【35】何か来たんですけど!?
転生五十六日目。
大してサハギンの数は回復していないだろうと分かっているのだが、それでも洞窟の様子くらいは確認したい。
第二楽園島から遥か数百キロは離れた楽園小島から、「空間識別」を使って洞窟内の様子を覗いてみる。
(あ~……百数十体ってところか……。でも、この感じなら数日で1000体くらいに回復しそうだな)
予想通りというか、まだまだサハギンたちの数は少ない。
だが、それでもすでに100体を超えるまでに増殖していた。このペースで群の数が増えれば、狩りで食料も十分に獲れるようになるだろう。そうなれば以前のように日産数百体のサハギンは堅いはず……!
俺、サハギンが増えたらまたレベル上げするんだ。
そう楽しみにしつつも、増えるまではやることもないので、今日は楽園小島でのんびりしつつ、無理のない範囲でスキルの鍛練をすることによう。
あ、その前にステータスでも確認しておこうかな。
ここ最近のサハギンフィーバーでだいぶレベルも上がったしね。
【名前】なし
【種族】アクア・シームーン
【レベル】34
【HP】835/835
【MP】1778/1778
【身体強度】38
【精神強度】1375
【スキル】『ポリプ化』『触手術Lv.Max』『鞭術Lv.7』『刺胞撃Lv.Max』『毒撃Lv.3』『蛍光Lv.Max』『擬態Lv.2』『空間魔法Lv.4』『鑑定Lv.4』『魔力超感知Lv.2』『魔力精密操作Lv.4』『MP回復速度上昇Lv.Max』『自然魔力吸収Lv.3』『魔闘術Lv.9』『生魔変換・生』『隠密Lv.4』『魔装術Lv.5』『水魔法Lv.Max』『氷雪魔法Lv.2』
【称号】『世界を越えし者』『器に見合わぬ魂』『賢者』『天敵打倒』『サハギンスレイヤー』
【加護】なし
まあ、こんな感じですわ。
いやー、毎回言っているような気がするけど、だいぶ強くなったのでは?
前代未聞のレベル34で、パラメータも遂に四桁の大台に乗ったやつが出てきた。この世界の平均パラメータが幾つかは分からないけど、最初の頃に比べれば長足の進歩なのは間違いない。
あ、ちなみに30レベルではカンストしなかったよ。10、20とレベルカンストが来たから今度は30レベルでカンストかと思っていたのだが、アクア・シームーンはもっとレベルが上がるようだ。
んで、各スキルは順調にスキルレベルが成長しているので良いとして、言及しておくべきは新スキルである『氷雪魔法』さんのことだろうか。
だいたいお分かりかと思うのだが、こいつは『水魔法』さんがレベルカンストした時に新たに生えたスキルだ。たぶん、上位魔法とか派生魔法とか、そんな立ち位置なんだと思う。
毎日コツコツと鍛練を重ねてスキルレベルを上げているが、例によって低レベルではイマイチ使い勝手が……ね?
現在、どんな魔法を覚えているかというと。
1レベル――「氷結」
2レベル――「冷却」
この二つだけ。
「氷結」は対象を凍らせる魔法で、たぶん、液体が含まれるものならば何にでも有効だ。
「冷却」は指定した範囲の温度を下げる魔法で、暑い場所とかだと便利そう。いや、俺ってば暑さを感じないから必要ない気もするけど。
こいつのことは是非ともクーラー魔法と呼ぼう。この世界に家電がないとしたら、これができるだけでも食いっぱぐれしないんじゃないか?
「冷却」の方はともかく、「氷結」は珍しく単体でも攻撃魔法として活用できる魔法だ。流石は上位魔法と言うべきなのかもしれん。
え? 『空間魔法』さん?
何を言っているんだ『空間魔法』さんは最初から優秀だっただろッ!!
