【34】サハギンフィーバー
転生五十一日目。
俺は昨日から「座標」と「空間識別」を利用した遠隔魔法で、サハギンたちを倒しまくっていた。
サハギンたちの棲み処たる洞窟に設置した「座標」に「空間識別」を発動し、油断しているサハギンたちに狙いを定めてアクア・バレットを放つ。
アクア・バレットは「水生成」「形体付与」「硬化」「射出」の複合魔法だが、「創水の理」『魔力精密操作』によって多少は消費を抑えることができる。
水の弾丸自体も一つ一つは小さいこともあって、アクア・バレット一回で10発分の水弾を30MP程度で放つことができた。ちなみに「形体付与」「硬化」「射出」は対象となる水の質量によって消費MPが変動するようだ。
なので、小さな弾丸を飛ばすアクア・バレットはMP効率がそこそこ良い。
ただし、『魔力精密操作』でオーバーブーストしなければ、平サハギンはともかく上位種や黒サハギンたちは倒せない。
オーバーブーストしたアクア・バレットは一回10発で50MPの消費だ。
それでも全弾命中させれば、一回の狩りで200体近くのサハギンを狩ることが可能だ。
凄まじい勢いで、俺のレベルが上昇していく。
もはやサハギンたちが、はぐれメ◯ルにしか見えないくらいだ。
俺はウキウキとした気分で、どんどんサハギンたちを虐殺していく。奴らは倒しても倒しても、一向に数が減った気がしない。毎日数百体のサハギンが生まれているのだから当然だが、俺の殲滅速度の方が僅かに上回っているはずだ。
となれば、いずれはサハギンたちも駆逐されてしまうだろう。
そのことをちょっと残念に思いながらも、俺は魔法を放つのを止めない。RPGではストーリーを進めることよりも、レベルを上げることに心血を注いでいたタイプなので。
そうしてサハギンを倒しまくった五十一日目、気がつくと新しい【称号】が増えていたんだ。
それがこれ。
『サハギンキラー』――サハギン族を累計100体以上倒した者に贈られる称号。サハギン族に対して与えるダメージに上昇補正・小。
どうやらサハギンに対してダメージを与えやすくなる効果があるみたい。
楽園小島へ帰る前にちょっと試してみたんだけど、この称号の効果で上位種サハギンまでなら通常のアクア・バレットで倒せるようになっていた。黒サハギンはまだ無理だけど、これで狩りの効率がアップするのは間違いない!
転生五十二日目。
今日も元気にサハギン狩りだ!
俺は第二楽園島へ転移すると、さっそく洞窟に「空間識別」を展開した。
居るぜいるぜ! 今日もサハギンどもが大量にいるぜ!
嬉しくなって、すぐにアクア・バレットをサハギンの群の中に撃ち込んだ。
平サハギンも上位種サハギンも黒サハギンも、目につく端から経験値へと変えていく。だが、やはり相変わらず倒せない存在がいた。
誰かと言えば、キングとクイーンのことである。
『サハギンキラー』で強化されたアクア・バレットをさらにオーバーブーストした一撃なのだが、サハギンキングとサハギンクイーンにはかすり傷一つ与えられないのだ。
俺はちょっとむきになって、ダメージ重視で開発した水魔法――アクア・ランスをキングたちに撃ち込んでみた。もちろんオーバーブーストした一撃で、試射では大きな岩さえ粉々に砕いた魔法なのだが、これも大したダメージを与えることができなかった。
どうもキングとクイーンの強さは、他のサハギンと比べて別格らしい。
今の俺が放てる最強の攻撃魔法が効かないとなれば、俺にはどうしようもない。メタルキ◯グに逃げられたような残念な気持ちでいっぱいだが、気分を切り替えてサハギン狩りに専念した。
流石に昨日に比べてレベルアップの頻度は少なくなってきているが、それでも一日で8レベルも上昇してしまった。
俺にとってサハギンの洞窟は、まさにボーナスステージなのである。サハギンフィーバーだ。
乗り遅れるな、この波に!
ヒャッハァーッ! サハギンさんたちこんにちはー! ごきげんよう! まことにごきげんよう! そして死ね!
転生五十三日目。
皆様おはようございます!
今日も今日とてサハギン狩りだ!!
