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方向音痴の友人

作者: aqri

「今どこにいる」

『私今どこにいると思う?』


 電話がかかってきたので先手必勝を狙ったけどダメだった。かぶった。

 方向音痴の友人はこういうことがしょっちゅうだ。これだけなら地図アプリ使えばいいじゃん、となるがあいにく追加カードをドローしていて機械音痴でもある。ガラケー、そしてウェブ代が高くなるからとネットは絶対繋げない。ポケット地図帳を持ち歩いているが、まともに読めたためしがない。東西南北を上下左右だと認識してる。


「まず、何が見える」


 目印大事。


『えっと、コンビニとポストと信号』


 方向音痴の特徴その一。場所を特定できない日本全国どこにでもあるものを目印にする。これはもう慣れた。


「わかった、電柱に何番地って書いてある」

『えーっと。うん、書いてないパターンだ』


 書いとけよ、RPGのさびれた農村だって観光地かよってくらい村の入り口に「〇〇村」って書いてあるし村人に聞くとここは〇〇村だよって教えてくれるわ。仕方ない、コンビニに聞くように言うか。


『えっとね、あと個人経営のやってるかどうか微妙な八百屋さんと、シャッター半分だけ開いてる弁当屋さんと、暗くて中が見えない駄菓子屋さん』


 うわあ検索に引っかからないタイプの店をチョイスしよる。っていうかちょっと待て。


「ちょっと、今歩いてる?」

『うん、他に目印ないかなと思って』


 方向音痴の特徴その二。よくわからない絶対の自信のもと歩き始める、じっとしてない。これはこの後の展開読めた。


「さっきのコンビニ戻れる?」


 たぶん無理だよね。


『……ここどこ?』


 方向音痴の特徴その三。通った風景を覚えてないので振り返るとそこは見知らぬ土地となる。


「信号機に何か書いてない? どこの何丁目、とか」

『書いてない』


 くっそ、書いてないパターンか。確かに書いてない信号機もあるっちゃあるけどさ。その後も地名となりそうな事が書かれている信号機を探してウロウロ歩いているらしく、ない、ない、とだけ言いながら時間が経つ。おかしいな、こんなにない事ある? そこまで考えてピンときた。


「まさかと思うけど、アンタ歩行者信号見てないよね?」

『え?車の信号の方なの?』


 やっべ、そういやコイツ免許持ってなかったからわからんのか。方向音痴にとって運転はマグロ漁船に乗るようなもんだよ! と免許を取らなった。いや、カーナビつければいいじゃん。車の極上のコンシェルジュが至れり尽くせりで方向指示してくれるんだが。まあ、三車線の真ん中走ってるのに「目的地周辺に到着しました」って案内終了された時の絶望感やばいけどね。


『あ、見えた』

「ほう」

『二丁目』

「日本全国にあるなあ」

『私……映画館に辿り着けないばかりか家に帰れない気がする』


 家に帰れないというよりその町から脱出できないのが先だな。もしかしたら地獄の二丁目説。いや、落ち着け。まず情報を引き出せ。


「まず整理しよう。安心しなさい、貴方は地球にいる」

『地球』

「ロケット乗ってないでしょ」

『乗ってないね』

「じゃあ地球にいる、確定。おめでとう。そして新幹線や飛行機を使ったかね?」

『使ってない、山手線しか乗ってない』

「よっしゃ来ましたよ、日本確定、しかも都内に絞れました。素晴らしい、指名手配犯が三日以内に逮捕される捜索範囲です」

『あのさ、ちょっと私の事馬鹿にしてない?』

「横浜行くって言って長野行った奴が何言ってんの」

『その節は本当にすみませんでした』


 あれにはびびったわ。中華街行くって言ってたのに、今どこよって連絡したら写真が送られてきて写ってた看板の文字は「上高地」だったからね。いや何で山に中華街があると思うかね。