……ふう、ともかく、話を戻そう。
「氷結」は今の時点でも使えるっちゃあ使えるんだが、これまた例の如く、今の時点では消費が微妙だ。おそらく、『水魔法』と同じように消費を軽減してくれる「理」系の魔法スキルを覚えるかしないと、MP消費は重いままなのかもしれん。
それに攻撃魔法として見た場合でも微妙なのである。
なぜならこの魔法、一瞬で対象を凍らせるとはいかない。数十秒から数分間、対象に魔法を掛け続けないと凍らないのだ。おまけに対象が動く場合だと、その速さによっては魔法がファンブルしてしまう。
水魔法で出した水を凍らせる場合には数秒で済むので、アクア・バレットとかの水弾を凍らせたら威力上がるんじゃね? とも思った。
しかし、凍らせると「硬化」の効果(駄洒落じゃないよ)が切れて、結果、普通に水弾を撃った方が強いという事態になったのだ。
まあ、つまり、『空間魔法』さんや『水魔法』がそうだったように、スキルレベルを上げていかないと実戦で使うことは難しいのだろう。
『氷雪魔法』くんの今後の成長に期待しようではないか。
転生五十七日目。
今日も楽園小島でのんびりと過ごした。
サハギンたちの個体数は300体くらいまで回復している。もう少し増やそう。とりあえず1000体は超えて欲しいな。
転生五十八日目。
今日も楽園小島でのんびりと過ごした。
サハギンたちは現在500体くらい。まだまだ待つぜ。
そういえば、以前ここでお世話になった巨大珊瑚のことを覚えているだろうか? 海亀野郎から逃げるために隠れさせてもらったり、進化の時に隠れさせてもらったりした巨大珊瑚だ。
あの時は【名前】と【種族】しか『鑑定』できなかったが、そういえば『鑑定』のレベルも上がっていることを思い出して、再び鑑定してみた。
【名前】なし
【種族】ミネラル・コーラル
【レベル】80(Max)
【HP】35691/35691
【MP】12136/12136
――――ふぁッ!?!?!?
思わず五度見くらいした。それくらい信じられなかった。
何だこのふざけたパラメータは!
そうツッコミたいところではあるが、いや、実はちょっとくらいは予想していたんだよね。というのも、今の俺には『魔力超感知』があるだろう? それで巨大珊瑚から感じられる魔力が、俺よりも遥かに大きいことに気づいたので『鑑定』してみようと思ったのだ。
しかしそれにしたって、まさかここまでの化け物とは思っていませんでした。
はっきり言って、俺は滅茶苦茶強くなったと思っていたんだ。転移もできるようになったし、俺が勝てない相手はいるだろうけれど、逃げることくらいは余裕だろうと。正直、自惚れていなかったと言われたら嘘になるかもしれない。
だけどそんな自惚れは、ポッキリと折られたよ……。
パラメータが四桁になった程度で調子に乗ってすみませんでした。
上には上がいるとは言うけれど、あまりにも上すぎる。はじまりの町にエンドコンテンツの裏ボスが潜んでいたような気分だよ。
何が一番恐ろしいかって、巨大珊瑚から感じられる魔力は、人間たちが乗っていた帆船やシードラゴンよりも大きいはずなのに、最初にここにいた時には気づきもしなかったことだ。
どういうことかと言うと、どうも巨大珊瑚さん、自分の魔力を隠蔽しているっぽいのだ。それゆえに未熟な『魔力感知』しかできなかった以前の俺は、巨大珊瑚さんの偉大さに気づけなかったらしい。
いや、あの頃でも自分より魔力が多いとは分かっていたが、ここまでとは思っていなかった。てっきり、ちょっと多いくらいかと……。
スキルレベルが2になった『魔力超感知』を持ってしても、かなり近づかないと違和感すら感じ取れないし、こうして意識を集中していても「俺よりも魔力多くね?」とようやく気づく程度なのである。
ちなみに、【種族】を二重鑑定して、さらに自信はへし折られた。
『ミネラル・コーラル』――温暖な海域に広く生息する珊瑚の魔物。一見してただの珊瑚にしか見えず、未成熟な個体であれば容易に討伐が可能だが、生きた年数によって強さが格段に変化することでも知られる。攻撃手段は魔法のみで、自身が攻撃されると魔法によって敵性存在を排除する。おおよそ数千年生きた個体は軒並みレベル上限に達するが、そこからさらに各種ステータスは成長する。とある国が数万年を生きたミネラル・コーラルに手を出し、一夜にして海に沈められたのはあまりにも有名な話。
一夜で国を海に沈めるとか、それって本当に生物ですか?
