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【40】給料はください


 俺は女神様の突然の提案に――――


(あの、女神様。眷属と使徒の違いって何ですか? それによって仕事内容に違いはありますか? それから給与形態はどのようになっているのでしょうか?)


 ――答える前に、とりあえず疑問を解消しておくことにした。


 女神様は俺に「使徒となって働くのじゃ!」と言った。働く、つまり、仕事というわけだ。


 そしてそれが仕事なのであれば、職場環境や契約内容はきちんと確認しておきたい。週休は何日ですか? 祝日は休みに含まれますか? 昇給は年に何回ありますか? ボーナスはありますか? 


『…………妾が加護を授けると言うておるのに、そのようなことを聞かれたのは初めてじゃぞ?』


(すみません。でも、重要なことなので)


 どこか呆れた様子の女神様に、けれど俺は断固として言う。


「残業代が元々の給料に含まれているから残業代は出ません」とかいう意味の分からないローカル・ルールが平然と適用されている会社もあるのだ。である以上、給与形態の確認は重要である。


『はぁ……まあ、良いわ。説明してやろう……まず、眷属と使徒の違いを説明するが』


(お願いします)


『眷属は妾の力を分け与えた存在で、血の繋がりはないが、人で言えば血族、みたいな位置付けになるかのう。眷属となった時点で亜神としての位階を得るから、寿命の軛から外れるのが特徴じゃ』


(なるほど。つまり神を社長とした親族経営の会社で役員になる、みたいなことですか)


 リヴァイアサンのことも専務、とか呼んだ方が良いのだろうか?


『全然違うが……説明が面倒じゃな。もうそれで良いわ。……それで、次に使徒についてじゃが』


(はい)


『使徒とは地上の民に神の加護を与える代わりに、神託を下して神の手足となって動いてもらう存在のことじゃな。加護によって力が増すが、眷属のように亜神になったり寿命がなくなったりはせん』


(加護を貰って働くわけですね。それはつまり……サラリーマンということですか)


 加護というサラリーを貰って会社のために働く。まさにサラリーマンである。


 しかし――しかし、だ。


 果たして女神様から頂ける加護が、これからの労働に見合う価値があるのかどうか……俺には判断する術がない。少ない給料で馬車馬の如く働かせられるのはちょっとな……。


(女神様、頂けるのは加護だけでしょうか?)


『そういえばお主、給料がどうとか言っておったのう……』


(はい、欲しいです。できればいっぱい欲しいです)


 女神様がジト目でこちらを睨んでくるが、事は一生を左右するかもしれない重要なことだ。妥協はしたくないぜ。


『給料と言ってもお主、金が欲しいのか? 仮に妾から金を貰ったとして、どうやって使うつもりじゃ』


 ぬ、ぬぅう~ん……。確かに、その問題はある。


 俺ってば未だに人間さんたちと交流できていないし、会話する手段もない。それにお金を持っていても、使うことがあるだろうか?


 食料は狩りで手に入るし、安全な棲み処は欲しいが、家を建てたいわけじゃない。衣服に関しては完全に不要だしな。俺はクラゲとして生まれてから今までずっと全裸だったし、むしろ服を着ると動きにくそうだ。全裸は最高だぜ。


 おっと? そういえば、こんなに美人な女神様の前で俺ってば今も全裸なんだよな。


 そう思うと…………ふんすふんすっ! 何か興奮してきた!!


 いや、それはともかく。今は給料の話だ。興奮を抑えて話を戻そう。


(はぁはぁ……お、お金以外で何かありませんかね?)


『何じゃ……? 何か気持ち悪い波動を感じる……。……気のせいか』


(女神様?)


『ぬ? ああ、そうであった。話の続きであったな。うむ……神に物をねだるとは、稀人ゆえ仕方ないことかもしれんが……お主、神から加護を授けられることがどれほど名誉なことなのか、分かっておらんな?』


 そんなこと言われたって仕方ないじゃないか!


 名誉で腹は膨れないって偉い人も言っていたような気がするし。


『ふぅむ……ならば、スキルなどどうじゃ?』


(スキル、ですか?)


『うむ。お主の働きが授けた加護の価値を上回ったと判断すれば、働きに応じてスキルをくれてやろう。無論、どんなスキルでも可能というわけではなく、妾の権能が支配する範囲のスキルじゃが』


 スキルかぁ。


 確かに、あって困るものではないし、ものによっては役立つだろう。


 まあ、それも、どんなスキルを貰えるかによるんだけど。


『加えて、働きが十分であれば妾の神域に招いてやろうぞ。それに長年の忠勤あらば眷属に引き立てて報いてやらんこともない』


 う~ん、女神様の神域とやらには興味がないではないけど、どうしても行ってみたいというほどでもない。それに眷属って言われても……俺、すでに寿命なんてあってないようなものだしな。


『何じゃ、これでも不満なのかえ?』


(いえ、不満というわけでは……)


『面倒臭いのう。普通、妾の使徒になるのをそんなに悩む存在などおらんというのに。お主が元は異界の人間であったためか…………異界の人間……ふむ、そうじゃ』


(?)


 女神様は何か思いついたように呟き、バッと扇の先端を俺に向けた。


『妾の使徒になれば、念話のスキルを授けてやろう。お主、この世界の言語は知らんじゃろう? 念話がなければ会話はできんぞ?』


 そういえば、俺にはなぜか日本語に聞こえるが、異世界の女神様が日本語を話しているというのも変だ。いや、見た目的にはあまり違和感はないけれど。


 もしかして女神様は日本語を話しているのではなく、俺が日本語に聞こえているだけなのか?


(あの、女神様。念話があれば、言葉が通じない相手とも会話できるんですか?)


『うむ。何かしらの言語を習得している相手ならば、問題なく会話できるじゃろう。念話は相手から送られた思念を自らが使う言語に変換する機能があるからのう。ステータスも同じじゃ。お主、この世界に来てステータスに表示される文字が読めることを不思議に思わなかったかの?』


(言われてみれば、確かに)


 そういうもんだと思ってたけど、ステータスに表示されているのは日本語にアラビア数字だもんね。異世界で使われている言語が同じというのは考えにくい。となれば、ステータスにも俺が理解できるように、俺の使用言語に表示を変換してくれる機能が付いているってことか。


 そして、似たような変換機能が念話にも組み込まれているらしい。


(女神様、ちなみに念話を自力で習得することってできますか?)


 自力習得できるなら、わざわざ使徒になる必要はないが。


 女神様はニヤリと笑って答えた。


『念話は鑑定などと同じで特殊なスキルじゃからのう。特殊な【称号】を得る以外で、自力習得した例は残念ながら存在せん』


 念話は自分では習得できないと。


 まあ、何か変換機能とか付いている時点で想像はしてた。


 ならば、俺が選ぶ答えは一つだけだな。


(女神様、俺、使徒になります!)


 人間さんたちと会話したいじゃんね。




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