「山手線は環状線だから、その枠から外れる事はない。RPG並みの歩兵力を発揮しなければ」

『彼ら徒歩で隣国まで行くからね』

「というわけで、止まって。それ以上動くな、フリーズ!」

『はい。あ、人がいる。ちょっと聞いてみる』


 すみませーん、と電話の向こうから住民と会話をする声が聞こえてくる。しかし一方的に友人が話しかける声が聞こえるだけで、相手は一言もしゃべらない。


「ちょっと、聞こえてる? 電話変わってもらってよ私が聞くから」

『うん』


 耳を当てていると聞こえてきたのは。


『テケリ・リ テケリ・リ』


 全身の毛穴が開くかと思った。


「逃げろおおおおおおおおお!!!!」

『ええ!?』


 驚きながらもドダダダ! と走る音がしたので無事逃げたようだ。良かった、こいつが長距離トラック二位の実力者で。


『ちょっとさっきのナニ!? お礼も言ってないよ私!』

「何に話かけてんだ!」

『おばあさんだよ!』


 ガワはまともだったのか。そりゃそうか。とりあえず脳みそがどうにかならずに済んだ。


『結局何なのさっきのは』

「クトゥルフ神話知らないの!?」

『クトゥルフ神話が女子のたしなみみたいな言い方されても。普通知らないでしょ』


 グウ正論。負けた。


「そういやそうだった。まあとにかくちょっとヤバイ神様よ」


 神様だいたいヤバイからなあの神話。いやあれを神と呼んでいいものか。とにかく無事でよかった。え、この土地の場所わかったら絶対近寄らんとこ。


『あ、第二町人発見。すみませーん』


 人間でありますように。っていうか今マジでどこにいるんだコイツは。


『あれ? 日本人じゃないのか。えーっと、キャンユースピークイングリーッシュ?』


 お前が英語しゃべれないだろ。べらっべらに英語しゃべってきたらどうするんだ。


『え? えーっと、あれ、何語だろう。アニョハセ……な、ナマステー!』

「とりあえず諦めて。日本人じゃないの確定だから」


 うう、と落ち込んだ様子で、でもちゃんとありがとうございましたと言ってから再び手がかりを求める。

 あ、と嬉しそうな声がして割と大きな声ですみませーんと声をかけている。


『手振ってくれた。あ、こっちに来てくれる!』

「優しそうな人じゃん」

『やった、飛び降りて来てくれた』

「……飛び降りて?」


 不思議な単語が聞こえた。ちょっとまって、飛び降りてきてくれたって何。降りてきた、じゃなく飛び降りてきたってあんた。

 向こうでは会話が続いている。男の人っぽいな、普通にここはどこどこですよ、と教えてくれてるようだ。いや飛び降りてきたってなんだよ。


『ありがとうございます! 良かった、優しい忍者さんで!』


 NINJA。ジャパニーズニンジャ? はあ? アイエエエエ? ニンジャ? ニンジャなんで?


『バスに乗れば駅まで行けるって! ありがとうございました!』

「忍者?」

『あ、バス来たよ!』

「行き先間違えないでよ、ちゃんと運転手さんに行き先聞いてね。それより忍者って何」

『行き先大丈夫、ちゃんと新宿行きって書いてある! さすが鳩バス、大きいね!』


 はとバスって旅行会社じゃん、普通のバスやってないやろ。いやでもどうなんだろう? 今このご時世旅行なんてできないし、もしや臨時路線バスとか高速バスとかやってる可能性あるか? 新宿って確かはとバス専用のバス乗り場あるもんね。


『ひゃああ! 乗り心地最高~』

「バスくらいではしゃがないでよ」

『風気持ちいい~!』


 そういや屋根がない二階建てバスってあったっけな。そんなの走ってるんだ、いいなあ私も乗りたい。


『すっごい高いよ!景色イイ!』

「鳩のバス!?」


 思わず叫んだ。どうなってんだ、なんだそのバス。いや忍者が紹介するバスならあり得るのか!? もう何がなんだかわかんない! しかも大きいねって、鳩一羽に乗ってんのかよ! 刀〇乱舞の部隊呼び戻しの鳩か何かか!


『もう着いた! バス代100円、やっすい!』

『くるっぷー』


 マジで鳩バスだった。


「もう突っ込みどころが多すぎて何も言えない。あえて言うなら超羨ましい私も乗りたい」


『新宿到着、良かった。で、今どこ? ごめんね、三十分も待ってもらって。新宿駅の中で迷子にならないようにするから、もうこのままリモートして。後でフラペチーノ奢るからオナシャス!』

「いやいいよ。それより、私のお願い聞いて」

『うん?』


 やっとまともに会話できる状態になったので、私はふう、と一息ついた。


「私今から新宿行きたいんだけど、ここからどう行けばいいかわからないんだよね」

『え? ちょっと冗談やめてよ。私じゃあるまいし、迷ったの? 私に聞くととんでもない事になるよ? きさらぎ駅とか行っちゃうよ?』

「あの都市伝説のやつね。大丈夫だよ」

『だよね~』

「もう来てる」

『え?』


 電車乗ってただけなのに気が付いたらご案内されてるんだもんな、理不尽すぎる。


「きさらぎ駅ってどうやって帰れるんだっけ」


 帰れたエピソード、知らないけどね。


END

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