いつものように第二楽園島に転移した俺は、さっそくサハギンさんたちの様子を窺う。皆元気かしらん? 今日も新しい子たち生まれてるかしらん? 今日も俺と楽しく遊びましょうねぇーッ!!
――と、ルンルンしながら「空間識別」で様子を確認したんだが……、
(――なッ!? ど、どういうことだッ!?)
そこには驚くべき光景が広がっていたのである。
昨日までは確かにウジャウジャとそれなりに広い洞窟内に所狭しと犇めき合っていた大量のサハギンたち。その数がなぜか半分以上は減っており、洞窟内は閑散とした様子を見せていたのだ。
いや、それでもまだまだ、ざっと2000体以上はいるだろうが。
しかし、昨日には5000体以上のサハギンたちが残っていたはずである。
(いったいサハギン君たちに何があったんだ……!? 誰かに殺されたってのか? ゆ、許せねぇ……ッ!!)
誰だか知らねぇが、てめぇに人の心はないのかよぉーッ!!
俺のサハギン君たちを虐殺するという度しがたい行為に、思わず激怒しかけた俺だが……、
(ん? いや、もしかして単に群を分けたってこともあるのか?)
これまでチョイチョイ、サハギンたちが数百体の群を作って出発し、そのまま帰って来なかったことがある。もしかして、それと同じことなのでは、と。その証拠かどうかは分からないが、キングとクイーンは普通に洞窟の中にいた。
まあ、それにしたって一夜にして3000体以上が旅立つとか、かなり急な話だと思うのだが。
サハギンたちが群の半数以上を巣分けするのを決断するような出来事でも起こったというのだろうか?
たとえば、楽園だと思っていた巣の近くに天敵がいた、みたいな。
……う~む、分からん。全く心当たりがないんだぜ。
(まあでも、そんなに嘆く必要はないか)
サハギン君たちはまだ2000体以上いるのだし、おまけにクイーンも健在となれば、減った分もすぐに補充されることだろう。
俺が一日に倒せるサハギンの数なんて、たかが知れているのだから。そう、たかが数百体しか倒せないのだから、然したる影響はないだろう。
ならば何も問題はない。
俺は今日もサハギンたちを狩りまくった。
転生五十四日目。
おいおいおいおいおいッ!!
おーいッ!!
どういうことだってばよ! また減ってんじゃねぇかッ!?
第二楽園島に転移した俺が確認したサハギンたちの洞窟では、昨日よりもさらに数が減っていた。目を皿のようにして洞窟の隅々、周辺海域の隅々まで探したが、全部で500体程度のサハギンしかいなくなっていた。
しかもそのほとんどが平サハギンという有り様。
一応は上位種サハギンや黒サハギンも見られるのだが、その数は両者合わせても全体の1割程度。
少ない。少なすぎる。俺の経験値どこに行ったッ!?
どうやらまたしても、群の半分以上を放流しくさってくれたらしい。いったいキングの野郎は何をしているんだよ!?
俺は怒りのままにサハギンたちにアクア・バレットを撃ちまくった。
この調子で個体数が回復してくれるのか心配だったが、それでもサハギンたちを倒しまくった。次の日にこの洞窟内からサハギンたちが一匹残らず消えていないという保証がないからだ。
今の内にできる限り経験値を回収しておかないと!
ああ、最初はここのサハギンたちを倒し尽くせば次の進化というかレベルカンストまで辿り着けると思っていたが、この調子だとちょっと足りないかもしれない。
平サハギンごときを何体倒しても、経験値の足しになっている気がしない。それでもちょっとずつはレベルが上がっていっているが……。
この日、俺のレベルは三つしか上がらなかった。
しかし、僅かな収穫もあった。『サハギンキラー』の称号が別のものに変化していたのだ。
『サハギンスレイヤー』――サハギン族を累計1000体以上倒した者に贈られる称号。サハギン族に対して与えるダメージに上昇補正・中。
どうやら『サハギンキラー』の効果がアップしたらしい。
レベルアップと称号のおかげで、いまや黒サハギンすらも通常のアクアバレットで倒せるようになった。
転生五十五日目。
おいおい、マジかー……。
今日も今日とて第二楽園島に転移し、サハギン洞窟を覗いてみた俺は落胆を隠せなかった。
昨日、俺はほとんどのサハギンたちを倒してしまったのだが、いつもなら一日に数百体は増えていたはずのサハギンたちが、数十体しか増えていない。
「空間識別」であちこちを調べてみたのだが、サハギンたちの個体数は50体以下にまで減ってしまったようだ。
クイーンの産卵場所である地底湖を覗いてみて、その理由が判明する。
産みつけられた卵の数が、以前とは比べ物にならないほど少ないのだ。
もしかしたら食料が不足しているのだろうか。群の数が減って、狩りによる成果が少なくなってしまったのかもしれない。いや、そもそもこの島周辺は獲物が枯渇気味になっていたのだから、遅かれ早かれ出生数は減少していたのだろうが。
それでも上位種や黒サハギンが多い時は、外洋から巨大な獲物を狩って来ていたから食料は不足していなかったのだろう。
どうする?