俺は巨大珊瑚様をうっかり攻撃したりしないよう、全力で気をつけることにした。
転生五十九日目。
微妙に巨大珊瑚様とは距離をとりつつ、今日も楽園小島でのんびりする。
サハギンたちは800体近くまで個体数を回復させていた。頑張れ。
転生六十日目。
サハギンたちは遂に1000体以上に個体数を回復させていた。
ヒャアアッ!! もう我慢できねぇッ!!
俺は第二楽園島に転移し、さっそく遠隔魔法でサハギンたちを狩ろうとした。一日200体くらいならば、狩っても翌日には群の数も回復しているだろうと思ったのだ。相変わらず出鱈目な繁殖力であるが、俺にとっては嬉しい限りである。
というわけで、俺はサハギンたちにアクア・バレットを撃ちまくって狩り始めたんだけど――、
(――ん? お? なんだこれ?)
サハギンを数十体狩ったところで、『魔力超感知』が第二楽園島に接近してくる魔力反応を捉えた。
ただ、ちょっとおかしい。
展開している「空間識別」の範囲外だから正確な距離は分からないが、件の魔力反応は島から数キロメートルは離れた場所にいるのだ。
さすがに『魔力超感知』とはいえ、まだスキルレベルも低いし、そんな遠くの魔力を知覚できるようなスキルではない。にも拘わらず、かなりはっきりと魔力を知覚できている。
その理由は単純だった。
魔力が大きすぎるのだ。帆船やシードラゴンの魔力を捉えた時のように。だが、今感じている魔力は、明らかに帆船やシードラゴンの魔力を上回っていた。
いや、比べることさえ烏滸がましい。帆船やシードラゴンの魔力を1とするなら、これは100……いや、もしかしたらそれ以上にある。MPという明確な数値にした時に、どれほどの数値となるのか想像もつかない。昨日驚愕したばかりの巨大珊瑚さえ遥かに上回っている。
しかも――しかも、だ。
正体不明の巨大な魔力の持ち主は、かなりの速さで島へと近づいていた。最初に魔力を感知したのが数キロメートルの地点。それから島の至近にまで辿り着くまで、わずか数十秒という速さだった。確実に1分はかかっていないだろう。
俺は魔力の反応がある地点に「空間識別」を展開する。
幸いなのかどうか、魔力の反応はサハギンたちの棲み処へ繋がる海底洞窟の前にあった。ゆえに、「座標」は幾つも設置済みだったのだ。
(――え?)
だが、「それ」を認識した途端、俺は思わず呆然としてしまう。
俺に目があったら点となり、口があったら間抜けにポカンと開いていることだろう。
何より驚いたのは、その大きさだ。俺の「空間識別」は現在、一つで半径35メートル、直径にして70メートルの球状空間を認識する。はっきり言ってかなりの広さだと思う。
だが、そいつは展開した「空間識別」で全貌を把握することができなかった。
なぜかと言えば、単純にデカイからだ。あまりにも巨大すぎて、「空間識別」の領域内に収まりきらないのだ。
なので、俺がそいつの姿を一部とはいえ確認するためには、「空間識別」の領域を広げなければならなかった。領域の外縁に「座標」を設置して、空間識別の範囲を広げていく。
「頭」はすぐに確認できた。しかし、認識できる範囲を1キロほどに広げても、それでもなお全体像は確認できなかった。認識できたのは頭部と胴体の一部だけだ。
あまりにもスケールが違いすぎるが、それは蛇のような姿をしている。つまりは頭部があって、そこから細長い胴体が伸びているのだ。しかし、胴体の太さは直径100メートルほどはあり、その長さは確認できているだけで1キロメートル以上もある。間違ってもそいつを見て「蛇だ」と思う奴はいないはずだ。
そいつを一言で表現するならば、東洋の幻想生物の名前を挙げることになるだろう。
すなわち――龍。
ただし、伝承の龍のように小さな手足はついていない。それでも体の表面を覆う白銀の巨大な鱗を見れば、やはりドラゴンを連想するだろう。
いや、あるいはもっと端的に言い表す名称があるかもしれない。
俺はそいつの姿を見て、とある神話上の生物を思い浮かべていた。
リヴァイアサン、と。
巨大珊瑚様は裏ボスなんかではなかった。ただの中ボスだったんだ。真の裏ボスはここにいたんだよ……。




