ。


 改めて何かを説明するまでもなく、破格の力を持ったスキルであることは、お分かりいただけるだろう。


 しかし。


 もちろん、そんなスキルに代償がないわけがなかった。


『スキルの発動が終了すると、まず確実に死ぬことになるから、使う時は良く考えて使うのじゃぞ?』


(いやいやそんなの絶対使いませんからッ!?)


 発動したら確実に死ぬスキルとか、ぜってぇ使うわけがねぇ。絶対にだ。絶対にだぞ!?


 永遠に封印決定だな、このスキルは。


『さて、説明はこれくらいで良いじゃろう。次に使徒としてお主に授ける使命を……言う前にじゃ。クラゲよ、お主、前世の名前を思い出せるかえ?』


(え? 前世の名前? それはもちろん。俺の名前はたーちゃん……じゃなくて、えっと……あれ?)


 女神様に前世の名前を問われ、思い出そうとした俺は、なぜか正確な名前が思い出せなかった。甥っ子から「たーちゃん」と呼ばれていたのは今も思い出せるのだが……そういえば、まーちゃんの名前も思い出せない?それどころか、両親や兄貴の名前も思い出せないのだが……。


『やはりのう』


(ど、どういうことですか!?)


 さもありなんと頷く女神様に、動揺しながら問う。


 家族どころか自分の名前すら思い出せないってどうなってんだよ!?


『本来、生まれ変わった者は前世など覚えていないものじゃ。しかし、稀人は正常な輪廻に還る前にこちらの世界へやって来ることで、前世の記憶を引き継いだままに転生する。とはいえ、それも程度によりけりでの、名前も含めて完全に覚えている者や、逆に前世のことはほとんど覚えていない者もおるのじゃ』


(お、俺は名前以外は結構覚えてる感じなんですけど)


『じゃが名前は忘れておるのじゃろう? 覚えている稀人なら、たとえ人以外に転生しても【名前】が「なし」にはなっていないはずじゃ。ステータスには前世の名前が表示されるはずじゃからのう』


 マジか……。


 ステータスの名前が「なし」になっているのは、前世の名前を忘れてるからだったのかよ……。


 はっきり言って、かなりショックだ。前世の自分の顔も、まーちゃんの顔も、両親の顔も兄貴夫婦の顔も思い出せるってのに……どうしても名前が思い出せない違和感が凄い。


 精神的なショックで動揺する俺に、しかし女神様は他人事だからか気楽な調子で言うのだ。


『まあ、お主はかなり覚えておる方だろう。自我もはっきりしておるしのう。気にすることはあるまいて。そんなことより』


(そんなことッ!?)


『名前がないと不便じゃろう? いつまでもクラゲと呼ぶわけにもいかんし』


(スルーされたッ!?)


『なので、妾が名付けてやろう。光栄に思うが良いぞ?』


(名前……まあ、確かに必要かもですけど……)


 前世の記憶については今更どうこうできるとも思えないので、一旦おいておくしかないだろう。


 それより今の名前だよ。女神様が付けてくれるらしいけど……変な名前になったら嫌だな。テキトーな名前を付けられないように、ちょっと釘を刺しておこう。


(女神様、格好いい名前にしてくださいね?)


『格好いいじゃと?』


(なんでそこで首を傾げるんです?)


『いや、可愛い名前じゃなくて良いのか?』


 なぜ? いや、マジでなぜ?


『だってお主、メスじゃろ?』


(…………え?)


 え?


 え?


 え?


(…………メス?)


『うむ。何じゃ、自分の性別も分かっておらんかったのか。抜けておるのう』


(……ふぁッ!? メス? え、俺ってばメスなんですか!?)


『じゃからそう言っておろうが』


 なん、だと……ッ!?


 まさか俺が、クラゲ子だったなんて……ッ!?


 異世界に転生していたと思ったら、TS転生だった件!




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