このままサハギンたちを狩り尽くしちゃう?
でもそうすると、貴重な経験値がなー。個体数が回復するまで待つという手も、もちろんあるだろうけど。
…………。
俺は少し考えてから、キングに攻撃してみることにした。
もしもキングを倒せるようなら、サハギンたちを駆逐しよう。そうして安全になった第二楽園島でのんびりするのも悪くない。ってか、元々はそうするつもりだったんだし。
――というわけで、俺はキングに魔法を撃ち込んでみた。
まずはオーバーブーストしたアクア・ランスを叩き込む。俺もレベルが上がり、さらに『サハギンスレイヤー』の称号効果もあって、最初の頃よりはダメージを与えられるようになっている。
しかし、それでもなおダメージは軽微だ。このままアクア・ランスをMPが尽きるまで叩き込んでも、キングを倒し切ることはできないと判断。
なので、俺はアクア・ランスに代わる新魔法を実戦投入することにした。
俺の開発した新魔法――アクア・キャノンである。
いや、実はここ数日の戦闘(?)で水魔法のスキルレベルがカンストしたんだよね。んで、新しい魔法を覚えた。それがこれ。
10レベル――「操水の理」
こいつはどうも、「水流操作」「硬化」「射出」の三つを強化するパッシブ系の魔法スキルらしい。
その効果はそれぞれの消費魔力軽減、魔法効果上昇、そして「空中にも水を留めておける」「射出ほどの速さはないが、空中でも自由に水を動かせる」という驚愕の効果であった。
これによって俺は、「水生成」で出現させた水を自由自在に操り、ウォーター・カッターみたいな魔法を開発することにも成功した。ファンタジーにあるアレやコレやの魔法は、だいたい再現できるようになったと言えるだろう。
しかし、単なる破壊力という点では、このアクア・キャノンが一番である。今のところはね。
そのアクア・キャノンだが。
まず「水生成」で2リットルほどの水を出現させ、「形体付与」と「硬化」で砲弾を成形、次に「操水の理」で強化された「水流操作」で砲弾に回転を加えつつ、「射出」で撃ち出すという魔法だ。
「水生成」と「形体付与」以外の工程に『魔力精密操作』でオーバーブーストし、いざ発射!
水の砲弾が着弾したサハギンキングは、トラックに跳ねられたような勢いで洞窟の壁面に衝突した。
しかし――、
(ええ~……マジ? そんなのアリ?)
アクア・キャノンがぶち当たったキングの胴体には、明らかな致命傷となるドデカイ風穴が空いていた。もう少しで体が真っ二つになるほどの大きな穴だ。
だが、その傷口の断面がうぞうぞと蠢き出したかと思うと、見る間に――およそ十秒くらいの短時間で――傷一つない状態まで回復、いや、再生してしまったのだ。
どんな再生能力だよおい。
いやまだ頭がある。頭を吹き飛ばせばさすがに死ぬだろうと思って、二発目のアクア・キャノンを、今度は良く狙ってキングの頭部に命中させた。
キングの頭は木っ端微塵になって吹き飛んだ。
そして十秒くらいで再生した。
何なのこいつ?
ちょっと滅茶苦茶すぎない? 再生能力高いにも程がありすぎない?
あれでは何回アクア・キャノンを叩き込んでも倒しきれるとは思えない。俺はキングとクイーンを倒すことを諦めた。
しらばく待って群の数が回復したところで、また経験値を稼がせてもらうとしよう。
そんなわけで、俺は楽園小島の方へ転移で帰った。




